今回は序盤の後半のさらに後ろ半分です。
学説によって漢字や読み方が
いろいろある困った部分になります。
A.「家告奈 名告紗根」
→「いえのらな なのらさね」
B.「家吉閑名告沙根」
→「いえきかな のらさね」
「いえきかな なのらさね」
(ひらがなは、岩波文庫
『原文 万葉集』に書いてあった
いくつかの読み方です。)
万葉集の底本として定評のある
西本願寺本はBです。
Aは、江戸時代の学者さん達が
Bでは解釈が難しいので、かなり強引に
Bを誤字としてしまったものです。
Bで解釈できれば、Bで良いと思います。
どちらも前半は5文字なのでOKです。
後半を7文字にしたいので一工夫必要です。
この歌の最後に家と名の対比があるので、
ここでも「名」は助詞ではなく
「名前」の意味で使いたいと思います。
「閑」一文字で「かな」と読む説もあり、
「いえきかな なのらさね」が良いのですが、
後半がどうしても7文字になりません。
「名告沙根」
(「沙」は「紗」という写本もあります。)
「紗」または「沙」は
「少」という字が付いています。
「些細(ささい)な」とか
「細雪(ささめゆき)」とかの
小さいとか少ないという
意味の言葉があるので、
「ささ」と読んでも
良いのではないでしょうか?
ここの「紗」は、
尊敬の助動詞「す」の未然形
と言われていますが、
前回にも触れましたが、
天皇陛下が女の子に
尊敬語は使いません。
ここは、精霊が主語で
使役の助動詞として使われています。
初回に書いた私の翻訳では
「恋を実ら“せ”て」という
現代語の使役の助動詞「せる」
の連用形「せ」を使いました。
この時代、女の子が名を答えるというのは、
プロポーズにOKすることです。
精霊が女の子にOK「させる」よう
雄略天皇が精霊に
お願いするところなので、
使役の助動詞です。
使役の助動詞は「す」だけでなく、
「さす」もあるので、
字数を稼ぐために
「さす」を使います。
「さす」は、四段活用の「告(の)る」
には続かないので、
「告」は下二段活用の
「告(つ)ぐ」になります。
願望の助詞「ね」が続くので、
「さす」は未然形の
「ささ」になります。
「家吉閑 名告沙根」
→「いえきかな なをつげささね」
「な」と「ね」は
上代特有の希望を表す助詞だそうです。
名前を言う意味の「名のる」
という言葉が現代でも残っているので、
「名告(の)る」
と言いたいところですが、
七五調の文字数優先です。
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それではここまでのところを
読んでみましょう。
篭毛與 > こもよ
美篭母乳 > みこもち
布久思毛與> ふくしもよ
美夫君志持> みいふくしもち
此岳尓 > このおかに
菜採須兒 > なつみをするこ
家吉閑 > いえきかな
名告沙根 > なをつげささね
七五調で流れるように読むと、
楽しさが伝わってきます。