2012年12月18日(Tue) 石 平 (中国問題・日中問題評論家)
習近平政権発足後も多発する暴動 2億人の「現代流民」と本格的な「尖閣危機」の到来
去る11月15日、中国の習近平政権が樹立してから1カ月余が経った。その間における中国の国内状況を見ると、新政権を取り巻く社会情勢が実に深刻なものであることがよく分かる。
政権発足からわずか10日間で、国内における大規模な暴動事件が3件も発生した。まずは11月17日、習近平総書記自身がトップを務めた福建省寧徳市で、地元警察の汚職を疑う市民ら約1万人が暴動を起こして警察を襲った。そして20日、浙江省温州市郊外の農村で、変電所建設に反対する地元住民1000人以上が警官隊300人と衝突し、200人が負傷した。その翌日の21日、今度は四川省広安市隣水県で、地元公安当局に抗議する住民1万人余りの暴動が起きた。公安当局の車が数台破壊され、20人の市民が負傷した。
暴動を起こしたくてうずうずしている「予備軍」
政権発足直後の暴動の多発は、指導部人事に対する人々の絶望の現れの側面もあろうが、暴動に至るまでの経緯やその原因を見てみれば、その背後にあるのはやはり、今の体制と社会状況全体に対する国民の強い不満と反発であることが分かる。
たとえば広安市隣水県で起きた暴動の場合、オードバイを運転していた住民が警察に殴られたことが事件の発端である。寧徳市の暴動の場合、1件の交通事故の発生が地元警察の汚職疑惑をもたらしたことがすべての始まりだ。普通の国ではおよそ「暴動」と結びつけることの出来ない、警察による暴力沙汰や汚職疑惑が、中国では1万人以上が参加する暴動発生の十分な原因となりうるのだ。
言ってみれば、人々は何らかの切実な理由があって「やむを得ず」暴動を起こしたというよりも、むしろ暴動を起こしたくてうずうずしている中で、ちょっとした口実でもあればすぐそれに飛びついて一暴れするのである。おそらく中国のどこの町でも、このような危険極まりのない暴動予備軍は常に万人単位で存在しているのであろう。それは常に、習近平体制にとっての深刻な脅威となるのである。
2億人にものぼる「流動人口」とは?
このような暴動予備軍を生んだ原因とは何か。2012年10月に中国政府によって公表されたある数字を見てみればすぐに分かる。
2012年10月6日、中国の各メディアが国家人口計画生育委員会近日発表の「中国流動人口発展報告2012」の主な内容を伝えた。それによると、2011年末に中国全国の流動人口が史上最高の2.3億人に達しており、その8割は農村戸籍を持つ者で、平均年齢は28歳であるという。
中国でいう「流動人口」とは、要するに安定した生活基盤を持たずにして職場と住居を転々する人々のことを指している。日本の総人口より1億も多い人々がこのような不安定な生活をしていることはまさに驚くべき「中国的現実」だが、そういう人々の大半が農村部から流れてきた「農民工」であることは、上述の「8割が農村戸籍」との数字によっても示されている。
今まで、それほど大勢の「農民工」に生活の糧を与えていたのは、中国の高度成長を支えてきた「対外輸出の急成長」と「固定資産投資の継続的拡大」である。
沿岸地域の輸出向け加工産業が繁栄すると、内陸部農村出身の若者たちが大量に「集団就職」してくる。そして不動産投資や公共事業投資が盛んであった時には、農民工の多くはまた、建設現場の労働力として吸収される。つまり、高度成長が継続している間は、農民工は「流動人口」となっていても、異郷の都市部で何とか生計を立てることができた。
だが、2011年の後半から、世界的経済不況と中国国内の生産コストの上昇が原因で中国の対外輸出が大幅に減速してしまい、金融引き締めのなかで公共事業投資が激減した。それに加えて、不動産バブルの崩壊が始まると、全国的な「大普請ブーム」はもはや過去のものとなりつつある。
その結果、多くの農民工が輸出産業と建設現場から「余剰労働力」として吐き出される羽目になった。今年の7月に入ってから、中国の沿岸地域で企業倒産とリストラの嵐が吹き荒れている中で、職を失った農民工の「帰郷ラッシュ」が起きていることが国内の各メディアによって報じられているが、それはまさに、農民工のおかれている厳しい現状の現れであろう。
「新世代農民工の集団的焦燥感に注目せよ」
都市部での職を失って帰郷できるのはまだ良い方である。前述の「報告」が示しているように、現在の農民工たちの平均年齢は28歳で、20代が大半である。いわば「農民工二世」の彼らの多くは実は都市部で成長していてすでに「農民」ではなくなっている。彼らはいまさら農村部に帰っても耕す農地もないし、農作業のことは何も分からない。彼らにはもはや、「帰郷」すべき「郷」というものがないのである。
