闇はどこかへ消えてしまった
音しか残っていない
空間は原始に帰る
流れと流れと また流れ
音は幸せそうに身をまかす
そうだ 笑いたいのだろう
あどけない口が開く
天使は道を作る
誘っているではないか
行こうではないか
音の彼方へ
光と共に
そう 彼のように
「死」のコンチェルトが
絶えず聞こえてくる
襲いかかる音
狂ったチェロ
凍った旋律
飛び交うそれら
音は姿を現す
盲目の少女
どこかで見た
一緒だったような彼女
次第に大きく
開く口元
何かを……言おうと……
目には涙
カチンの森の悲劇を 知っていますか
そこには涙が埋まっています
飛びかう鳥らの声も
どこか 死の叫びの声のようです
そこにある澱んだ空気は 語ります
永遠の呪いなのです
人は歴史のせいにして
そして 忘れようとするのです
いつしか流れの中にとけ
過ぎたという言葉で言いくるまれて
ただの森になるのでしょうか
血は葉を育て
赤い赤い花を咲かせます
より赤い花をです
それは、人によっては見えるという
招きたくない客人として
扉の中からの誘い
使いとしてのフェアリーが
呼ぶともなしに現れたのに
呼んだから来たという
あなたが呼んだという
炎のようなフェアリーが
フェアリーが踊る
嵐の前の舞踏
あなたも道連れに
フェアリーが笑う
凍りついた笑い
星から星へと
シャガールにとって世界は絵であった
そこでは 牝牛が宙を飛び
子供らは本当の笑いをしていた
秩序ある幻想として
ベラは寄り添っていつもいた
橋を渡って来る 黒ずくめ
手には赤い花束
小走りに 小走りに
靄の中のヴィテブスク
二人は世界を築こうとした
誰もが わかりあえる空間を
風に乗って それを運ぼうと
自らが風になっていった
星は流れた
私の中のテスト氏は
いつも、おどけたピエロです
泣くのも笑うのも落度なく
真似をするのが上手いのです
彼は私に付いてばかりいて
また、前に行っては後ろ足で砂掛けます
そして、時に囁きます
……「すまないね」って
そんなテスト氏に
いつしか惹かれる今日の日
彼の分まで、年をとる
思い出、いや、そんなもんじゃない
懐かしみ、それは言えるかも
影絵は笑う
私はテスト氏に言った
「あなたは、何を見たいのですか?」
テスト氏は答えた
「嘘に近い真実をです」
私は仕方なく聞いた
「そして、どうなるというのです?」
彼は答えた
「無駄こそ、素晴らしい」
私は思った……
彼といつ出会ったのか
彼の本当の名前を知らなかった
テスト氏は去りながらつぶやいた
「あなたは、わたし」
「わたしは、あなたです」と
声に連れられてここまで来て
気が付いたら ただ一人
歩んで来た足跡と
絶望ゆえの空疎な目
あの日のままで 何もなかったなら
そしたら幸せだったのかも
ただの乙女の喜び
それだけで良かったのに
ジャンヌ「声」を聞く
……私もそう
だけどみんなは……
ジャンヌ「声」を聞く
……ルーアンが呼んでるの
私を呼んでるの……
音 音がよろこんでいる
彼は必要とされた
美の呪縛者として
赴く狩人として
光 光とともにあり
望みという道示し
無邪気に微笑み
……「さあ あなたも」と言う
これが世界だと
これが虹の世界だと
象徴の彼方へと誘い込む
永遠を手にし
彼は近付いた
美しいゼロへと
愛されることの幸せと憂いを
ただ なかにいる為にわからず
過ぎてしまって振り返ろうと
影しかない
あなたに会うことが願いだとして
それが美しい熱狂だとして
夢見続けるは疲れるものだと
心の隅は知っている
そんな行き来を
ままよと思えたらいいのに
そしたら明日を愛せもしたのに
すべてが終わろうとしてしまったとき気付く
してしまった後悔と
してしまわなかった後悔を