”町田そのこ”さんの小説「夜明けのはざま(ポプラ社)」を読了しました。町田さんの小説を読むのは、数年前に本屋大賞を受賞した「52ヘルツのクジラたち」以来、2冊目です。映画にもなった「52ヘルツのクジラたち」と同様に、今回の作品「夜明けのはざま」もなかなか重厚な小説で、いろいろと考えさせられました。
地方都市の寂れた町にある葬儀社「芥子実庵(けしのみあん)」を舞台にした、それぞれが独立した5つの短編からなるこの小説ですが、それぞれの物語が微妙に関係し合う手法を用いながら、作者の町田さんは読者にいろいろなことを考えさせます。すべての章で共通なテーマは「人の死」です。
第1章「見送る背中」は、仕事のやりがいと結婚の間で揺れる中、親友の自死の知らせを受けた葬祭ディレクターの真奈の物語。第2章「私が愛したかった男」は、元夫の恋人(男性)の葬儀を手伝うことになった花屋の千和子の物語。第3章「芥子の実」は、世界で一番会いたくなかった男(中学・高校時代に自分をいじめた同級生)に再会した葬儀社の新人社員の須田の物語。第4章「あなたのための椅子」は、夫との関係に悩む中で元恋人の訃報を受け取った主婦・良子の物語。そして最終章「一握の砂」は、恋人との考えの食い違いにより、結婚へのふんぎりがつかない真奈(第1章の主人公)の物語。
それぞれの主人公が「死」に向き合うストーリーで、ボクら読者も考えさせられる作品でした。重いテーマなのに、辛い事がたくさんあるのに、最後の最後には「希望」が見えてくるような物語です。町田さんが描く世界はあくまで優しいですね。読者であるボク自身が、「自分の人生において何を選び何を失うのか?」という究極の選択を迫られているような気持ちになって読み進めました。ですが、「自分の苦手なことは誰かに助けてもらうとよい」し、「誰かに繋げていくとよい」と、町田さんは優しく読者に語りかけてくれているようでした。読んでいる側のこちらまで、優しい気持ちになれました。ですが、登場人物を苦しめる周りの人間達の思考の中には、ボク自身もそう考え得る価値観も見つけ、自分の中の醜さを自覚せざるを得ない場面もありました。
町田そのこさんという小説家、なかなか素晴らしいですね。まだ2作品を読んだだけですが、もう少し彼女の作品を読んでみたいな…と思いました。