農村には帰れず都市部にとどまっても満足に職に就けない彼らの存在は当然、深刻な社会問題となってくる。その人数が億単位にでも達していれば、それこそ政権にとってたいへん危険な「不安定要素」となろう。中国共産党中央党学校が発行する「学習時報」の8月6日号は、「新世代農民工の集団的焦燥感に注目せよ」との原稿を掲載して「新世代農民工たちの焦燥感が集団的憤怒に発展するのを防ぐべきだ」と論じたのは、まさにこの問題に対する政権の危機感の現れであろう。
中国の歴史上、農村部での生活基盤を失って都市部に流れてくる「流民」の存在は常に王朝にとっての大いなる脅威であった。行き場を失った流民の暴発はいつも、王朝崩壊の引き金となるからだ。今の中国共産党政権は果たして、億単位の「現代流民」の「集団的憤怒」の爆発を防ぐことができるのだろうか。もしそれがうまく出来なかったら、天下を揺るがすような大乱が「近いうち」に起きてくるのはけっしてあり得ないことではない。習政権樹立後における暴動の多発は、まさに天下大乱が起きてくることの前兆と見てよいであろう。
対外的な強硬政策で国民の目を外に向かわせる
さて、習近平政権は今後一体どうやってそういう人々を手なずけて民衆の爆発を防ごうとするのだろうか。おそらく彼らに残される最後の有効手段の1つは、すなわち対外的な強硬政策を推し進めることによって国民の目を外に向かわせることであろう。
実際、習政権はその発足からの数週間で、海軍の「虎の子」の新空母で初の着艦試験を成功させたり、東シナ海と南シナ海でそれぞれ軍事演習を実行したり、フィリピンなどと領有権を争う南シナ海周辺を自国領と紹介する軍監修の地図を発売したりして、軍中心の挑発的な行動を頻繁に展開し始めている。
そして習総書記自身、11月29日、6人の政治局常務委員らを伴い北京市の国家博物館を訪問して中国近現代史の展覧会を参観した後に、「アヘン戦争から170年余りの奮闘は、中華民族の偉大な復興への明るい未来を示している」などと国民に語りかけた。約10分の演説で、彼は「中華民族」や「(中華民族の)偉大な復興」という言葉を合わせて20回近く連呼した。11月15日の総書記就任披露目の内外会見でも、彼の口から頻繁に出たキーワートの1つはやはり「民族の偉大なる復興」なのである。
かつての江沢民政権と同様、ウルトラ・ナショナリズムに縋(すが)ってそれを国内危機脱出の手段に用いることはすでに、習近平政権の既定路線となっているようである。
「日本と闘争する」発言の重み
そして今後、経済低迷のなかで流民の暴発などによる国内危機の拡大という局面にさしかかった時、習近平政権は結局、国内の混乱収拾のためにわざと国際的危機を作り出して国民の目を外に逸らすような方策に打って出るのであろう。そうなった場合、尖閣と日本はまさに、彼らにとっての格好の餌食となる可能性が大である。
それを予兆しているかのように、12月13日、日中間で未曾有の緊急事態が生じた。尖閣諸島の魚釣島付近で中国国家海洋局所属のプロペラ機1機が領空侵犯した。中国機による日本の領空侵犯は自衛隊が統計を取り始めた1958年以来初めてである。習政権が樹立してから1カ月余、尖閣諸島やその付近の海域で日本側はいかなる単独行動も取っていないにもかかわらず、中国側は一方的な挑発行為を執拗に繰り返してきた。その中で習政権はとうとう、日本領空への初めての侵犯に踏み切った。
翌日の14日、中国の楊潔チ外相は人民日報に寄稿して習政権の対外政策を語った中、日本側の尖閣国有化に関しては「断固として日本との闘争を行う」と明言した。日中国交回復して40年、中国の外交責任者の口から「日本と闘争する」という激しい言葉が吐かれるのはおそらく初めてであろう。
一国の外相は外交上の最低限の礼儀や配慮も顧みずにして、「闘争する」という赤裸々な「対敵国用語」を使い始めたこと自体、習政権がすでに実質上の「対日敵視政策」にかじを切ったことの証拠であろう。同じ日に、人民日報系の環球時報は社説を掲載して尖閣へ向かって中国軍機を派遣するなどの「あらゆる行動をとる権利を保留する」と言って露骨な軍事恫喝を行った。
どうやら習近平政権は本気で、日本との「尖閣紛争」を徹底的に戦い抜く腹づもりなのだ。日本にとっての本格的な「尖閣危機」がいよいよ迫ってくるのである。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/2442?page=1
【新唐人2013年2月14日付ニュース】
◆偽外資と不法資金流出 中国は空っぽになる?
