日本語を解さない海外の人を笑わせるのは難しいだろう。どんな落語の名人が熱演したところで言葉が分からなければ爆笑は期待できまい▼笑わせる方法はある。作家の中島らもさんが日本のギャグ芸人の海外公演に付き合ったときの話がある。言葉が通じなくても笑いを誘う「技」があることを知った。それは「こける」「口の中に入れた握りこぶしが抜けなくなる」などの身体を使ったギャグと「うんち」。不格好な動きと愚かさ、下品さは言葉が通じずとも笑いを生む。プラトンが笑いとは「他人に対する優越感」と説いたのを思い出す▼この人も海外で笑わせるコツを知っていたのだろう。サソリを口に入れる、毒グモを顔に這(は)わせる、おしりに挟んだサボテンを折る…。体を張ったむちゃな芸で世界を笑わせた「電撃ネットワーク」。リーダーの南部虎弾(とらた)さんが亡くなった。72歳▼節度とは縁遠く、子どもにはあまり見せたくない芸かもしれぬが、規格外の「ばかばかしさ」は言葉の壁を軽々と乗り越え、世界を笑わせた。どんなことをしてでも笑わせる。そんな凄(すご)みも潜んでいた▼ある国の女王陛下の前でも品のない芸を披露した。女王は嫌がって手で顔を覆っていたが、指の隙間からしっかりと見ていたそうだ▼人間の根源にある笑いを引きだす南部さんと電撃の芸。どんな方でもあらがうことはできなかったとみえる。