Q8 契約社員,パートタイマー,アルバイト等の有期雇用労働者との労働契約を有効に終了させることができるようにするためには,どのようなことに注意する必要がありますか?
契約社員,パートタイマー,アルバイト等,有期労働契約が締結されている労働者について,契約期間中に解雇することは,「やむを得ない事由」がある場合でないと認められません(労働契約法17条1項,民法628条)。
「やむを得ない事由がある」というための要件は,期間の定めのない正社員の解雇の要件よりも厳格なものと考えられていますので,有期労働者については,契約期間中は原則として解雇できないことを前提に,採用活動を行うべきでしょう。
パート,アルバイトであればいつでも解雇できるものと誤解されていることがありますが,全くの誤りです。
将来の売上げの見通しが立たない場合は,漫然と長期の労働契約を締結するのではなく,採用を控えるか,ごく短期の労働契約を締結するにとどめておく必要があります。
有期労働契約期間が満了した場合は,契約終了となるのが原則です。
ただし,3回以上契約を更新された場合,又は,1年を超えて継続勤務している場合には,期間満了日の30日前までに雇止めの予告をしなければならず,労働者が更新しない理由,又は,更新しなかった理由についての証明書の交付を求めたときは,遅滞なく交付しなければなりません(平成15年10月22日厚生労働省告示357号)。
有期労働契約期間が満了した場合であっても,期間の定めのある労働契約があたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在している場合(東芝柳町工場事件における最高裁第一小法廷昭和49年7月22日判決,労判206-27),又は,労働者においてその期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合(日立メディコ事件における最高裁第一小法廷昭和61年12月4日判決,労判486-6)には,解雇権濫用法理(労働契約法16条)が類推適用され,当該労働契約の雇止め(更新拒絶)は,客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められないときには許されず,期間満了後における使用者と労働者間の法律関係は従前の労働契約が更新されたのと同様の法律関係になります。
訴訟における主張立証の分担としては,
① 期間の定めのある労働契約があたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならないこと又は雇用継続期待に合理性があること(解雇権濫用法理が類推適用される事案であること)の評価根拠事実,解雇の場合であれば解雇権濫用に当たることの評価根拠事実を労働者が主張立証し,
② それらの評価障害事実を使用者が主張立証していく
ことになります。
期間の定めのある労働契約があたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならないこと又は雇用継続期待に合理性があること(解雇権濫用法理が類推適用される事案であること)の評価根拠(障害)事実の主張立証については,労働者側の負担が比較的重くなりやすい箇所ですので,使用者側としては,しっかり防御すべきポイントとなります。
期間の定めのある労働契約があたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならないケースについては,雇用保護の要請が比較的強いため,解雇権濫用と判断されやすい傾向にあります。
雇用継続期待に合理性があるとされたケースについては,日立メディコ事件最高裁判決が,「しかし,右臨時員の雇用関係は比較的簡易な採用手続で締結された短期的有期契約を前提とするものである以上,雇止めの効力を判断すべき基準は,いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約を締結しているいわゆる本工を解雇する場合とはおのずから合理的な差異があるべきである」と判示していることもあり,「合理的差異論」により,比較的,解雇権濫用とは判断されにくい傾向にありますが,ケースバイケースです。
裁判所に雇止めを有効と判断してもらうためには,最低限,「期間の定めのある労働契約があたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない」と判断されないように契約更新手続を書面で厳格に行うようにしておくべきこととなります。
その上で,期間雇用労働者が契約更新に合理的期待を抱くことがないよう,正社員と期間雇用労働者とを明確に区別した労務管理を行うべきこととなります。
解雇権濫用法理が類推適用されるような事案かどうかについては,通常,以下のような要素を考慮して判断することになります。
① 業務内容の恒常性・臨時性,業務内容についての通常の労働者との同一性の有無等労働者の従事する業務の客観的内容
② 地位の基幹性・臨時性等労働者の契約上の地位の性格
③ 継続雇用を期待させる事業主の言動等当事者の主観的態様
④ 更新の有無・回数,更新の手続の厳格性の程度,更新の手続・実態
⑤ 同様の地位にある他の労働者の雇止めの有無等他の労働者の更新状況
正社員について,試用期間を設けたとしても,本採用拒否(留保解約権の行使)が,解雇権濫用法理(労働契約法16条)により無効とされることも多いことから,最初から正社員として雇用するのではなく,まずは有期労働契約を締結して正社員と同様の職務に従事させ,労働者に問題があれば雇止めし,問題がない場合には正社員として登用することがあります。