数年来、多くの外国資本を引き寄せてきた中国経済に異変が現れ、最近は資本の海外流出が著しくなり、その真相も明らかになりつつあります。中国のある研究機構によると、毎年GDP の6割相当が外国資本に持ち去られています。この他、中央規律検査委員会のデータによると、中国の資金の不法流出は拡大を続け、昨年だけでも1兆ドルを突破。国際組織の報道によると、これらの海外へ流出した資金は、海外直接投資の名義で中国に戻り、政府による税収優遇を享受。結果、中国に二重の打撃を与えています。専門家は、中国が空っぽになってしまう危険があると懸念しています。
中国メディアは1月18日、中央規律検査委員会の内部通達を引用し、不完全なデータによると、2010年中国大陸の不法な資金流出は4,120億ドル。2011年には6,000億ドルに達し、2012年には1兆ドルを突破したと報道。なお、2013年には1兆5,000億ドル規模に達すると予想しています。
アメリカサウスカロライナ大学の謝田教授は、中国の不法資金流出は、流出時の直接損失以外にも、二つの面で損失をもたらしていると指摘します。
米サウスカロライナ大学 謝田教授
「外国投資を装って、中国に戻って来ると、税務 土地譲渡の面で、優遇を受けられます。実際 中国経済はこれで二次損失を受けることになります。これらの投資で何か生産して、利益を得れば再び海外へ移し、社会の富は三次損失を被ります」
また、生産した製品を輸出すれば、税金の払い戻し政策を利用して再び中国経済から搾取することが出来ます。謝教授は、これらの資金は中国の富に何度もダメージを与えるとともに、中国経済に混乱をもたらすと指摘します。
米サウスカロライナ大学 謝田教授
「勿論これらの資金が中国に投資されると、中国のGDPに影響を与えます。それは虚偽的に 人為的にGDPの数値を高くしています。中国経済に与える影響は実際は欺瞞的なものです」
アメリカ政府系の海外向け放送、ボイス・オブ・アメリカ(VOA)は、中国の資金は主に以下の方法で流出していると伝えています。直接現金を携帯して出国するほか、オフショア金融センターに会社を設立、偽の輸出入帳簿を作成、およびその他の秘密の振替方法などです。
謝教授によると、中国国内の企業が海外で資産を購入する際、10倍以上高い価格で虚偽の申告をした後、中国共産党の官僚と共謀し、融資を受けます。このような形による国有銀行の資金流出もしばしば発生しています。この他、特許買取りの方法で資産を流出させることもよくみられる手口です。
データによると、新指導者・習近平氏が政権を掌握後、中国の腐敗官僚の海外への資金持ち逃げにさらに拍車がかかっています。
米サウスカロライナ大学 謝田教授
「中共の権力に対し、有効的な監督を行うほか、各種の会計組織 法律体制 メディアによる共同監督をしない場合、この点を根絶することは難しく、体制が変わらなければ、流出が続くだけではなく、激化する可能性もあります。中共の崩壊が目に見えてくると、恐怖に駆られた腐敗官僚が自分の財産を守ろうとするため、資金流出が加速するのです」
上海復旦大学の沈丁立(しんちょうりつ)教授はボイス・オブ・アメリカ(VOA)に対し、中国は流血しており、中国人による資本流出はまだ一部分にすぎず、外国資本が毎年中国から持ち出す額はGDPの6割に上ると述べています。
著名な経済学者・何清漣(か せいれん)さんも自身の論文の中で“偽外資”の内幕について述べています。何さんは、長い間中国が導入した外資のうち、相当数が偽外資であると指摘。つまり、中国人または中国会社が資金を海外に移し、海外で会社を登録したあと、“外資”の名義で中国に戻って来るのです。
