財務省主計局長 佐藤鯖江の場合
今から数年前、
あの日は冬の寒さが一段落し、
冬の最中だと云うのに
さながら11月の小春日和を思わせるような
季節外れの穏やかな一日だった。
鯖江の夫 石松は、
仕事で大型商業施設(ショッピングモール)
のテナントへの商品の配達途上、
急に飛び出してきた猫を避けるため、
急ハンドルを切った。
その時の大事故で
鯖江が救急病院に駆け付けた時、
既に虫の息だった。
鯖江は半狂乱になって、
石松にしがみ付く。
一緒に駆け付けた幼い子供ふたりは、
小さいながらもその空気から
事の重大さを何となく理解する。
それまで昏睡状態に見えた石松の目が開く。
「おお、庄吉(5)・・・、
瑛太(3)も来てくれたか・・・。
鯖江、済まない、こんな事になっちまって・・・。
後は頼む。この子らを何とか
庄吉、後は頼むぞ・・・。
お前はもう立派な男だ。
母と瑛太を守ってくれ・・・。
今から数年前、
あの日は冬の寒さが一段落し、
冬の最中だと云うのに
さながら11月の小春日和を思わせるような
季節外れの穏やかな一日だった。
鯖江の夫 石松は、
仕事で大型商業施設(ショッピングモール)
のテナントへの商品の配達途上、
急に飛び出してきた猫を避けるため、
急ハンドルを切った。
その時の大事故で
鯖江が救急病院に駆け付けた時、
既に虫の息だった。
鯖江は半狂乱になって、
石松にしがみ付く。
一緒に駆け付けた幼い子供ふたりは、
小さいながらもその空気から
事の重大さを何となく理解する。
それまで昏睡状態に見えた石松の目が開く。
「おお、庄吉(5)・・・、
瑛太(3)も来てくれたか・・・。
鯖江、済まない、こんな事になっちまって・・・。
後は頼む。この子らを何とか
一人前になるまで育ててくれ。
庄吉、後は頼むぞ・・・。
お前はもう立派な男だ。
母と瑛太を守ってくれ・・・。
いいな正吉、
できるよな。
頼んだぞ。
鯖江、
鯖江、
俺がお前たちに
良い人生を送らせてやれなくて済まん。
せめて草葉の陰から
いつもお前たちを見守っているからな。
アバヨ・・・・。」
生命維持装置から
ピーという音がいつまでも流れる。
これからどうして生きて行けば良いのか?
幼い子供ふたり抱えて。
しかも瑛太は弱いながら障害を持っている。
その日から鯖江は人が変わった。
最初の1週間は廃人状態に。
その後、生活に追われる現実に追い立てられるように、
鬼の如く働き始める。
幸い、見かねた年老いた母が田舎から出てきて
庄吉と瑛太は任せろと言ってくれたので、
多い時は一日仕事3つを掛け持ちすると云う、
ハードな生活を繰り返した。
丁度そんな時だったろうか?
海外では大きな危機が迫っていた。
第3次世界大戦の危機
北京オリンピック開催まで
あと数日と迫ったあの日。
ヨーロッパでは武力紛争が一触即発の状態にいた。
ロシアのプー〇ンの呼びかけに呼応し、
中国も極東地域で立って欲しいとの要請は
幾度となくあった。
でも習〇平は渋っている。
国内経済が破綻寸前の最悪の時。
自らの失策から国際的に孤立し、
台湾海峡を挟み、緊張状態にある。
国内の噴青(ふんせい:憤る青年=中国のネット右翼)
たちの跳ね上がった主張は次第に過激化、先鋭化し
国内世論を戦争へと向かわせている。
せめて草葉の陰から
いつもお前たちを見守っているからな。
アバヨ・・・・。」
生命維持装置から
ピーという音がいつまでも流れる。
これからどうして生きて行けば良いのか?
幼い子供ふたり抱えて。
しかも瑛太は弱いながら障害を持っている。
その日から鯖江は人が変わった。
最初の1週間は廃人状態に。
その後、生活に追われる現実に追い立てられるように、
鬼の如く働き始める。
幸い、見かねた年老いた母が田舎から出てきて
庄吉と瑛太は任せろと言ってくれたので、
多い時は一日仕事3つを掛け持ちすると云う、
ハードな生活を繰り返した。
丁度そんな時だったろうか?
