過ごしやすくて気持ち良い秋が、一番好きな季節。私の集落には、中秋の名月に子供たちが集落中の家の玄関先にお菓子を貰って回るという、ハロウィンに似た風習があります。私も子どもの頃貰いに行っていて、それはいつの時代も子ども達の大きな楽しみです。
我が家では、玄関をいい雰囲気にして迎えます。こういう行事には、うちみたいな古い木造の家は合うのです。なにも特別な物を買ったりお金を使ったりしません。ちょっとしたことを幾つかやるだけで、子どもも大人も喜ぶ小世界は作れます。 秋の夜のお客さま
玄関を開けて目の前に見える突き当りの壁には、捨ててあるのを拾ってきた暖かそうな生地の茶色い布を画鋲で張り、そこに例えばターナーとかミレイとかラスキンといったラファエル前派の絵画を掛けたり、ほおずきなどの秋の植物をまるで這っているような動線であしらいます。植物は、そこら辺に生えているのをとってくればいいのです。もし、モリスみたいな柄の布やカーテンまたは紙や、ゴブラン織りのタペストリーがあればそれを壁にバンと張るだけでとてもいい雰囲気でしょう。
William Morris as real Socialist
お菓子を置く台は、色気もなにもないテーブルやダンボールでもよくて、そこに秋らしい布――例えば濃い赤、茶色、ゴブラン織り、植物や花の柄、唐草模様etc―――をかけます。柄は、ある程度複雑な模様がいい。昔の布や壁紙の方が今の製品よりも芸術性は優れています。最近日本で製造されているのは、柄が単調なコピペの平坦な物が多く、ぐっときません。 布で覆えばいい ジブリ映画のインテリア
その隣には壊れた木の椅子を置いてそこに、続かなくてお蔵入りのヴァイオリンを置いて飾ります。とても綺麗な金色がかった茶色です。ここにも秋の植物を這い伝わせます。
そして大事なのが照明。柱についているブラケットの裸電球を点け、もう1つの天井の梁についている裸電球は点けないでおきます。そしてお菓子の台と隣の壊れた椅子に向けてスポットライトを照らします。これは、蚤の市で買ったアンティークのテーブルランプが丁度いい。蝋燭を両脇に灯すのも本格的で素晴らしいのですが、ずっと番をしていないと心配です。
音楽は、ちょっと暗くて秘密めいたクラシックをかけて、子ども達を不思議な世界に誘います。ヴァイオリンやチェロなどの弦楽器やオーボエとピアノの、二重奏~四重奏がいい。
マリーの金婚式 ベートーベンのクロイツェル 、シューベルトのセレナーデなど。 La Cinquantaine - Gabriel Marie. Cello Fritz & Hugo Kreisler -La Cinquantaine 共感覚の一致 美しく青きドナウから始まった
チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲は秋にぴったりですが、大人数のオーケストラなのでやめておきます。ここでは壮大さではなく貧乏な籠り感が合うのです。これ程我が古家が魅力として活かされる機会があるでしょうか。レコードの機材もあるので、本当はそれがいいのですが。レコードは、パチパチと言いながら角が丸くて暖かい音、ときに物哀しい音がします。 粗い方がいい トタン屋根に大雨 MDの音
これもいいでしょう。外国の物語を、英語やフランス語、ドイツ語などで朗読している音源を流すのです。同時に音楽も小さく流す。そして、家の者は出て来ず子ども達を応対せず、年季が入って変色した紙に謎めいた文字で書いて案内します。お化け屋敷のような体験になるでしょう。玄関を開けるとHaunted Mansionのような叫び声が鳴るしかけができたらホラーな雰囲気は満点。家の主が出て来なくても、却って強烈なコミュニケーション体験というのは、できるのです。