中国の政府部門の情報によると、“偽外資”には主に3つのタイプがあり、ひとつは香港、マカオや国外に経営の実態がある中国資本企業が発展の必要性から帰国し、外資企業として会社を設立するパターン。二つ目は、海外融資を獲得するために、海外でダミー会社を登録し自社を買収させ、“レッドチップの形で上場”する中国資本企業。三つ目は純粋なレント・シーキングの目的で、海外、特にオフショア金融センターにダミー企業を登録し、外資に変身した中国企業だそうです。
新唐人テレビがお伝えしました。
http://www.ntdtv.jp/ntdtv_jp/economy/2013-02-14/841811998622.html
http://www.ntdtv.com/xtr/gb/2013/02/06/atext843652.html. (中国語)
(翻訳/赤平 編集/坂本 ナレーター/大口 映像編集/蒋)
◆中国のジニ係数が本当に「0・62」なら、革命が近い
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成25(2013)年2月15日(金曜日)弐
通巻第3879号
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中国のジニ係数が本当に「0・62」なら、革命が近い
GDPの48%をしめる不動産投資、天も懼れぬ不公平な分配
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中国は「革命前夜」の様相を示してきた。
それゆえに軍事的緊張を意図的に作り出す習近平政権の裏の狙いは国民の不満の行き先を「日本が悪い」とすり替える壮大な陰謀である。
冷静な報道で知られる英紙「フィナンシャル・タイムズ」には中国語版がある。その華字版がこう表現した(2月14日付け)。
「軍事対峙増加中日擦槍走火風険」(軍事的対立関係は日中間の軍事衝突に陥る危険性が増している)
なにが矛盾か?
6億5000万人の農民がいよいよ政府への怒りを露わにしていることだ。政府を敵と農民が明確に認識しはじめた事実は、歴史の転換点である。
農民プロレタリアートが権力に敵対するのだ。ネットでは習近平は「ラストエンペラー」と呼ばれている。「この共産党王朝は彼で最後だ」という意味である。
不公平きわまりない分配、その典型例を「ウォールストリート・ジャーナル」が中国の不動産取引の実態のケースを検証し、克明に伝えた(2月15日付け)。
四川省成都で養魚場を営んでいた女性は、土地の収用に反対していたが、度重なるマフィアの嫌がらせに嫌気し、とうとう土地を手放した。2010年12月だった。補償金は一平方メートルあたり、僅か9元だった。
地方政府は、この土地に高級マンションを建設するとして、業者に転売した。一平方メートルあたり640元。なんと70倍強。差額は地方政府の懐に入った。
土地を買ってマンションを建てた業者は、高級住宅を売り出して一平方につき6900元という値段をつけた。この土地の価格取引はデーベースに記録されていると同紙は伝えた。
▼ジニ係数が0・62だと、革命による政府転覆は近い
四川省成都にある西南財経大学が調査した結果「ジニ係数」は0・62だった。
ただちに中国国家統計局は反論し、中国のジニ係数は0・43と訂正したが、誰も信用しなかった。
なにしろ「あれは誰も信用していない」と発言したのは李克強(次期首相)その人であり、この醜態的発言をウィクリークスが暴露した。
中国のジニ係数は異常値であり、「一般的には0・4だと暴動が頻発し、0・5を越えると革命がおこる」が、すでに「革命水準」を超えて中国のジニ係数が0・6を越えているのだから、今後どうなるのか?
