The Basics "Lookin' Over My Shoulder" [Official Video]
夢の途中 来生たかお・セーラー服と機関銃・adobe Film Process
Permanents(田中和将&高野勲 from GRAPEVINE) with 阿部芙蓉美 - エレウテリア @ZIG ZAG SHOW
Alice in Wonderland White Rabbit Jefferson Airplane RexRed
(ちんちくりんNo,36)
その時は有難く思いながらも断った。未だ迷い続けている自分が素直に"はい"とは言わせなかった。
「よかったよ。君が来てくれて」
横山先生は今年五十になる中年男の落ち着いた声とともに、剃り残しの目立つ頬を撫でながら、優しい笑顔を僕に見せてくれた。
「いや、一回断ったはずなのにありがたいです」
「はは、一昨日学校に来てくれた時には本当に嬉しかったよ」
僕は横山先生に感謝の言葉を述べながら、バッターボックスの方を見た。三番バッターか・・・。確か、うちの中学校の野球部男子。ピッチャーは小学生らしき小柄な女子。ネクスト・バッターズ・サークルには前の回、ピッチャーをしていた靖が控えていた。ベンチに座っている面々を見ると小学生や他の中学校の生徒たちに交じって知った顔がちらほらと。それは相手側も同じで守備についている中には知った顔がいる。一塁側で出番を待って声を張り上げているものの中にも。
それにしても、審判は何者か。アンパイアは多分別の小学校か中学校の教員なのだろうが、一塁、二塁、三塁の三人と線審の二人の五名は若く、僕と変わらない年齢にみえた。多分、向こうの方で試合をしている二チームも同じような構成で試合をしているのだろう。
「審判の若い連中は?」
「ああ、ボランティア。うちの大学のボランティア・サークルの面々だね」
「うちのボランティア・サークル・・・」
「そう。そもそも今日のような企画も彼らのお陰で成り立っている」
"ボランティア・サークル"と聞いて、僕はどうもその趣旨というか、何故ソフトボールの企画とか審判をすることが、ボランティアに繋がるのか理解することが出来なかった。ボランティア、といったら老人ホームの慰問とかでは・・・。
「ここに来ている子供たちは、もともと何らかの事情がある子供たち」
「えっ」
僕の微かな狼狽えを楽しむように覗いたあと、「おお」横山先生は打席の方を見遣ったので、僕もまた釣られて見た。小柄な女の子ピッチャーが一旦グラブを胸に置き、静止したかと思ったら右腕を鞭のようにしならせ一回転、下手から一瞬放たれるボールが見えたと思った時にはもうボールはキャッチャーのミットの中で、うちの三番バッターの金属バットは空を切っていた。キャッチャーまでの距離は野球よりソフトボールの方が短い。しかも下手から投げる球はホップするので、プロ野球の選手でも社会人ソフトボール・ピッチャーの球をとらえるのは160㎞/hの球を打つのに等しいらしい。「三振しちゃったね」横山先生はちょっと悔し気に片目を瞑った。
「例えば、家に引きこもっちゃうとかね・・・」
「・・・・・・」
「親が勉強することを極端に強要されてる子。酷い虐めに遭っている子、家での虐待を受けている子。家が商売屋で勉強が出来ない、親の強烈な圧によって将来を決められちゃってる子。―色々だね。ボランティア・サークルはそういった子たちに何らかの形で寄り添う為に存在する」
「引きこもりに、虐め・・・親の圧力、将来か」
「勿論、僕たちも協力しているし、本来は僕たちがやるべき事なのだけれどね。彼らには感謝している・・・」
「あの子は?あの子もなにか」
僕は次に四番としてバッターボックスに立った靖の方に顔を向けた。靖は教育実習中僕の授業で率先して皆をまとめるリーダー役になってくれた子だ。明るく機転が利き、聡明な子である。とても虐めとかそういうことがあった子には思えない。「そう、例えば靖は―」横山先生は今度はとても重たそうに口を開いた。
