1976年9月9日、中国の赤い巨星、毛沢東は落ちた。
82歳没、稀代の革命家、共産国家建設の父は、ようやく眠りについた。
彼の死を待ち望んでた人も、五万といる。
文化人、知識人はこれで文化大革命が終わる、新時代が来ると。
あおり役の四人組は震えた、今度はこちらが粛清される。
踊らされていた紅衛兵たちは、急に目が醒め、我に返って行った。
彼の黄泉への旅立ち、何がどうでどうなるのか……
そこでは、どんなことが待っているのか……
闇は知っているのか、私は聞き耳を立てる、はっ、何っ……
毛沢東(なんだよなんだよ、ここはどこじゃ。あの世とはここかいや)
(あんま変わらないんやな。身は軽いのう、あんなに太ってたのにな)
(ん、向こうから誰か来るやない、ガリガリのごま塩の角刈り男や)
(眼光鋭いのう。どっかで見たことがある。もしやもしや)
(あれ、ありゃ、あ、周恩来やないか、そうに違いないわ)
(仕返しに来たんかいな、あれは違う、誤解、誤解じゃよ……)
周恩来「おーい、おーい、同志、毛大兄、私ですたい、周恩来ですわ」
「8ヶ月ぶりですな、手ぐすね引いてお待ちしていました」
「言いたい事が山ほどありますわ。峨眉山どころでねえです」
「私のガン闘病、わざと遅らせましたな、そのせいで……」
毛沢東「いや、違うわい。政務が立て込んでいから、そこまで悪いとは」
周恩来「そんでもって、私の葬儀にも来ませんでしたな」
毛沢東「病身だったんじゃ、行きたくても行けなかったんじゃよ、わかっとくれ」
「大長征を共にやりとげ、抗日を戦い抜き国民党を追い出した戦友やないか」
周恩来「ははははっ、いやぁ、初めて一本取りましたな」
「あの世では、私の方が先輩ですわ、いいって事ですわ」
「結党当初、あなたに会って惚れ、実務を譲ってからというもの、ずっと」
「ずっとずっと、心酔して来ましたわな、ガンの痛みなんか、そんなん」
「毛大兄、ようこそ、さあ、酒を呑みかわしましょう」
毛沢東「我が片腕、片足、それでもたらん、我が左金玉よ、こっちも嬉しいわい」
周恩来「さあ、あなたの目がないマオタイです。天国の千年古酒ですわ」
「斗酒をも辞さず、お互い呑み比べしましょう」
毛沢東「うん、周恩来よ、水に流してくれるんかいな、痛み入る」
周恩来「毛大兄、まずはいっこん、ささっ、どうぞ……」
それから、この兄弟は激動の中国史、よもやま話を永遠にし出した。
もちろんの事、天国に時間なんてない、あるようなないような、流ればかりなり。
ただ、真実のみは、やけに見える世界。近代中国の内輪話なり。
呑む程に、始まり始まり……