前述のような不公平な土地の収用は全国的規模で行われており、土地買収と土地転配との差額は日本円で24兆円前後と見積もられる。不動産投資はGDPの48%を占める。
富の偏在は、高級幹部の資金海外隠匿に繋がり、共産党幹部は海外へ逃げる準備に余念がない。革命が近いからである。
一学年700万人と見られる中国の大学新卒者にまったく就労チャンスがない。
よほどの優秀な学生しか外資系にはいれない。国有企業にはコネがないと入れない。多くは親のすねをかじるか、アルバイトで糊口をしのぎ、マンションの地下室の共同ベッド生活(これを蟻族、モグラ族という)。
まさに、この現象は学生のプロレタリアート化であり、少数の金持ちだけが冨を独占し、国家を支配するという構図はマルクスの分析通りであり、もはや中国共産党の正統性はない。学生が主体となるプロレタリアート革命がおこる懼れが強まる。
さて。
実態として「中国のGDPは実質的にマイナスとなっており、表向きの発表と実態とは巨大に乖離している。最近は貨物輸送量で計るという方法があるが、アメリカの学者は偵察衛星による光の量が決めてである」と専門家はいう。
つまり光の量が低いのはモノが動いておらず、あちこちに在庫が貯まっている証拠であり、くわえて大気汚染が凄まじく、全土が「アラル海化」(湖が砂漠化)するという恐怖のシナリオが日々進んでいる。
すでに中国から「直接投資」として流れ出したカネは2011年が652億ドル、12年が688億ドル。このうち56%が一度香港へおくられ、そのごケイマン、バージン諸島へ流れ込んでいることが判明している(間接投資は含まない)。
それなのに中国へまだ進出を続ける日本企業。あのヤオハンの教訓がまったく生かされておらず、日本企業は最終的にいかなる撤退劇を演じるのか?
http://melma.com/backnumber_45206_5761510/
その日、国家統計局は2012年12月の消費者物価指数(CPI)が前年同月比2.5%上昇したと発表した。
食品の値上がりなどで上昇幅が前月より0.5ポイント拡大した結果である。同局の発表によると、10月の消費者物価指数が1.7%だったから、この数カ月間における物価の上昇傾向は顕著である。
上昇の原因に関して、日本の一部のマスコミや専門家は、
厳冬の襲来によって野菜など生鮮品の品不足から生じた一時的現象であるとの分析を行っている。しかし中国国内ではむしろ、「インフレの再燃」を予兆するような危険な動向として捉える人が多い。
▼各紙が報じた「インフレ再燃」に対する懸念
たとえば「国際金融報」という経済専門紙は1月8日付で
「新年早々多種多様の商品が値上げ、インフレ率は上昇の方向へ転じるか」というタイトルの記事を掲載し、インフレの再燃に対する懸念を表明した。
北京に拠点を持つ「京華時報」という新聞も、1月9日付で「肉・卵・野菜は数週間連続で値上げ、物価の上昇は長期的すう勢となるか」と題する記事を掲載して、物価の上昇が一時的な現象ではなくむしろ「長期的なすう勢」となることを、専門家の発言を紹介しながら予測している。
そして翌日の1月10日、今度は「経済参考報」という有力経済紙が「物価上昇の圧力増大、インフレの傾向は楽観視できない」と題して、生活の現場で感じられた物価上昇の深刻さに焦点を当てながら「強いインフレ傾向」に対して警告を発した。
さらに同じ日に発行された「毎日経済新聞」の関連記事では、「安邦諮訊」という経済関係の研究・コンサルタント機関が出したレポートの論説が次のように紹介されている。曰く、「2013年初頭からの物価上昇は、季節性的なの変動ではなく、13年における物価の変化の大きさを予兆するものだ。
今年の物価上昇の勢いはわれわれが想像する以上に強いものとなろう」という。
このようにして、中国国内の多くの専門紙や専門機関は、
今年に入ってからの物価の上昇は今後の1年を通しての全体的傾向であると捉え、インフレ再来に対する懸念を表明していることがよく分かるであろう。
つまりこの2013年において、「インフレ再燃」の悪夢は再びやって来るのかもしれない、ということである。
▼57兆円相当の景気浮揚策
問題は、インフレの再燃が今後の中国経済にとって一体何を意味するのかということだ。