海外では大きな危機が迫っていた。
第3次世界大戦の危機
北京オリンピック開催まで
あと数日と迫ったあの日。
ヨーロッパでは武力紛争が一触即発の状態にいた。
ロシアのプー〇ンの呼びかけに呼応し、
中国も極東地域で立って欲しいとの要請は
幾度となくあった。
でも習〇平は渋っている。
国内経済が破綻寸前の最悪の時。
自らの失策から国際的に孤立し、
台湾海峡を挟み、緊張状態にある。
国内の噴青(ふんせい:憤る青年=中国のネット右翼)
たちの跳ね上がった主張は次第に過激化、先鋭化し
国内世論を戦争へと向かわせている。
その声は習○平でも抑えきれない程
無視できない状態にある。
それは非常に危険な兆候であった。
でも今の中国に台湾や日本を攻め、
アメリカと戦争し、勝てる見込みはない。
ようやく世界第2位の経済大国に上り詰めたとはいえ、
まだまだアメリカとの戦力差は大き過ぎる。
習〇平が思い描く世界制覇の計画は、
2035年まで国力と軍事力を高め、
その規模と実力でアメリカを凌駕し、打ちのめす。
今は世界中を舞台にゆるゆると
少しづつ水面下の侵略を続けながら全面衝突は避ける。
今は我慢の時なのだ。
しかも現在、拡大経済成長政策の無理が祟り、
大失速の危機にある。
その状態のまま、国家の威信を賭けた
一大イベント『北京オリンピック』を
迎えようとしているのだ。
ここまで無理して準備してきた
国家高揚のイベントを
戦争で台無しにされてはかなわない。
そうした背景もあり、
それは非常に危険な兆候であった。
でも今の中国に台湾や日本を攻め、
アメリカと戦争し、勝てる見込みはない。
ようやく世界第2位の経済大国に上り詰めたとはいえ、
まだまだアメリカとの戦力差は大き過ぎる。
習〇平が思い描く世界制覇の計画は、
2035年まで国力と軍事力を高め、
その規模と実力でアメリカを凌駕し、打ちのめす。
今は世界中を舞台にゆるゆると
少しづつ水面下の侵略を続けながら全面衝突は避ける。
今は我慢の時なのだ。
しかも現在、拡大経済成長政策の無理が祟り、
大失速の危機にある。
その状態のまま、国家の威信を賭けた
一大イベント『北京オリンピック』を
迎えようとしているのだ。
ここまで無理して準備してきた
国家高揚のイベントを
戦争で台無しにされてはかなわない。
大体多くの日本人は中国とロシアを
固い結束で結ばれたレットチームと認識している。
国際紛争の場でも国連の対立でも
常に国際的合意の必要な案件に反対するのは中露。
人権蹂躙したり、自由を圧殺したり
犯罪行為を繰り返すヤクザ国家や
政権を支援するのは常に中露だから。
確かにこの世のありとあらゆる悪を
協力して蔓延させている両国であるが、
でも少し別の視点で見てみると
必ずしも一枚岩ではない実情が見えてくる。
どちらも覇権主義国家であり、
その餌食にしようとしているターゲットの国々は
その多くが重なっているのだ。
つまりお互いが侵略のライバルであり、
自分より先に自分がターゲットにする国を
奪う行為を当然良くは思わない。
中国の進める一帯一路や
中国の進める一帯一路や
借款や社会インフラ支援で相手国を借金まみれにし、
雁字搦めの状態に追い込む支配術で暗躍する中国。
それに対し、
旧ソ連時代の復活を目指し
周辺国に軍事侵攻を繰り返したり、
親露政権を樹立させる工作を常套手段とする
プー○ン政権。
特に中央アジア諸国での覇権争いは
お互い看過できないのだ。
そうした背景もあり、
習〇平は電話会談で
プー〇ンに自重するよう説得していた。
どうしてもやらかすなら、
せめてオリンピックが終わってからにして欲しいと。
