仕事と生活の授業(続き)

前に作ったホームページは、あまり読まれないようなのでブログで再挑戦です。

56.万葉集のはじめの歌『こもよみこもち』 その4 プロポーズ大作戦

2024年06月30日 | 和歌 短歌 俳句
今回は序盤の後半のさらに後ろ半分です。

学説によって漢字や読み方が
いろいろある困った部分になります。

A.「家告奈 名告紗根」
 →「いえのらな なのらさね」
B.「家吉閑名告沙根」
 →「いえきかな のらさね」
  「いえきかな なのらさね」

(ひらがなは、岩波文庫
 『原文 万葉集』に書いてあった 
 いくつかの読み方です。)

万葉集の底本として定評のある
西本願寺本はBです。
Aは、江戸時代の学者さん達が
Bでは解釈が難しいので、かなり強引に
Bを誤字としてしまったものです。
Bで解釈できれば、Bで良いと思います。

どちらも前半は5文字なのでOKです。
後半を7文字にしたいので一工夫必要です。

この歌の最後に家と名の対比があるので、
ここでも「名」は助詞ではなく
「名前」の意味で使いたいと思います。

「閑」一文字で「かな」と読む説もあり、
「いえきかな なのらさね」が良いのですが、
後半がどうしても7文字になりません。

「名告沙根」 
(「沙」は「紗」という写本もあります。)

「紗」または「沙」は
「少」という字が付いています。
「些細(ささい)な」とか
「細雪(ささめゆき)」とかの
小さいとか少ないという
意味の言葉があるので、
「ささ」と読んでも
良いのではないでしょうか?

ここの「紗」は、
尊敬の助動詞「す」の未然形
と言われていますが、
前回にも触れましたが、
天皇陛下が女の子に
尊敬語は使いません。
ここは、精霊が主語で
使役の助動詞として使われています。

初回に書いた私の翻訳では
「恋を実ら“せ”て」という
現代語の使役の助動詞「せる」
の連用形「せ」を使いました。

この時代、女の子が名を答えるというのは、
プロポーズにOKすることです。
精霊が女の子にOK「させる」よう
雄略天皇が精霊に
お願いするところなので、
使役の助動詞です。

使役の助動詞は「す」だけでなく、
「さす」もあるので、
字数を稼ぐために
「さす」を使います。

「さす」は、四段活用の「告(の)る」
には続かないので、
「告」は下二段活用の
「告(つ)ぐ」になります。

願望の助詞「ね」が続くので、
「さす」は未然形の
「ささ」になります。

「家吉閑 名告沙根」
 →「いえきかな なをつげささね」

「な」と「ね」は
上代特有の希望を表す助詞だそうです。

名前を言う意味の「名のる」
という言葉が現代でも残っているので、
「名告(の)る」
と言いたいところですが、
七五調の文字数優先です。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
それではここまでのところを
読んでみましょう。

篭毛與  > こもよ
美篭母乳 > みこもち
布久思毛與> ふくしもよ
美夫君志持> みいふくしもち
此岳尓  > このおかに
菜採須兒 > なつみをするこ
家吉閑  > いえきかな
名告沙根 > なをつげささね


七五調で流れるように読むと、
楽しさが伝わってきます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

55.万葉集のはじめの歌『こもよみこもち』 その3 菜摘ます娘か菜摘みをする娘か

2024年06月30日 | 和歌 短歌 俳句
数年前、娘の大学受験があり、
なぜか一緒に古文の勉強を
することにしました。
文法の知識の元は、
『富井の古典文法をはじめからていねいに』
です。

それと、Z会の問題集
『古文上達』を勉強しました。
この本は名著ですね。
問題文の選択が素晴らしく、
共感できるものばかりで、
時代の違いを感じませんでした。

古文上達 基礎編 読解と演習45 - Z会の本

<編集者より>文法にどうやって取り組めばよいのかわからない人、学習しても読解にどう活かせばよいのかわからない人にお薦めの1冊です。 文法知識を身につけながら同時に...

Z会の本

笑いのツボに共感できるコントがあったり、
推し活の話があったりと、
とても現代的でした。

『古文上達』を読んで、
古典も現代の感覚で読んで
かまわないことに気が付きました。
短い流行り廃(すた)りはあっても、
長期的には安定した感覚が
あるんだと思います。

我々が遅れていると感じる
30年前の人より、
2000年前の人との方が
感覚が合ったりすることが起こりえます。
(2030年前の人とは合わない
ということになりますが。)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
今回は『こもよみこもち』の歌の
序盤の後半の前半分です。

》》此岳尓 菜採須兒
》》このおかに なつますこ

ネットで見かける解釈の全てで
この歌は雄略天皇が女の子に声を掛けている
歌だとしています。
ところが、その説は、
ここの部分で都合が悪くなります

声を掛けるのに
すぐ目の前にいるのなら
「あなた」とか「きみ」とか
言えばいいので、
目の前にいる人に
「この丘で草を摘んでいる女の子」
とは呼びかけません。

ここは、離れたところにいる精霊たちに、
目の前のカゴやスコップを通して
話しかけているとの解釈の方が
辻褄が合います。

「(あっちの丘で果実をもいでいる
男の子ではなく、)
この丘で草を摘んでる
女の子のことなんですが、」
と精霊に問いかけます。

》》菜採須児
》》なつますこ
 
前の「このおかに」が5文字なので、
次は7文字のはずです。
一般的には「菜摘(なつ)ます子」
と読んでいますが、
助詞や助動詞の活用部分は
書かれていないことが普通なので、
それを補って本当は7文字だった
のかもしれません。


また、終わりの「すこ」に
とても違和感を感じます。
ずっこけそうな音の響きで、
「この丘」を「スコッー」と
滑り落ちていきそうです。


それと「す」は、
尊敬の助動詞という説明を見ますが、
天皇陛下が女の子に尊敬語を
使うのでしょうか?

また、「児」という名詞=体言の前の
助動詞「す」の活用は、
終止形「す」ではなく、
連体形「する」だと思うのですが、
この時代は違ったのでしょうか?

そんな例外はネットで出てこないので、
素直に次のように読みましょう。
「す」は「行う」の意味の
動詞の「す」の連体形「する」です。

「菜採須児」
 →「なつみをするこ」(7字)

助詞は適宜補って読むのが万葉集では
標準的な形です。
助詞「を」は、読み手が補って良いんです。


今日はここまでです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする