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今日の筆洗

2021年01月17日 | Weblog
 ピアノの発表会。いざ特訓の成果をと弾きだそうとするが曲が思い出せない。さっきまであったはずの楽譜も消えている。どうしよう。…と、ここで、毎回、夢は覚めるらしい。子どもの時、ピアノを習っていた友人がよく見る夢だそうだ▼若い時の経験に基づく怖い夢にうなされるということはどなたにもあるのではないか。歌人の斎藤茂吉は試験の夢だったようだ。こんな歌がある。<試験にて苦しむさまをありありと年老いて夢に見るはかなしも>。一九三一年というから五十歳近い。いくつになっても夢に見るほど試験の不安と緊張はなかなか忘れられるものではない▼大学入学の共通テストが始まった。今年の<試験にて苦しむさま>を思えば胸が痛い。ただでさえ、心落ち着かぬ入試に今年はコロナ禍が加わった。感染対策にも気を使いながらの日々は受験生や家族にも大きな負担だったはずだ▼間の悪いことに新制度導入で今回から試験の内容も変わってくる。どんな傾向の問題が出るか。コロナと新制度の重荷。大人になってからどんな夢を見るかと同情する▼<朝たちて試験に行きし長男ををさなのごとくたまゆらおもふ>。これも茂吉。今度は長男の受験を心配している。自分の苦しい経験があるからだろう▼ガンバレ受験生。怖い経験だが、こんなに家族やまわりが応援してくれる日々は人生にはそうそうない。

 


今日の筆洗

2021年01月16日 | Weblog

 ギリシャの神殿に「身の程を知れ」といった意味の言葉が掲げられていた。ソクラテスは文字どおりに理解した。「汝(なんじ)自身を知れ」は、モットーになる。宗教評論家ひろさちやさんの著作に教わった言い伝えである。古代ローマではこの言葉が骸骨の絵に添えられた。「やがて消える身」と理解した貴族は享楽的に生きる道を選んだという▼まったく同じ言葉でも、受け取る意味は人や時代により、戒めにも歓楽の勧めにもなる。ビル群や道路といった窓の外の光景もそこから何を感じ取るか、変える時が来ているかもしれない。そう思わせるニュースが最近あった▼イスラエルの研究機関によると、人がこれまでにつくったものの総量が一兆トンを超え、動植物などに由来するものを上回った可能性がある。想像が難しいが、ニューヨークの人工物は世界の魚の重さと同等になっているらしい▼驚くのは速さで、百年で急激に増えた人工物は、二十年後に生物由来の倍になる。素人目にも大変に思える地球への負荷だ▼環境も食糧や資源の供給も、経済成長重視が続く限り、破綻が避けられないという主張を見るが、説得力を与える研究成果に思える。街のコンクリートや金属から、成長の成果ではなく戒めや警告を読み取るときではないか▼あまり見たくない事実は、往々にして見るべき事実である。我々自身を知る時が来ていよう。


今日の筆洗

2021年01月14日 | Weblog

 戦争中、天皇の居間には二枚の肖像画が飾ってあった。一枚は進化論のダーウィン。もう一枚は敵国米国のリンカーン大統領だった…▼<金鵄(きんし)輝く日本の栄ある光身に受けて>。一九四〇年の奉祝歌「紀元二千六百年」。毎日練習させられた小学生はこんな替え歌を口にした。<金鵄上がって十五銭、栄ある光三十銭>。金鵄も光も当時のたばこの名…▼訃報に著作を読み直せば止まらなくなり、当欄の締め切りを忘れたかった。「日本のいちばん長い日」などの作家、半藤一利さんが亡くなった。九十歳。膨大な資料を読み解き、推理する力、いかに悲惨な歴史を描こうとも、ほどよいユーモアを忘れぬ文章。われわれは腕利きの「歴史探偵」を失った▼「絶対」という言葉を使わない人だった。東京大空襲で九死に一生を得た。日本が絶対に勝つ、焼夷(しょうい)弾は絶対に消せると教えられたが、絶対なんかなかった▼そのおかげだろう。何事にも眉につばをつけ、小さな出来事や庶民の記憶をも丹念に積み上げる手法はのっぺらぼうになりやすい歴史に人間の「体臭」を与えてみせた▼開国、日露戦争勝利、第二次世界大戦敗戦、バブル経済…。日本の歴史はだいたい四十年周期で大きく動くと考えていた。そろそろ、次の四十年となるのか。先は見えぬ。過去の失敗を忘れるな。戦争はならぬ。そう説いた人が旅立つ。なんとも心細い。


今日の筆洗

2021年01月13日 | Weblog
 <もういくつ寝るとお正月>−。一月も半ば近くになって童謡「お正月」もあるまい。あのコラム書きもいよいよ血迷うたかと思われるだろうが、米国のトランプ大統領の退任を待ちわびる人にはやはり<もういくつ寝ると>なのだろう▼バイデンさんの大統領就任式は今月二十日。あと一週間ほどでトランプさんは政権からいやでも去ることになるのだが、トランプさんを許せぬ米民主党はその一週間でさえ待ちきれないとみえる。トランプ大統領の弾劾手続きに向けて動きだした▼政権の灯火は待てば消えるが、一分一秒でも早く、その火を吹き消したいという気分は分からないでもない。米国の民主主義の汚点となった、一部のトランプ支持者による連邦議会襲撃事件。支持者をけしかけたのはどう考えても、選挙結果を受け入れなかったトランプ大統領である▼政権の終わりが近づく大統領が次にどんな行動をするのか分からないという恐怖心や不信感も弾劾の裏にはあるのだろう▼大統領が核兵器のスイッチを握っているという事実も頭をかすめる。無論そんなことは起こるまい。それでも連邦議会が占拠され、五人が死亡するような事態が起きることを誰が想像できただろうか▼弾劾の動きにトランプ支持者が反発し、さらに過激な行動に出るのではないかという見方もある。<もういくつ寝ると>米国は落ち着くのか。