でもプー〇ンは人の話など聞かない男。
国益確保の好機と見たら
ためらわず戦争を仕掛ける強権発動野郎だった。
シリアのアサド支援や
クリミア半島奪取の時も、
アメリカや西側の説得を一切聞いていない。
でも習〇平は当然そんなプー〇ンの我儘に
付き合うつもりはない。
(自分たちも十分我儘で独りよがりだが)
大切なオリンピックという
国家イベントを台無しにされてまで
国の命運を賭けた戦争に巻き込まれるのはゴメンだ。
石松が息を引き取ったその日、
習〇平はプー〇ンに対し、強硬に申し入れた。
「もし、オリンピック(パラも)の期間中、
戦闘行為を興したら、
中国はそれまでの盟友関係を廃棄し、
ロシアを敵とみなす。」
プー〇ンに自重するよう説得していた。
どうしてもやらかすなら、
せめてオリンピックが終わってからにして欲しいと。
でもプー〇ンは人の話など聞かない男。
国益確保の好機と見たら
ためらわず戦争を仕掛ける強権発動野郎だった。
シリアのアサド支援や
クリミア半島奪取の時も、
アメリカや西側の説得を一切聞いていない。
でも習〇平は当然そんなプー〇ンの我儘に
付き合うつもりはない。
(自分たちも十分我儘で独りよがりだが)
大切なオリンピックという
国家イベントを台無しにされてまで
国の命運を賭けた戦争に巻き込まれるのはゴメンだ。
石松が息を引き取ったその日、
習〇平はプー〇ンに対し、強硬に申し入れた。
「もし、オリンピック(パラも)の期間中、
戦闘行為を興したら、
中国はそれまでの盟友関係を廃棄し、
ロシアを敵とみなす。」
どうして同盟国に対し、
そこまで強硬な態度をとる?
実は前回の北京オリンピックの開催期間中に
ロシアはグルジアに軍事侵攻している。
(北京オリンピックは2008年8月8日〜8月24日、
グルジア侵攻は同年8月7日〜8月16日)
中国にしては
「またか」との思いが強い。
だから習〇平は本気だった。
さすがにプー〇ンも考える。
更にアメリカはウクライナに軍事支援の名の下、
核を搭載した中距離ミサイルを密かに配備した。
バイデンはその事実を知っているのか?
その真偽は定かではないが、
ペンタゴン(アメリカ国防総省)
のロシア側スパイの情報がプー〇ンに伝わると、
ウクライナとクリミア半島に
集結させていたロシア軍を、
段階的に撤収させる行動を見せた。
但し、公式には強硬姿勢を全く崩しておらず、
危機的状況は変わっていない。
ただ一触即発の危機は少しだけ遠のいた。
第三次世界大戦の危機は
こうして回避されたのだった。
(現時点では、こうなって欲しいという作者の願望として
ストーリーに組み込みました)
この世界情勢に全くの無力な日本。
国民は漠然とした不安を抱え、
不甲斐ない日本の政府に不信感を持つようになった。
コロナワクチンの自国生産すらままならず、
アメリカ製ワクチン頼みなのに、
その供給スピードは第一回目の接種も、2回目の接種も、
3回目の接種すらOECD加盟国最下位だった。
政府の対策は心もとなく、
生活困窮者が次第に増えても
全くの無策に等しい対策しか取れていない。
特別給付金の支給も大切だが、
もっと根本的な労働環境、生活環境、
社会インフラの整備が急務なのに、
何一つ手を付けていない。
そんなときに鯖江は慣れないパート労働者の世界に
飛び込まざるを得なかったのだ。
佐藤家の人々と仲間たち
「ただいま。」
「あ、カーちゃんお帰り!!」
庄吉が駆けつけしがみ付く。
遅れて瑛太が駆け寄る。
「庄吉、瑛太はいい子いい子してたかい?」
「うん、瑛太は俺が顔を覗かせると
ほっぺをぴちゃぴちゃさせて喜んでいたよ。」
「俺じゃなくて、ボクでしょ?
