ゆったりと、流れのままに、拾いもしない、捨てもしない・・・。 おもむくままに・・・そして私がいる。
チッ 舌打ちが きこえる。
そのあと
ブツブツ と
不平、不満の 呪文のような
独り言を
吐き出している。
その傍らで 小犬が
居心地悪そうな 目で
助けを求めるように
わたしに 合図を送ってくる。
なにか ボタンの掛け違いで
その人の 心の糸が 切れたのだろうか。
独り言は それだけで
さみしい 眺めなのに・・・
汚れた 言葉を 吐き出すのは
よほど つらいことが あったのか
想像する以上に
心を 病んで いるようだ。
その思いに
感染しそうな 不安を
感じてしまった。
二尺袖の小振袖 と 袴を
身に着けた
新卒の 若い女性が 数人
なにやら 楽しげに話しながら
卒業証書を しっかりと
小脇に 抱えて
通り過ぎて行った。
四月からは 親元へ帰り
地元の企業で 働く人。
学生時代4年間過ごした 部屋に残り
親元へは 帰らず 仕事をする人。
大人として 社会生活の荒波で もまれて
悲鳴を あげる日もある。
大人の女性として
自分の個性を 身にまとって
自分の 意のままになる くらしは
そうそう 出来るものではない。
そんな ジレンマの時期が
私にも あった。
なるようになる と
受け流す ずるさを
身につけた今、
新卒の 彼女たちは
まばゆい 羨望の存在。
今の 私には
それは それで
ぐっと 淋しいことでもある。
偶然の 出会いで
目を 合わせて
何気に 微笑んだ あなたは
そのまま
歩み去ろうと する。
手にした 文庫本の軽さ、
胸のポケットにさした
ペンに
ちょっと 手をやり
今日 出会った わたしを
思い出に代える 言葉を
書き留めようとする 仕草。
また、 機会があれば・・・
或いは
次回はぜひ、 ゆっくりと・・・
いいえ
あなたは
今日のあなたには 決して
戻ることはない。
人は そうして
全てを 思い出に 変え続ける。
わかっています。
あの人が うたった歌
もの憂い 雰囲気で
窓の外を 眺めながら
小声で 歌っていた 詩
”人恋うは 哀しきものを
平城山に もとおり来つつ
耐えがたかりき ”
あの人は 誰かのことを
思いながら 誰に聞かせる
ためでもなく
心のうちから 沸きあがってくる
思いを 声にならない声で
吾知らず 歌ってしまったに違いない
その後ろ姿を 眺めながら
人を 恋うる 切なさを
打ち明けられたように
私は 重大な 人生のひと時を
その空間を
あの人と 共有してしまった
切なさは 深く
私に 感染 して
私は あの人の
胸の内を 計り知れない
もどかしさに
人を 恋うることは
切なく 哀しいと いうことだけを
無言で 教えられた
私の 初恋は
そのまま 立ち消えていった
白いノートの上に
明日のあなた と 書く
次の白いページに
明後日のわたし と書く
明日のあなたは
林のなかの 遊歩道を いく。
そのそばに 白い小犬が
戯れている。
明後日のわたしは
海辺の 砂浜を いく。
砂が靴の中に はいる
砂の くぼみに かにが見え隠れする
走りまわる 黒の グレイハウンド
私は犬の名を 呼び
追って 駆け出す
白いノートの上で
あなたと わたしは
決して 会うことはない。
白いノートの上で
あなたは 私を偲んで
詩を うたう
水平線の向こうから
帆船が 迎えに来ると
信じて 夢みているわたしに
あなたの 恋歌は
きこえない。
白いノートの上で
あなたと わたしは
決して 会うことはない。
風も 音を立てない日
湖面に 石を 投げる
波紋が ズイ ズイ と 広がって
やがては 消えていく
いつもより 低く 飛んで
わたって行く 鳥の影
心の影の また、
動くさまに似て・・・
風すら 音を立てない日に
安穏を 打ち砕く
鳥の飛来を
恨めしくさえ 思う
広がって 消えた 波紋に
心のうちを なぞらえて
今日を 過去とする
つもりでいた。
ひそかに
愛への 追悼歌 を
くちずさんで・・・
区切りをつける 旅に出た
一人旅に出ることは 伝えたが
あなたを忘れるための
旅だとは 言えなかった。
少し 会わない間に
自然解消できる ことを
望んでいた。
行先の 決めない 旅だった。
夜遅くの 列車 で
終点まで 行く予定であった
降り立った駅で
次のことを 考えればよいと
単純に 思い詰めていた。
発車のベルが 鳴りわたると
区切りをつける 思いつきを
後悔し始めていた。
後悔の 思いは 胸をしめつけ
荷物に 手をかけ 立ち上がろうとしたとき
ごとん ごとごと と 列車は動きはじめた。
後悔の 重荷に 耐えかねて
座席に 深く 腰をおろした。
先の見えない 愛に
区切りをつけるための 旅立ちが
深い後悔を 背負う 旅になってしまった。
ムーンストーンの指輪を貰った
優しく大きな愛情をはぐくみ、
女性性を高め、
愛する人との恋愛の 成就、
さらには幸福な家庭へと導く効果があると・・・
貰った時は その意味にも
無頓着であった
知らなかった。
