
東京発長崎行き『寝台特急さくら』は明朝長崎到着で半世紀に亘る営業の幕を閉じる。底冷えのする夜の沼津駅・人影まばらな2番ホーム西端、19時53分定刻発車に立ち会う。立会人はくだんの親子3人と御殿場から70cmのドカ雪を掻き分けてきたご婦人方三名。思いは皆同じ、カメラ片手にホームの隅で臨時の座談会に花が咲いた。
『何が新しく生まれた美しさで何が失われた大切なものか』それをいつも考えなさいと柳田國男は言う。今回一連の船や電車に適切かどうかは判らないが、しかし人生の一時期を自身の血肉と化し、共に精一杯時代を駆け抜けて来た戦友?との別れは辛い。スカンジナビア然り、さくら然り・・・失われていくもののなんと多さよ。今必要なことは、せめて前を向いて、新しく生まれてきた美しさを見つけられる眼を磨くことかも知れない。
ちょっと嬉しい事は、大きなデパートがある沼津に買い物に行く事でした。行き来には御殿場線を使いましたが、電化前で蒸気機関車やディーゼルかーが主流でしたの。駅のホームには、いつも重油?や石炭の匂いが漂っていました。行程も今よりかなり時間がかかったように思います。スイッチバックの築堤や、畑の中に建てられた電化製品の大きな宣伝看板。当時の車窓には、ゆっくりゆっくり流れ去って行った光景があります。どの光景も、どの音も、どの匂いも私の心に刻まれた、今は無き惜別の宝物です。
さくらの最後の勇姿、良かったですよ。ちょうど御殿場から3人連れのご年配のご婦人方とご一緒してとても楽しいひとときでした。さくらを見送った後、記念に1枚撮ったのですが、まだ写真を送っていませんでした。今日これから、封書を出そうと思います。