試しにドアノブを回してみたが、入ってきたときとは大違いで、びくりとも動かなかった。
警戒はしていたが、事前に準備されていただろう罠に、これほど早くはめられるとは、思ってもいなかった。
ならば、もうこそこそ隠れていても、仕方のないことだった。
沙織は立ち上がると、部屋の中を見回した。
忍びこんだときはわからなかったが、沙織がいる部屋は、まるでラボのようだった。
工作台のようなテーブルが何台も床に据えつけられ、電力を使うためのコードだろうか、天井からコンセントのような物がぶら下がっていた。壁際に置かれた戸棚にはなにかの容器や器具が雑然と並べられていた。
そして、沙織は金属の棺を見つけた。
頑丈そうな台と台の間に、わざわざスペースを空けて置かれていたのは、ところどころ錆びた上蓋に、乱暴に“十七号”と走り書きされた鉄の棺だった。
――どうして、こんな物が。
一瞬、杉野重造が隠し持っていた秘宝ではないか、という考えが脳裏に浮かんだが、どこからか掘り起こされたような、生々しい土の臭いが漂ってきそうな棺が、“神の杖”に繋がる物のはずがなかった。
しかし、沙織はためらいながらも、室内を素早く探して道具を集め、金属製の棺の重い上蓋を開けていった。
見つけた短いバールと取っ手の細いドライバーでは、なかなか作業が進まなかった。
それでも、ようやく上蓋をずらし開けて中を見ると、生きているとしか思えない表情の、こう言ってもいいのなら、まだどこかあどけなさを残した青年が一人、横たえられていた。
沙織は恐る恐る、こじ開けた上蓋の下に覗いている青年の頬を、そっと手で触れてみた。
無機質な、ひんやりとした触感を想像していたが、人の皮膚と同様、しっとりとした弾力とかすかな温かさが、指先から伝わってきた。
「もしかして、キミって生きてるの?」
思わずつぶやいた沙織だったが、棺の中に伸ばした手をそのまま滑らせ、肩口に触れたとたん、思いもしない氷のような冷たさが伝わってきて、触れていた手をあわてて離した。
――人じゃない。
しかし、人としか見えなかった。強いて言うのなら、精巧に作られたサイボーグだった。