何処でそんな悪い言葉を覚えたの?」
そこに昌枝ばーちゃんが口を挟む。
「近所の悪ガキ友達のせいさ。
近頃の子は自分から進んで
悪い言葉を使いたがるからね。」
「悪ガキじゃないやい!
翔平と群治は面白いんだぞ!!」
集合住宅の一室の片隅の
小さな仏壇に手を合わせ、
鯖江は石松に問いかけた。
「あんた、こんな大変になる前に
自分だけ先に死んじゃって狡いね。
あたしゃ今日は疲れたよ。
明日もそのまた明日も今日の繰り返しなのかい?
そう考えるとシンドイね。」
すると仏壇の向こうから、石松の声が聞こえた気がする。
「それもいいじゃないか。
それに明日は今日と同じじゃない。
俺から見たら、
庄吉も瑛太も毎日少しづつ成長しているぞ。
そんな我が子の成長を間近に見られるなんて
そんな幸せは無いんじゃないのか?
俺なんて草葉の陰からしか見られないんだからな。」
「あんた、ちゃんと見てくれていたんだ。
生前は頼りない旦那だったけどねぇ。
これからもよろしゅう頼むよ、
石松の旦那さん!」
「人にものを頼むときは、
もう少し待遇を考えて欲しいね。
せめて仏壇に供物を添える時は、
おちょこ一杯の酒かビールも添えてくれると嬉しいんだが。」
「あんた、何言ってんの?
酒?ビール?
あの世に逝ってまでその物欲は治らないんかい?
ほんとあんたは筋金入りの煩悩の塊りだね。」
「悪かったな。
煩悩の石松ったぁ、この俺の事よ!」
「呆れた、この人、開き直ってるよ。
あの世に逝っても変わらないねぇ。
そんな馬鹿に惚れた私ぁ大馬鹿だね。
こりゃぁ、これからも苦労は絶えないみたいだ。
さぁ、明日も頑張るか・・・。
そこでクネクネ遊んでる芋虫兄弟たち!
もう寝る時間だよ。
ところで母さん(昌枝ばーちゃん)
今日の子供たちの晩御飯は何だったの?」
「今日は庄吉の好きな唐揚げと、
瑛太の好きなコロッケだよ。」
「なんだ、揚げ物ばかりじゃん。
作ってもらってこんなこと云うのなんだけど、
ちゃんと栄養のバランスも考えてね。」
「だって同じ油で揚げるんだもの。
一石二鳥だろ?
それに私だって揚げ物ばかりじゃかわいそう、
そう思ってレタスとブロッコリーも
一緒に出したからね。」
「そう・・・。ありがとう母さん。」
そう言いながら鯖江は考えた。
(そうだ、パートの仕事を一部変えよう。
スーパーマーケットなら総菜コーナーもあるし、
ワザワザ他の食材を買いに行く手間も省けるし、
(年老いた)母さんの負担も減らせるかも?)
そうした経緯から鯖江は
≪スーパー激安≫で働くようになった。
彼女はそれはそれは一生懸命働き、3年を過ぎる頃、
総菜コーナー売り場のチーフを任されるようになる。
そんな立場に立つこと数年、
ついに彼女にも職場の責任者からお声がかけられた。
「ねぇ、鯖江さん、
今度の政府高官一般公募に応募してみない?
時給も今より上がるみたいだし、
ちょっと遠くなるけど通勤手当も実費×2倍だって。
『普通の主婦でもできる』ってキャッチフレーズだし
鯖江さんだったらピッタリだと思うけど。」
「普通の主婦って何よ!
私ぁスーパー主婦よ!」
「訂正します!『スーパーで働く主婦です』の間違いでしょ?」
隣で聞いていた職場仲間の雅代さん(40)
がチャチャを入れた。
職場の同僚の仲間たちが
何処からかワラワラ集まり談笑が始まった。
「このスーパーからスーパースターが出るのね?」
「ばかねぇ、まだ早いわよ!
それに、スーパースターじゃなくて、
スーパーの主婦でしょ?」
「あら、そうかしら?
だって鯖江さんはその強烈なキャラクターでしょ?