そしてそもそも、一旦沈静化したはずのインフレは再燃の兆しを見せ始めているのは一体なぜなのか。
それらの問いに答えるためにはここで一度、2009年以来の中国経済の変動を見てみる必要がある。
2008年夏に発生したリーマンショックとその後の世界同時不況は、中国経済にも多大な打撃を与えた。輸出の拡大をもって成長を支えてきた中国経済は、その時点すでに日本経済以上に対外依存度を高めていたから、同時不況にあえぐ米国を中心とする海外諸国への大幅な輸出減が経済の失速を招いた。
実際、2009年第1四半期の成長率は普段の二桁成長から大幅に落ちて、6.1%という中国にとって深刻な数字となった。
成長率のさらなる下落を食い止めるために、当時の中国政府は乾坤一擲の景気対策を打ち出した。
当時の為替レートで日本円にして57兆円相当の緊急な一括景気浮揚策を断行したのである。
その大半はもちろん政府による財政出動であって、資金の使い道はほとんど公共事業投資の拡大である。
それと連動して、中国政府は2009年と2010年の2年間にわたって史上最大規模の金融緩和をも行った。
中央銀行に命じて札を刷りまくって湯水のように供給することによって、景気の浮揚を図ろうとしたわけである。その結果、
たとえば2009年の1年間において中国の各銀行が企業その他を対象に行った新規融資の総額は9.7兆元(日本円120兆円相当)に上ったが、それは実は、当年度の中国の国内総生産の33.5兆元の2割以上、約3割にも相当するという信じられないほどの巨額の放漫融資であり、世界金融史上前代未聞の札の濫発となった。
▼金融引き締め政策の副作用
その結果、中国市場に放出されている流動性(M2)は極端に膨らみ、中国という国はまさに紙幣の大洪水に覆われた様相であった。
アメリカでは市場に流通しているM2の量はGDPの7割を超えてはいけないという法律まで作って紙幣の濫発を制限しているが、中国の場合、2010年となると、市場に流通している人民元の量はGDPの約2倍にもなっていた。まさに史上最大の流動性の氾濫である。
しかし流動性はそこまで膨らむと、結果として当然、紙幣の価値が大幅に失われてしまい、それは直ちに、モノの価値の上昇、すなわち物価上昇=インフレとなって現れてくるのである。
実際、中国では2009年の年末からインフレが始まった。
2009年11月に0.6%という超デフレレベルとなった消費者物価指数は、12月にはいきなり1.9%に上がってしまい、インフレはそこから始まった、
そして2010年1年を通してインフレ傾向はますます強まり、
2011年に入ってから物価の上昇はよりいっそう激しくなった。
2011年の夏にはインフレ率=消費者物価指数は一時に6.5%にまで上がってしまったが、その中でも特に食品の物価上昇率は激しく、一時は十数パーセントというハイパーインフレレベルのものとなっていた。
このような状況に対して大変な危機感を覚えたのは中国政府である。
国内では都市部だけでも数億人単位の貧困層が存在している中で、食品を中心とした物価の大幅な上昇は政権にとって命取りとなりかねない深刻な問題だ。
インフレ傾向がそのまま強まっていけば、ギリギリの線で生活している貧困層の人々は確実に食べていけなくなるので、政権をふっ飛ばすほどの社会的大動乱が発生してくる可能性が大である。
政権としては何としても物価の上昇を抑え付けなければならない。
そのために、中国政府は2011年からそれまでの金融緩和路線から一転し、大変厳しい金融引き締め政策を実施したのである。
つまり、金融引き締めで銀行から出る紙幣の量を大幅に減らすことによって市場の流動性を減らし、物価の安定化を図る、という政策である。
▼減速の一途を辿る中国経済
この政策の結果、2012年に入ってから中国のインフレ率はある程度沈静化した。
前述のように、2012年10月のインフレ率は1.7%という低水準に落ち着いた。
しかし、このような引き締め政策が厳しく実施された結果、中国経済にとって大変な副作用が生じてきた。
銀行からの融資が極限まで減らされた結果、中国経済の6割を支える民間の中小企業にお金が回ってこなくなり、その結果、製造業を中心に中小企業の倒産が相次ぎ、産業全体の衰退が始まった。
