その家の主は、たぶん、もう帰って来んじゃろう?
そう思いだして何年経ったろう?
それまでたま~に娘さんが帰って来とるのを
見かけたことはあるんで、今度、見かけたら
声をかけてみよう。
そう思うてからも何年も経つ。
今日、たまたま家の周りの草引きに
娘さんと帰っておられるのを見て声を掛けた。
当時も美しかったが、今も衰えてなかった。
じゃが最初に声をかけたのは娘さんの方で
タオルやマスクで顔を隠しておられたんで
分からんかった。
『なにか? ながく留守してましたんでご迷惑でも?』
「いやいや、当分空き家状態じゃったんで
もう帰って来られないんだろうと思い、
もし、娘さんでも帰って来られたのを見かけたら
声をかけてみようと思うとったんです」
「もし、もうここに帰って来る気がなくて
手放されるおつもりなら・・・と思って」
『ああ、そうゆー事ですか?
まだ母が元気でおりますんで
そのような気持ちは、今ないのですが』
でも近い将来そのような事になるだろうと
予想されたんじゃろうね?
真剣に話を聞いてくれんさった。
50年ほど前に、この娘さんのお姉さんに
ワシは恋しとった。
そんなことも淡い思いでとして蘇ったよ。