意味を 知りたいとも 思わなかった。
まだ、私の 心のなかに
石は 光を放っている。
幸せを 約束する意味を
持つ 石の指輪を
渡してくれた 気持ちを
聞きただしたい
その人は もういない。
私は 幸せを 探す旅の途中である。
好きだ というのに
愛しているとは 言わない人
愛している というのに
それでは、 あの人のことは と尋ねると
やはり・・・
愛しているという
愛も いろいろあるという。
その色々 が 理解できない私は
その人への 心が 離れていくのを
スローモーション フィルムを 見るように
感じながら
徐々に 会わなくなっていった。
でも、
私を 取り戻そうとも しない人だった。
そのあと
好きだと いうのに
愛しているとは 決して言わない人に
巡りあった。
愛している? とは
たずねない私。
愛おしさに溢れた 目の色で
愛されていると 信じられた。
居心地の良い空気。
それだけで満足していた。
好きなのは一生変わらないよ と
メモを残して
その人は 遠い人になった。
一瞬で 居心地の良い空間に
冷めた 空気が流れ込んだ。
私の 恋が その日
また一つ 消えた。
ここまで と
心の中で 線を引く。
あなたとの 距離
あなたの 好きな言葉
あなたの あこがれる 生き方
あなたが 出会った 人たち
あなたの 愛読書
あなたが 目を覚ます時間
ベットの中の 大きな のび
今日 なに食べた
明日 どこへ行く
あなたが かつて 愛した人
あなたの 行きつけの 洒落たレストラン
それとも 駅前の 赤暖簾
あなたとの 距離・・・
少しづつ 積み上げて
創り上げた あなたの姿
ここまで と 決めた線引きが
すぐ 崩れることは
判っていた。
私のことを 知らせる度に
何か なくしたような
不安に なる。
その不安こそが 本物なのだ。
あなたとの 距離を 守ることが
私の 幸せに つながる。
歩きなれた 歩道を行くとき
黒服の その人は
悲しい瞳の その奥に
何故か 安堵のひかりを
かくしている。
歩道を数分歩いた 向こうの
角を曲がったところの
教会から 出てきたところ だというのに
黒服の その人は
長い 悔悟の渕から
這い上がってきた 喜びを
隠そうとして
目を伏せて 歩いている。
その 別れを
次への旅立ちにかえることが
できる その人は
別れの時までの 生き様を
悔悟の 人生であったと
物語る。
黒服のその人は
物書きのテーマの中に
溺れて・・・
拘わりを持つ人の
人生までも ひきこんで
また、
生き続ける。
あなたの姿が 見えないと
私の 今が 不安になる
足元の アスファルトが
突然 砂岩にかわり
端のほうから 徐々に 崩れ始める
目を伏せると
何故か・・・
睡魔が 覆いかぶさってくる
何もなかったことにして
静かに、 いまは ただ眠れと
黒いヴェールを 纏った それは
私の そばを 離れない。
無作為の それは
わたしを 連れ去るための
まぼろしの 町を 用意して
私が そこに おちついて住まうのを
見守る という。
そこが 私の
スウィートホームだと
言い張る。
あなたの姿が みえないと
それは 時折
懐かしいものに 姿を変えて
私の 背後に 忍び寄る。
あなたの姿が みえないと
私は 生まれたばかりの
赤ン坊となって
ただ、
泣いたり 笑ったり する。
過去の
幻影のなかに
どっぷりと 浸り
躓いたり
駆け出したり
あそび 戯れて
いたずらに すごす日々
重ねて、
数えて、
そして・・・
思い出しては 泣き笑いする。
過去の 化身が
今の わたしで あることを
知っている 私と
知らぬ振りの 私
義足の 足先が 痛むと訴える
ひとに 寄り添うように
私は 過去の苦い幻影のなかで
もだえる わたしに 寄り添って
今の私を かろうじて たもっている
一人で歩く道は
暗くて さみしい
闇の中の 木立の向こうから
人の姿をした 魔物が
顔を出す
いとしい人の姿をした 化け物が
うろうろする
恐い 恐い と
泣き出しそうになるのに
笑顔をつくって
ジャンヌダルクのように
怯みを みせない
一人でいきるのは
つらい
可哀そうだと 思われるのは
もっと つらい
一人で 生きる道は
時として
暗闇の 林の中の
小路を 歩くことだとしか
思えない日が ある。
暗闇のむこうに
薄明りの 夜明けの東の空のように
やってくる 幸せの 兆しを求めて
報われない 暗い日々を
やり過ごす すべを
学ぶことが
生きるということ かもしれない
私の中の
安心 という 気持ちは
まったく 取り留めのない
無責任な きもち
いつでも 突然
不安という もやもやの
わけのわからぬ 塊に 変化する
懐かしい だけの気持ちで
つい 心を許して
ありったけの 親愛を
ふりまいた後に
別れ際の あなたの一言が
絶壁から 転げ落ちたような
強烈な 不安と おそれに
私を 打ちのめすことを
あなたは 知らぬ顔で
背中を みせる。
一人芝居 の わたしは
いつも・・・
安心と不安の
行きつ 戻りつ を くりかえす。