思いつくままに

ゆく河の流れの淀みに浮かぶ「うたかた」としての生命体、
その1つに映り込んだ世界の断片を思いつくままに書きたい。

労働市場の流動化

2013-03-22 14:36:31 | 随想


 安倍政権がスタートさせた産業競争力会議、規制改革会議において、「労働市場の流動化」が1つのテーマとしてあげられ、その実現に向けての検討が進められているようだ。働く人が会社を移りやすくすることによって、衰退産業から成長産業へ働く人を移し、経済成長につなげるためとのこと。産業競争力会議では、働く人を解雇しやすくするため、「解雇自由の原則」を法律に明記すべきだと、その本音を率直に表す意見が出ている。

 日本では、もうすでに正規社員に対する非正規社員の割合がかなり高くなっていて、十分に解雇しやすい環境になっている。

男:19.6%、特に15~24歳では45.5%、
女:54.7%(2012年1月~3月の平均、農林業を除く)


 これでも不満のようで、正社員にまで踏み込んで解雇をしやすくしようということらしい。「働く人が会社を移りやすくすることによって、衰退産業から成長産業へ働く人を移し、経済成長につなげる」とのことだが、働く人が会社を移りにくいのは「解雇自由の原則」が法律に明記されていないからなのか?この日本では、働く人が会社を移ることに対して法律上の制限など設けられてなどいない。移ろうと思えば自由に移ることができる。制限は会社の方に対して設けられている。圧倒的に強い立場にある会社が、反対に弱い立場にある働く人を安易に解雇することがないように制限を設けているのである。そういう制限がないとどうなるかは歴史が証明している。ちなみに、OECD(経済協力開発機構)の調査によれば、主な国で労働者が守られている度合いを高い順に並べるとつぎのようになるとのこと。(3月20日付け朝日新聞)

①スペイン②フランス③ノルウェー
④ドイツ⑤イタリア⑥フィンランド
⑦オランダ⑧韓国⑨スウェーデン⑩日本
⑪オーストラリア⑫イギリス⑬アメリカ


 日本がこの位置ではだめなようで、「日本の正社員は解雇しにくい。それが企業活動の邪魔になっている」という経済界の意見に従って、アメリカを目指し、もっと順位を下げなければならないということのようだ。本当に「働く人が会社を移りやすくする」ということを考えているのなら、必要なことは、そのための社会環境を整えることだ。すなわち、会社を辞めても生活の不安を感じることなく、よりよい職場を見付けて、確実に再就職できるようにすることだ。そういう環境が整えば、働く人はよりよい条件を求めて自ら会社を移るだろう。衰退産業から成長産業へと会社を移ることもするだろう。そういう環境が整わないまま、会社が働く人を解雇しやすくなるように法律を改定すれば、失業者を増やし、より劣悪な条件で働かなければならない人を増やすだけだということは、少しでも歴史を知っている人にとっては火を見るよりも明らかなことである。

 結局、「労働市場の流動化」というのは、産業競争力会議での意見が率直に述べているように、「働く人を解雇しやすくする」という財界、産業界の要求を述べているだけである。それを「働く人が会社を移りやすくすることによって、衰退産業から成長産業へ働く人を移し、経済成長につなげる」などともっともらしく言う。そう言えば、国民は騙されるとでも考えているのだろうか。日本国民もずいぶん馬鹿にされたものである。尖閣列島や竹島の問題で中国や韓国などに怒りをぶつける人は多いが、自国の政府や財界、産業界のこのようなやり方にどうして憤りを覚えないのだろう。不思議でならない。

 余談になるかもしれないが、不思議でならないと言えば、福島の原子力発電所の事故についても同じ疑問が生まれる。前にも述べたことだが、福島の事故では、尖閣列島や竹島の比ではない広大な国土、しかも、そこは不毛な岩山ではなく、いままで経済活動が行なわれ、多くの人々が生活していた地域であり、それがこの先何十年も、もしかすると百年以上も使えなくされてしまったのだ。その土地を追い出された人々は、2年経ったいまでも生活は安定せず、精神的に追い詰められている人たちもいる。ところが、東京電力の役員たちは、その私財を保持したまま、そして、庶民から見ればあいかわらず高額の報酬を受け、優雅な生活を続けている。普通の道徳的感覚からすれば、まず、東京電力の役員たちは被災者を助けるために私財をすべて供出すべきではないのか。少なくとも、被災者と同じ生活レベルにすべきではないのか。国民の税金投入はその後であるべきではないのか。ところが、そうしないだけでなく、事故が起きればまたこのような事態になる原子力発電を今後も継続させるために努力し、一度廃止の方向で決まった「原子力発電」を、安倍首相に、「継続の方向で見直しをすると」言わせている。安倍首相の道徳教育では、こんなことを是とするのだろうか。いったいどんな道徳教育をしようというのだろう。尖閣列島や竹島の問題で中国や韓国と戦争をしてもよいとまで怒っている人たちは、このような、原子力ムラで甘い汁を吸ってきた人たち、これからも吸い続けようとしている人たちに対して怒りを感じないのだろうか。不思議でならない。



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