面接官はその顔を見るだけで一発で採用請け合いよ。
何せ強烈だもの。」
「失礼ね、私の何処が強烈よ!
マックスファクターの申し子と呼ばれ、
『釈迦曼荼羅―ノ』のお立ち台の舞姫と呼ばれた
この私に向かって。」
「ほら、やっぱり強烈じゃない?
長い年月を経てもその伝説は少しも色あせてないのね。」
「何か複雑!それって褒めてくれてるの?
全然嬉しいと感じないんだけど。」
会話に参加せず、後ろの取り巻きだった男衆は
『釈迦曼荼羅―ノ』のお立ち台の舞姫だったと聞いて
思わずワンレンボデコンの鯖江の姿を想像し、
ひとり、またひとりと無言で去っていった。
かくして果敢且つ無謀にも、
鯖江さんはネット政府が公募した臨時雇いの
政府高官募集キャンペーンに応募した。
そこで竹藪平助達閣僚との運命的な出会いを経験する。
(平助とカエデはスーパー激安の常連で、顔見知りであるが)
つづく
(みたいだよ、でも次回は別の人ね)
だから習〇平は本気だった。
さすがにプー〇ンも考える。
更にアメリカはウクライナに軍事支援の名の下、
核を搭載した中距離ミサイルを密かに配備した。
バイデンはその事実を知っているのか?
その真偽は定かではないが、
ペンタゴン(アメリカ国防総省)
のロシア側スパイの情報がプー〇ンに伝わると、
ウクライナとクリミア半島に
集結させていたロシア軍を、
段階的に撤収させる行動を見せた。
但し、公式には強硬姿勢を全く崩しておらず、
危機的状況は変わっていない。
ただ一触即発の危機は少しだけ遠のいた。
第三次世界大戦の危機は
こうして回避されたのだった。
(現時点では、こうなって欲しいという作者の願望として
ストーリーに組み込みました)
この世界情勢に全くの無力な日本。
国民は漠然とした不安を抱え、
不甲斐ない日本の政府に不信感を持つようになった。
コロナワクチンの自国生産すらままならず、
アメリカ製ワクチン頼みなのに、
その供給スピードは第一回目の接種も、2回目の接種も、
3回目の接種すらOECD加盟国最下位だった。
政府の対策は心もとなく、
生活困窮者が次第に増えても
全くの無策に等しい対策しか取れていない。
特別給付金の支給も大切だが、
もっと根本的な労働環境、生活環境、
社会インフラの整備が急務なのに、
何一つ手を付けていない。
そんなときに鯖江は慣れないパート労働者の世界に
飛び込まざるを得なかったのだ。
佐藤家の人々と仲間たち
「ただいま。」
「あ、カーちゃんお帰り!!」
庄吉が駆けつけしがみ付く。
遅れて瑛太が駆け寄る。
「庄吉、瑛太はいい子いい子してたかい?」
「うん、瑛太は俺が顔を覗かせると
ほっぺをぴちゃぴちゃさせて喜んでいたよ。」
「俺じゃなくて、ボクでしょ?
何処でそんな悪い言葉を覚えたの?」
そこに昌枝ばーちゃんが口を挟む。
「近所の悪ガキ友達のせいさ。
近頃の子は自分から進んで
悪い言葉を使いたがるからね。」
「悪ガキじゃないやい!
翔平と群治は面白いんだぞ!!」
集合住宅の一室の片隅の
小さな仏壇に手を合わせ、
鯖江は石松に問いかけた。
「あんた、こんな大変になる前に
自分だけ先に死んじゃって狡いね。
あたしゃ今日は疲れたよ。
明日もそのまた明日も今日の繰り返しなのかい?
そう考えるとシンドイね。」
すると仏壇の向こうから、石松の声が聞こえた気がする。
「それもいいじゃないか。
それに明日は今日と同じじゃない。
俺から見たら、
庄吉も瑛太も毎日少しづつ成長しているぞ。
そんな我が子の成長を間近に見られるなんて
そんな幸せは無いんじゃないのか?