労働者の適性を評価・判断するための有期契約期間は,契約期間の満了により労働契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き,試用期間として取り扱われることになり,有期労働契約期間中の労働者が正社員と同じ職場で同じ職務に従事し,使用者の取扱いにも格段変わったところはなく,また,正社員登用時に労働契約書作成の手続が採られていないような場合には,原則として解約権留保付労働契約と評価され,本採用拒否(留保解約権の行使)が許される場合でない限り,労働契約を契約期間満了で終了させることができません(神戸弘陵学園事件における最高裁第三小法廷平成2年6月5日判決,労判564-7)。
したがって,労働者の適性を評価・判断することを目的とした有期労働契約を締結した場合に,契約期間満了時に問題社員との労働契約を終了させることができるようにするためには,契約期間の満了により労働契約が当然に終了する旨の明確な合意を書面でしておくとともに,正社員に登用する労働者については正社員登用時に労働契約書作成の手続を確実に採っておくべきことになります。
神戸弘陵学園事件最高裁判決は,この点に関し,以下のとおり判示しています。
「ところで,使用者が労働者を新規に採用するに当たり,その雇用契約に期間を設けた場合において,その設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは,右期間の満了により右雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き,右期間は契約の存続期間ではなく,試用期間であると解するのが相当である。そして,試用期間付雇用契約の法的性質については,試用期間中の労働者に対する処遇の実情や試用期間満了時の本採用手続の実態等に照らしてこれを判断するほかないところ,試用期間中の労働者が試用期間の付いていない労働者と同じ職場で同じ職務に従事し,使用者の取扱いにも格段変わったところはなく,また,試用期間満了時に再雇用(すなわち本採用)に関する契約書作成の手続が採られていないような場合には,他に特段の事情が認められない限り,これを解約権留保付雇用契約であると解するのが相当である。そして,解約権留保付雇用契約における解約権の行使は,解約権留保の趣旨・目的に照らして,客観的に合理的な理由があり社会通念上相当として是認される場合に許されるものであって,通常の雇用契約における解雇の場合よりもより広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきであるが,試用期間付雇用契約が試用期間の満了により終了するためには,本採用の拒否すなわち留保解約権の行使が許される場合でなければならない。」
弁護士 藤田 進太郎
契約社員,パートタイマー,アルバイト等,有期労働契約が締結されている労働者について,契約期間中に解雇することは,「やむを得ない事由」がある場合でないと認められません(労働契約法17条1項,民法628条)。
「やむを得ない事由がある」というための要件は,期間の定めのない正社員の解雇の要件よりも厳格なものと考えられていますので,有期労働者については,契約期間中は原則として解雇できないことを前提に,採用活動を行うべきでしょう。
パート,アルバイトであればいつでも解雇できるものと誤解されていることがありますが,全くの誤りです。
将来の売上げの見通しが立たない場合は,漫然と長期の労働契約を締結するのではなく,採用を控えるか,ごく短期の労働契約を締結するにとどめておく必要があります。
有期労働契約期間が満了した場合は,契約終了となるのが原則です。
ただし,3回以上契約を更新された場合,又は,1年を超えて継続勤務している場合には,期間満了日の30日前までに雇止めの予告をしなければならず,労働者が更新しない理由,又は,更新しなかった理由についての証明書の交付を求めたときは,遅滞なく交付しなければなりません(平成15年10月22日厚生労働省告示357号)。
有期労働契約期間が満了した場合であっても,期間の定めのある労働契約があたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在している場合(東芝柳町工場事件における最高裁第一小法廷昭和49年7月22日判決,労判206-27),又は,労働者においてその期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合(日立メディコ事件における最高裁第一小法廷昭和61年12月4日判決,労判486-6)には,解雇権濫用法理(労働契約法16条)が類推適用され,当該労働契約の雇止め(更新拒絶)は,客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められないときには許されず,期間満了後における使用者と労働者間の法律関係は従前の労働契約が更新されたのと同様の法律関係になります。
訴訟における主張立証の分担としては,
① 期間の定めのある労働契約があたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならないこと又は雇用継続期待に合理性があること(解雇権濫用法理が類推適用される事案であること)の評価根拠事実,解雇の場合であれば解雇権濫用に当たることの評価根拠事実を労働者が主張立証し,
② それらの評価障害事実を使用者が主張立証していく
ことになります。