その一方、金融引き締めの中では公共事業の拡大に回る資金も枯渇して、中国経済の成長を支えて来た最大の柱である公共事業投資が大幅に減少した。
その結果、中小企業のみならずにして、今まで公共事業投資の拡大に依存して繁栄してきた鉄鋼やセメントなどの基幹産業も大変な不況に襲われた。
その当然の結果として、中国経済の成長は
2010年から減速の一途を辿ってきているのである。
2010年の第1四半期には11.9%に達した成長率は
2011年の第1四半期には9.7%、2012年の第1四半期には8.1%、
そして2012年の第3四半期にはさらに7.4%までに下がり、中国政府が死守してきた「生命線」の成長率8%を割ることとなったのである。
そしてその中で、再び危機的状況に立たされたのはやはり中国政府である。
成長率がそのまま下がっていけば、「2.3億人の流動人口」は確実にその行き場を失ってしまい、それもまた、社会的大動乱の発生を招きかねない。
このような悪夢を避けるために、実は2012年の夏頃から、中国政府は再び経済政策の転換を図った。
つまり、インフレ退治のための金融引き締め策から一転して、今度はもう一度の金融緩和を実施し出したのだ。
そして2012年の秋に中国政府はまた鉄道や港湾、高速道路など総額1兆元(約12兆4000億円)規模の公共投資を認可した。
つまり、減速する一方の中国経済を救うために、中国政府はかつて来た道を歩み、札の濫発=公共事業の拡大という「カンフル剤」をふたたび飲むことにしたわけである。
そしてその結果、せっかくの金融引き締め政策によって抑え付けられたはずの物価は去年の12月からふたたび上昇傾向となり、本文の冒頭で指摘したインフレの再燃はもう一度、中国経済の「大勢」となってしまったのである。
▼波乱に満ちた1年に
さて、今年を通じて再燃してくるはずのインフレの中、
中国の新政権は一体どう対処するかは当然大きな問題となってくる。
新政権は今後の経済運営において大変なジレンマに陥っていくはずである。
今の金融緩和・公共事業投資拡大路線を継続して行けば、
結果的には物価の上昇=インフレはますます深刻な問題となってしまい、「数億人の貧困層が生活できなくなる」という2011年の悪夢が蘇ってくる。
しかし、それを避けるために今の金融緩和・公共事業投資拡大をやめてしまえば、中国経済のさらなる減速はもはや避けられない。
そうすると、行き場を失う「2.3億人流動人口」の行方はまた、政権にとっての命取りの火種となるのである。
言ってみれば、インフレで死ぬか、経済減速で死ぬか、という究極な二者択一の選択は中国の新しい指導部に迫ってくるわけだが、彼らは一体、どちらかを選ぶのだろうか。
結局、どちらを選ぶにしても、中国経済の2013年は間違いなく、波乱に満ちた大変な一年となることは間違いないだろうと思う次第である。
産経ニュース2013.2.25 03:07
超高層ビルが林立する上海の国際金融センターから地下鉄で30分ほどのベッドタウンに、その12階建てのビルはあった。米国の政府機関や企業へのハッカー攻撃に関与していると指摘された中国人民解放軍「61398部隊」の拠点だ。
住宅や商店に囲まれた都市部の日常的な空間に、警備に目を光らせる兵士らの姿ばかりが異様に映る。このビルを車中から撮影した米国人記者が兵士にみつかり、身柄拘束の上、撮影画像を強制的に消去させられる騒ぎがあった。こんな時こそ、米国人ほど目立たない日本人記者の出番なのだが、すぐに警備兵に誰何(すいか)され、追い返された。
米国での報道に対し、中国国防省は「人民解放軍はいかなるハッカー活動も支援したことはない」と完全否定。さらに中国外務省などは「米こそハッカー攻撃国だ」とキバをむいた。
一方、この「61398部隊」が2004年ごろから上海周辺の大学で、コンピューター技術を学ぶ学生に卒業後の同部隊への入隊を条件に奨学金を出す「求人活動」を行っていたことが明らかになっている。
特別な技能をもつ有能な大卒者を軍に引き留めるため、基地周辺のへんぴな土地柄ではなく、大都会の一角を勤務地にしたと考えれば、軍事拠点としては違和感のあるビルの立地にも納得がいく。(河崎真澄)
http://sankei.jp.msn.com/world/news/130225/chn13022503080002-n1.htm