俺なんて草葉の陰からしか見られないんだからな。」
「あんた、ちゃんと見てくれていたんだ。
生前は頼りない旦那だったけどねぇ。
これからもよろしゅう頼むよ、
石松の旦那さん!」
「人にものを頼むときは、
もう少し待遇を考えて欲しいね。
せめて仏壇に供物を添える時は、
おちょこ一杯の酒かビールも添えてくれると嬉しいんだが。」
「あんた、何言ってんの?
酒?ビール?
あの世に逝ってまでその物欲は治らないんかい?
ほんとあんたは筋金入りの煩悩の塊りだね。」
「悪かったな。
煩悩の石松ったぁ、この俺の事よ!」
「呆れた、この人、開き直ってるよ。
あの世に逝っても変わらないねぇ。
そんな馬鹿に惚れた私ぁ大馬鹿だね。
こりゃぁ、これからも苦労は絶えないみたいだ。
さぁ、明日も頑張るか・・・。
そこでクネクネ遊んでる芋虫兄弟たち!
もう寝る時間だよ。
ところで母さん(昌枝ばーちゃん)
今日の子供たちの晩御飯は何だったの?」
「今日は庄吉の好きな唐揚げと、
瑛太の好きなコロッケだよ。」
「なんだ、揚げ物ばかりじゃん。
作ってもらってこんなこと云うのなんだけど、
ちゃんと栄養のバランスも考えてね。」
「だって同じ油で揚げるんだもの。
一石二鳥だろ?
それに私だって揚げ物ばかりじゃかわいそう、
そう思ってレタスとブロッコリーも
一緒に出したからね。」
「そう・・・。ありがとう母さん。」
そう言いながら鯖江は考えた。
(そうだ、パートの仕事を一部変えよう。
スーパーマーケットなら総菜コーナーもあるし、
ワザワザ他の食材を買いに行く手間も省けるし、
(年老いた)母さんの負担も減らせるかも?)
そうした経緯から鯖江は
≪スーパー激安≫で働くようになった。
彼女はそれはそれは一生懸命働き、3年を過ぎる頃、
総菜コーナー売り場のチーフを任されるようになる。
そんな立場に立つこと数年、
ついに彼女にも職場の責任者からお声がかけられた。
「ねぇ、鯖江さん、
今度の政府高官一般公募に応募してみない?
時給も今より上がるみたいだし、
ちょっと遠くなるけど通勤手当も実費×2倍だって。
『普通の主婦でもできる』ってキャッチフレーズだし
鯖江さんだったらピッタリだと思うけど。」
「普通の主婦って何よ!
私ぁスーパー主婦よ!」
「訂正します!『スーパーで働く主婦です』の間違いでしょ?」
隣で聞いていた職場仲間の雅代さん(40)
がチャチャを入れた。
職場の同僚の仲間たちが
何処からかワラワラ集まり談笑が始まった。
「このスーパーからスーパースターが出るのね?」
「ばかねぇ、まだ早いわよ!
それに、スーパースターじゃなくて、
スーパーの主婦でしょ?」
「あら、そうかしら?
だって鯖江さんはその強烈なキャラクターでしょ?
面接官はその顔を見るだけで一発で採用請け合いよ。
何せ強烈だもの。」
「失礼ね、私の何処が強烈よ!
マックスファクターの申し子と呼ばれ、
『釈迦曼荼羅―ノ』のお立ち台の舞姫と呼ばれた
この私に向かって。」
「ほら、やっぱり強烈じゃない?
長い年月を経てもその伝説は少しも色あせてないのね。」
「何か複雑!それって褒めてくれてるの?
全然嬉しいと感じないんだけど。」
会話に参加せず、後ろの取り巻きだった男衆は
『釈迦曼荼羅―ノ』のお立ち台の舞姫だったと聞いて
思わずワンレンボデコンの鯖江の姿を想像し、
ひとり、またひとりと無言で去っていった。
かくして果敢且つ無謀にも、
鯖江さんはネット政府が公募した臨時雇いの
政府高官募集キャンペーンに応募した。
そこで竹藪平助達閣僚との運命的な出会いを経験する。
(平助とカエデはスーパー激安の常連で、顔見知りであるが)
つづく
(みたいだよ、でも次回は別の人ね)