寅の子文庫の、とらのこ日記

本が読みたいけど本が読めない備忘録

カラーブックス300【雲の表情】

2005年10月25日 06時06分26秒 | カラーブックス
最近は気象ブーム盛ん。テレビにラジオにお天気お姉さんは引っ張りダコ。書店を覗いてみても、気象に関係する書籍が賑わいをみせています。よく、そんな一冊を手に取るのですが、通り一遍の解説にカラー写真がきれいなだけでちっとも面白くないような気がします。しかしこのカラーブックス300【雲の表情】は何度読んでも飽きないのです。夜、フトンの中で寝入るまでの束の間、ページをめくってワクワク楽しい本なのです。

著者の伊藤洋三さんは野に在って気象の専門ではありませんでしたが、二十歳前後より雲の写真を撮りはじめ、遂にはその生涯を賭け、雲とその写真に飽くなき探究を捧げました。自ら撮った一片の雲を日常生活の断面から、或いは古い文献を紐解きながら、また気象学上の見識から解説するその文章には、読み手である私を容易に受け入れてくれる豊かなお人柄と、奥行きの広さのようなものを感じてなりません。56~57頁には私の好きなスカンジナビア号も載っています。船上高く浮かぶ羊雲の解説の終わりに、昭和48年10月16日撮影と日付を見つけました。すると、現在からその日付に向かって記憶を辿り、いつの間にか、その日・その時歩いた同じ空間を共有しているかような気がして、一気に親しみが募ってくるのです。【雲と人生】と書いた標題の中で伊藤さんはこう結んでいます。『~私の念願はいつまでも、平和で美しい雲の姿を写し続けてゆきたいということです。』と・・・そして94ページの最後の写真には【飛行機雲】と題して、昭和20年2月15日、あの忌まわしい名古屋大空襲の空に残った飛行機雲を掲載しています。往く雲を愛し、生涯雲を撮り続けた一人のカメラマンの人生がこの一冊には収まっているのです。


こちらはやはり伊藤さんの、現代教養文庫から出された【雲~春・夏・秋・冬 昭和37年初版】
内容は重複している頁もありますが、どの頁も味のある写真が胸に迫ります。


伊藤さんは昨年故人となられましたが、私も伊藤さんにならい、雲の表情をほんの少しずつでも見て取れるようになりたいと思います。

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