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くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

王様の扉(202)

2024-02-04 00:00:00 | 「王様の扉」

 試しにドアノブを回してみたが、入ってきたときとは大違いで、びくりとも動かなかった。
 警戒はしていたが、事前に準備されていただろう罠に、これほど早くはめられるとは、思ってもいなかった。
 ならば、もうこそこそ隠れていても、仕方のないことだった。
 沙織は立ち上がると、部屋の中を見回した。
 忍びこんだときはわからなかったが、沙織がいる部屋は、まるでラボのようだった。
 工作台のようなテーブルが何台も床に据えつけられ、電力を使うためのコードだろうか、天井からコンセントのような物がぶら下がっていた。壁際に置かれた戸棚にはなにかの容器や器具が雑然と並べられていた。

 そして、沙織は金属の棺を見つけた。

 頑丈そうな台と台の間に、わざわざスペースを空けて置かれていたのは、ところどころ錆びた上蓋に、乱暴に“十七号”と走り書きされた鉄の棺だった。

 ――どうして、こんな物が。

 一瞬、杉野重造が隠し持っていた秘宝ではないか、という考えが脳裏に浮かんだが、どこからか掘り起こされたような、生々しい土の臭いが漂ってきそうな棺が、“神の杖”に繋がる物のはずがなかった。
 しかし、沙織はためらいながらも、室内を素早く探して道具を集め、金属製の棺の重い上蓋を開けていった。
 見つけた短いバールと取っ手の細いドライバーでは、なかなか作業が進まなかった。
 それでも、ようやく上蓋をずらし開けて中を見ると、生きているとしか思えない表情の、こう言ってもいいのなら、まだどこかあどけなさを残した青年が一人、横たえられていた。
 沙織は恐る恐る、こじ開けた上蓋の下に覗いている青年の頬を、そっと手で触れてみた。
 無機質な、ひんやりとした触感を想像していたが、人の皮膚と同様、しっとりとした弾力とかすかな温かさが、指先から伝わってきた。

「もしかして、キミって生きてるの?」

 思わずつぶやいた沙織だったが、棺の中に伸ばした手をそのまま滑らせ、肩口に触れたとたん、思いもしない氷のような冷たさが伝わってきて、触れていた手をあわてて離した。

 ――人じゃない。

 しかし、人としか見えなかった。強いて言うのなら、精巧に作られたサイボーグだった。

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王様の扉(201)

2024-02-04 00:00:00 | 「王様の扉」

 どういった理屈や理論ががそこに存在しているのか、沙織にはまるでわからなかったが、ただ1つ明らかなことは“神の杖”が少なからず関係しているということだった。

 タンタン、タタン、タンタンタン……。

 タタン、タンタン、タタンタタン……。

 ――急に、複数の足音が聞こえてきた。
 なにかを探しているような足音は、静かな部屋の中に、耳障りなキンキンという音を木霊させて近づいてきた。
 実感はなかったが、なにかのセキュリティに感知されたのかもしれなかった。
 バラバラバラ……とした足音は、侵入した沙織をあわてて探しているような、張り詰めた緊張感に溢れていた。
 室内の構造はまるでわからなかったが、こちらに向かってくる、うるさいほど大きな足音に注意を払いつつ、追っ手の裏を掻くルートをイメージしながら、沙織は広い室内を音もなく移動していった。

「いたか!」
「――こっちにはいません」
「そっちはどうだ……」

 追っ手の姿は見えなかったが、少なくとも三人はいるはずだった。

 ――カチャリ。

 と、沙織は部屋の一つに入った。
 追い詰められるかもしれなかったが、どこかでやり過ごさなければ、見つかるのは時間の問題だった。
 罠ならば、甘んじて受けて立つつもりだった。
 陰に潜って密かに探っても、十字教も神の杖も、まるでその正体を現そうとしなかった。
 まんまと罠にはめられることで、秘密のベールに覆われた彼らの正体を目にすることができるのであれば、命を落としかねない怪我を負うことになろうとも、それは価値のあることだった。

「なるほど。そういうことね」

 と、沙織は声に出してため息をもらした。
 部屋に入るなり、近づいてきていたはずの足音も、追っ手が交わす言葉も、人が発しているであろう温度でさえも、なにもかもが嘘のように消え去ってしまった。
 ドアの背に隠れて息を潜めていても、スチール製のドアの冷たさと、ガラス窓に吹き当たる隙間風の悲しい曲ばかりが、伝わってきた。

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