夢の途中 来生たかお・セーラー服と機関銃・adobe Film Process
Permanents(田中和将&高野勲 from GRAPEVINE) with 阿部芙蓉美 - エレウテリア @ZIG ZAG SHOW
Alice in Wonderland White Rabbit Jefferson Airplane RexRed
(ちんちくりんNo,36)
その時は有難く思いながらも断った。未だ迷い続けている自分が素直に"はい"とは言わせなかった。
「よかったよ。君が来てくれて」
横山先生は今年五十になる中年男の落ち着いた声とともに、剃り残しの目立つ頬を撫でながら、優しい笑顔を僕に見せてくれた。
「いや、一回断ったはずなのにありがたいです」
「はは、一昨日学校に来てくれた時には本当に嬉しかったよ」
僕は横山先生に感謝の言葉を述べながら、バッターボックスの方を見た。三番バッターか・・・。確か、うちの中学校の野球部男子。ピッチャーは小学生らしき小柄な女子。ネクスト・バッターズ・サークルには前の回、ピッチャーをしていた靖が控えていた。ベンチに座っている面々を見ると小学生や他の中学校の生徒たちに交じって知った顔がちらほらと。それは相手側も同じで守備についている中には知った顔がいる。一塁側で出番を待って声を張り上げているものの中にも。
それにしても、審判は何者か。アンパイアは多分別の小学校か中学校の教員なのだろうが、一塁、二塁、三塁の三人と線審の二人の五名は若く、僕と変わらない年齢にみえた。多分、向こうの方で試合をしている二チームも同じような構成で試合をしているのだろう。
「審判の若い連中は?」
「ああ、ボランティア。うちの大学のボランティア・サークルの面々だね」
「うちのボランティア・サークル・・・」
「そう。そもそも今日のような企画も彼らのお陰で成り立っている」
"ボランティア・サークル"と聞いて、僕はどうもその趣旨というか、何故ソフトボールの企画とか審判をすることが、ボランティアに繋がるのか理解することが出来なかった。ボランティア、といったら老人ホームの慰問とかでは・・・。
「ここに来ている子供たちは、もともと何らかの事情がある子供たち」
「えっ」
僕の微かな狼狽えを楽しむように覗いたあと、「おお」横山先生は打席の方を見遣ったので、僕もまた釣られて見た。小柄な女の子ピッチャーが一旦グラブを胸に置き、静止したかと思ったら右腕を鞭のようにしならせ一回転、下手から一瞬放たれるボールが見えたと思った時にはもうボールはキャッチャーのミットの中で、うちの三番バッターの金属バットは空を切っていた。キャッチャーまでの距離は野球よりソフトボールの方が短い。しかも下手から投げる球はホップするので、プロ野球の選手でも社会人ソフトボール・ピッチャーの球をとらえるのは160㎞/hの球を打つのに等しいらしい。「三振しちゃったね」横山先生はちょっと悔し気に片目を瞑った。
「例えば、家に引きこもっちゃうとかね・・・」
「・・・・・・」
「親が勉強することを極端に強要されてる子。酷い虐めに遭っている子、家での虐待を受けている子。家が商売屋で勉強が出来ない、親の強烈な圧によって将来を決められちゃってる子。―色々だね。ボランティア・サークルはそういった子たちに何らかの形で寄り添う為に存在する」
「引きこもりに、虐め・・・親の圧力、将来か」
「勿論、僕たちも協力しているし、本来は僕たちがやるべき事なのだけれどね。彼らには感謝している・・・」
「あの子は?あの子もなにか」
僕は次に四番としてバッターボックスに立った靖の方に顔を向けた。靖は教育実習中僕の授業で率先して皆をまとめるリーダー役になってくれた子だ。明るく機転が利き、聡明な子である。とても虐めとかそういうことがあった子には思えない。「そう、例えば靖は―」横山先生は今度はとても重たそうに口を開いた。
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