期間の定めのある労働契約があたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならないこと又は雇用継続期待に合理性があること(解雇権濫用法理が類推適用される事案であること)の評価根拠(障害)事実の主張立証については,労働者側の負担が比較的重くなりやすい箇所ですので,使用者側としては,しっかり防御すべきポイントとなります。
期間の定めのある労働契約があたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならないケースについては,雇用保護の要請が比較的強いため,解雇権濫用と判断されやすい傾向にあります。
雇用継続期待に合理性があるとされたケースについては,日立メディコ事件最高裁判決が,「しかし,右臨時員の雇用関係は比較的簡易な採用手続で締結された短期的有期契約を前提とするものである以上,雇止めの効力を判断すべき基準は,いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約を締結しているいわゆる本工を解雇する場合とはおのずから合理的な差異があるべきである」と判示していることもあり,「合理的差異論」により,比較的,解雇権濫用とは判断されにくい傾向にありますが,ケースバイケースです。
裁判所に雇止めを有効と判断してもらうためには,最低限,「期間の定めのある労働契約があたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない」と判断されないように契約更新手続を書面で厳格に行うようにしておくべきこととなります。
その上で,期間雇用労働者が契約更新に合理的期待を抱くことがないよう,正社員と期間雇用労働者とを明確に区別した労務管理を行うべきこととなります。
解雇権濫用法理が類推適用されるような事案かどうかについては,通常,以下のような要素を考慮して判断することになります。
① 業務内容の恒常性・臨時性,業務内容についての通常の労働者との同一性の有無等労働者の従事する業務の客観的内容
② 地位の基幹性・臨時性等労働者の契約上の地位の性格
③ 継続雇用を期待させる事業主の言動等当事者の主観的態様
④ 更新の有無・回数,更新の手続の厳格性の程度,更新の手続・実態
⑤ 同様の地位にある他の労働者の雇止めの有無等他の労働者の更新状況
正社員について,試用期間を設けたとしても,本採用拒否(留保解約権の行使)が,解雇権濫用法理(労働契約法16条)により無効とされることも多いことから,最初から正社員として雇用するのではなく,まずは有期労働契約を締結して正社員と同様の職務に従事させ,労働者に問題があれば雇止めし,問題がない場合には正社員として登用することがあります。
労働者の適性を評価・判断するための有期契約期間は,契約期間の満了により労働契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き,試用期間として取り扱われることになり,有期労働契約期間中の労働者が正社員と同じ職場で同じ職務に従事し,使用者の取扱いにも格段変わったところはなく,また,正社員登用時に労働契約書作成の手続が採られていないような場合には,原則として解約権留保付労働契約と評価され,本採用拒否(留保解約権の行使)が許される場合でない限り,労働契約を契約期間満了で終了させることができません(神戸弘陵学園事件における最高裁第三小法廷平成2年6月5日判決,労判564-7)。
したがって,労働者の適性を評価・判断することを目的とした有期労働契約を締結した場合に,契約期間満了時に問題社員との労働契約を終了させることができるようにするためには,契約期間の満了により労働契約が当然に終了する旨の明確な合意を書面でしておくとともに,正社員に登用する労働者については正社員登用時に労働契約書作成の手続を確実に採っておくべきことになります。
神戸弘陵学園事件最高裁判決は,この点に関し,以下のとおり判示しています。
「ところで,使用者が労働者を新規に採用するに当たり,その雇用契約に期間を設けた場合において,その設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは,右期間の満了により右雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き,右期間は契約の存続期間ではなく,試用期間であると解するのが相当である。そして,試用期間付雇用契約の法的性質については,試用期間中の労働者に対する処遇の実情や試用期間満了時の本採用手続の実態等に照らしてこれを判断するほかないところ,試用期間中の労働者が試用期間の付いていない労働者と同じ職場で同じ職務に従事し,使用者の取扱いにも格段変わったところはなく,また,試用期間満了時に再雇用(すなわち本採用)に関する契約書作成の手続が採られていないような場合には,他に特段の事情が認められない限り,これを解約権留保付雇用契約であると解するのが相当である。そして,解約権留保付雇用契約における解約権の行使は,解約権留保の趣旨・目的に照らして,客観的に合理的な理由があり社会通念上相当として是認される場合に許されるものであって,通常の雇用契約における解雇の場合よりもより広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきであるが,試用期間付雇用契約が試用期間の満了により終了するためには,本採用の拒否すなわち留保解約権の行使が許される場合でなければならない。」
弁護士 藤田 進太郎