先週、ピアニスト、アレクサンドル・カントロフのリサイタルに2回行ってきました。2019年チャイコフスキー国際コンクールピアノ部門の優勝者。
昨年のリサイタルを初めて聴いた時、その芸術性溢れる演奏に、他のピアニストにはない特別なものを感じたのでした。
2024年のツアーは、川崎、東京、愛知の3か所。
初日の演奏は、11月27日、ミューザ川崎シンフォニーホールで行われました。前の投稿で説明した「夜ピアノ」企画の2回目です。
2日目は、11月30日、サントリーホールで行われました。
2024.11.27 ミューザ川崎シンフォニーホール
曲目:
・リスト:巡礼の年第1年「スイス」より オーベルマンの谷
・メトネル:ピアノ・ソナタ第1番へ短調Op.5
・ラフマニノフ:ピアノ・ソナタ第1番ニ短調Op.28
・バッハ(ブラームス編曲):無伴奏ヴァイオリンパルティータ第2番よりシャコンヌ(左手のための編曲)
アンコールは、
リスト:イゾルデの愛の死(ワーグナー S.447)
2024.11.30 サントリーホール
曲目:
・ブラームス:ラプソディロ短調op79-1
・リスト:超絶技巧練習曲集S.139より第12番「雪あらし」
・リスト:巡礼の年第1年「スイス」より オーベルマンの谷
・バルトーク:ラプソディOp.1 Sz.26
・ラフマニノフ:ピアノ・ソナタ第1番ニ短調Op.28
・バッハ(ブラームス編曲):無伴奏ヴァイオリンパルティータ第2番よりシャコンヌ(左手のための編曲)
アンコールは、
リスト:イゾルデの愛の死(ワーグナー S.447)
シューベルト/リスト:宗教的歌曲 S.562 R.247より第1曲 “連祷”
シューベルト/リスト:宗教的歌曲 S.562 R.247より第1曲 “連祷”
ミューザ川崎シンフォニーホール
ステージに登場して挨拶をし、ピアノに向かった瞬間、観客がいることを忘れたかのように曲の世界に入ってしまう。
痩せ型、気取ったところもないし派手さもありません。
今回のプログラムは全て難曲で、ほとんどが彼の得意の超絶技巧。
人間の指でここまでできるのかと思えるほどの超高速で力強い指の動き。それでいて、メロディーの骨格はしっかりしていて、鳴らす音がはっきり聴こえる。
音の強弱による陰陽表現が自然で美しい。
演奏を聴いていると、色彩や情景が浮かび、ストーリーが描かれているような感覚になり、どんどん幻想の世界に引き込まれて行くのです。
11/27の前半のリストからメトネルまで、曲間、楽章の間に休みを入れず、演奏に集中。拍手や挨拶は無用、静寂も呼吸も音楽の一部、と感じさせたいのでしょうか。
曲の世界に引き込まれて息を凝らしながら演奏を聴いている観客の中に、この静寂を咳で破ってしまう人が数人。
11/30の方は、前半のブラームスからバルトークまでの4曲、これも曲間、楽章の間に休みを入れません。4曲には関係性があって、1つの曲として考えていたのかもしれません。
その曲間で、大きな咳。それも怪獣か恐竜の鳴き声かと思えるような咳がホールに響き渡りました。演奏中にやられなかったのは幸いでしたね。(苦笑)
サントリーホールの座席から
両日とも、後半にラフマニノフのソナタ。音の重ね方や色彩がとても美しい。ラフマニノフよりラフマニノフ以上…?
ラフマニノフはロシア人ですが、カントロフの弾くラフマニノフはロシア&フランス風?なのか、何か違います。
カントロフのお父さんはヴァイオリニスト、ジャン=ジャック・カントロフ。フランス人ですが、ユダヤ系ロシア人。
この卓越した才能は、彼のルーツから来ているのか、とも思いたくなります。
何回でも聴きたい演奏です。
最後のバッハのシャコンヌ、一度舞台袖に戻ってから演奏します。この曲は、バッハのヴァイオリンの曲をブラームスが、右手を故障したクララ・シューマンのために左手だけのために編曲したもの。
バッハ入魂のこの曲を、左手だけで祈りを込めて演奏するその表現の豊かさには心打たれます。
曲終わり、最後の一音を押しながらそのまま静止。20秒ほどの静寂の後、頭を上げ、大きな拍手が沸き起こります。
感動的でした!
この人は、桁違いにすごいピアニストです。
サントリーホール前カラヤン広場のクリスマスツリー