![]() | ぼけてもいいよ―「第2宅老所よりあい」から西日本新聞社このアイテムの詳細を見る |
わたしの知り合いのおじいちゃんの五郎さんが登場します。
こんな風に年がとれたらいいなあと思います。
西日本新聞に連載されていたのをまとめて出版されたんだそうです。
宅老所で起こる数々のエピソードを面白くそして敬意を持ちつつ
紹介してあります。
かわいいおばあちゃんやおじいちゃんが繰り広げるまじめで現実の
物語です。
長生き大国になった日本のあちこちでこんな面白い光景が繰り広げ
られているんですね。
人ごとではありません。明日は我が身ですよ。
この施設で世話をされている職員の方々の仕事ぶりがまたいいです。
こんな施設なら入ってもいいなあ。それまで長生きできるかなあ!!^^
本の中から、私の好きな話をひとつ紹介しますね。
「永遠の愛」を求めて(p36)
昼下がり。縁側では数人のお年寄りたちがお茶を楽しんでいる。
ロールケーキとコーヒーに紅茶。この季節は、日差しと風を感じるだけで満足する。
お年寄りは居眠りをし、若い職員は喜々とする。
そんな縁側を背にして90歳のおじいちゃんと24歳の女性職員が
ソファに座っている。おじいちゃんが声をかける。
「あなたとこうやってお茶をするのも1年ぶりですな」
「どこでだったでしょうか」彼女がほほえんで聞き返す。
「イギリスの片田舎で・・・」
そういえばこの前、50代の女性職員にも
「私と恋愛しませんか」と声をかけていた。
「おじいちゃんやるなぁ~」僕は一人でつぶやいて、
そのあとちょっぴり恥ずかしくなった(男ってやつは・・・)。
そっとしておけばいいものを僕は二人の会話に割って入った。
「失礼ですが、お隣の女性はあなたの彼女ですか」。
おじいちゃんは少し間をおいて「ええ」とうなずいた。
「どこで知り合われたのですか」
「英国です」。
僕は調子にのってさらに尋ねてみる。
「どういったご縁で?」
「いやー、もう忘れました」
「ということはお付き合いを始めてもう長いのですね」
「いや最近でしょうなぁ」。遠い昔を思い返すようにおじいちゃんは目を閉じた。
「彼女のどこにひかれたのでしょうか」
「いやぁー、英国仕込みの年齢差がよかった。それと貞淑なところです」。
それまで黙って聞いていた女性職員が口をひらく。
「貞淑ってなんですかぁ」。おじいちゃんは彼女を見つめ
「おとなしく、小金を持っていることでしょうなぁ」と言った。
彼女は「ふふふッ」と笑った。
「彼女とめぐり会って満足ですか」と尋ねると
「ええ、満足です」とキッパリ答える。そして、彼女に
「あなたはどうですか」と水を向けた。
「満足してます」と彼女は背筋をぴんと伸ばす。
おじいちゃんは「よかった」と照れくさそうだ。
僕が「幸せですね」というと、意外な返事が返ってきた。
「し・あ・わ・せ・で・し・た」
「ええっ、今は違うのーっ」
と思わず声をあげると、おじいちゃんは静かに答える。
「他に幸せがあるような気がします。永遠の愛が」
もう好きにしてください。やっぱり男はしょうがない。