戦後間もなくの話です。
その町医者は元
満州で陸軍病院の院長でした
満州、陸軍と聞いただけで
敗戦前後に我先に逃げ出し
開拓民を置き去りにした
あの怒り心頭の話を思い出します
が
この町医者の場合は・・・
敗戦で引揚げるとき
町の住民が泣いて
「とどまってくれ」と懇願した
というのです。
陸軍病院の院長でありながら
地元の住民に広く診察を開放していた
のですね。
でも引揚げねばならないと決まると
住民たちは彼に「虎の敷物」を
贈ったのです。
私はその敷物のある家にしばらく
住んでいました。
この町医者は私の伯父だったからです。
でも引揚のあのどさくさのときに
「虎の敷物」をどうやって運んだ?
はるか昔の話で
もはや尋ねることもできませんが
小さな小さなエピソードです・・・