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今日の筆洗

2024年01月30日 | Weblog
 黒沢明監督の映画「用心棒」(1961年)の主人公の浪人(三船敏郎)は身元を隠し、偽名を使った。桑畑を見て、「桑畑三十郎」と名乗るとはとぼけている。続編の「椿三十郎」の名は目にしたツバキの花からだった▼「内田洋」。1970年代の連続企業爆破事件に関与したとして指名手配されていた桐島聡容疑者とみられる男が使っていた偽名である▼「桐島」本人だとすれば、50年近く逃亡していたことになる。例のない長さだろう。男は29日、死亡した。がんを患い、入院していた病院で「最期は本名で迎えたい」と桐島を名乗ったという。「内田洋」は働いていた土木工事会社で使っていた名で、少なくとも数十年そう名乗っていたという。その名はどこから思いついたか。つまらぬことがひっかかる▼企業名の「内田洋行」やあの時代の「内山田洋とクールファイブ」が浮かぶ。その名で逮捕におびえながら暮らしてきたのか。迫る死期に桐島を名乗ったのは死ぬまで逃げたという意地かもしれないが、それは愚かで悲しい意地だろう▼交番でよく見かけた桐島容疑者の手配写真は当時の若者らしい長髪で歯を見せて笑っている。この50年、あの写真のように心から笑えた日があったか▼広島県の出身と聞く。カタカナで「ウチダヒロシ」と書いてみる。本当は帰りたかった「ヒロシマのウチ」と読めてしかたがない。