くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

王様の扉(216)

2024-02-11 00:00:00 | 「王様の扉」

「おまえは、何者だ」と、ジローは信じられないというように言った。
「俺は警察官だ。おとなしく逮捕されろ」と、伊達は仰向けになったジローを見下ろしながら言った。
「おまえが何者だろうと知ったことではない」と、ジローは歯を食いしばりながら言った。「おまえは何者だ、そう言ってるんだ」
 言ったジローの視線が、不意に伊達を逸れ、伊達の後ろに向けられた。
「――」と、伊達がちらりとジローの視線の先を見ると、スーツを着た子供が、手持ち無沙汰に後ろで手を組み、せわしなく貧乏揺すりをしながら立っていた。

「おや。私が見えるみたいですね」

 と、スーツを着た子供が、ため息をつくように言った。
「おまえにも見えるのか?」と、言った伊達の足をつかむと、ジローは膝をつきながら立ち上がり、代わりに伊達をひっくり返した。
「――妖怪のたぐいか? いや、魑魅魍魎の仲間だな」と、ジローは立ち上がると、倒れている伊達を片腕でつかみ上げ、階段の下まで、軽々と放り投げた。
 頭上高く放り投げれた伊達は、ジローを取り囲んでいた機動隊の真上から、真っ逆さまに落下していった。
 ジローを逃がさないよう、壁を作っていた機動隊員達は、真上から落ちてくる伊達を避けるため、陣形を一時的に崩さなければならなかった。
 機動隊員達の壁が崩れたのを見計らい、ジローは体当たりをするように上体を屈めて駆け出すと、壁を突破して宝石店の敷地から外に出ようとした。

 バスンッ――。 

 と、足下に投げつけられた盾に足を取られ、ジローは階段の下に前のめりに倒れこんだ。
「俺は妖怪変化か――」と、体中の関節をボキボキと鳴らしながら、伊達は言った。「だったらおまえは、古ぼけたポンコツだろうが」
 奇妙な踊りを舞うように、うつぶせに倒れたジローに駆け寄った伊達は、後ろ手につかんだジローの腕を肩の方にひねり上げ、抵抗ができないように押さえつけようとした。
「――誰がポンコツだ」と、後ろ向きに伊達を見ながら、ジローは言った。

「いいか、おれは人間だ」

 階段下のアスファルトが波打つように盛り上がったのは、ジローがねじり上げられた腕ごと、伊達を振り払って立ち上がろうとしていた時だった。
 思わぬできごとに、再び陣形を組み始めていた機動隊員達は、また二人と距離をとって後ろに下がり、様子をうかがっていた。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

王様の扉(215)

2024-02-11 00:00:00 | 「王様の扉」

 階段の下に頭を向けたジローの足を、伊達は片手でつかむと、階段の上まで、砕けたガラスをザラザラと鳴らしながら引っ張り上げた。
 脳しんとうを起こしたのか、力なく宙を仰いでいるジローの胸をつかんで起き上がらせると、伊達は右の拳を大きく振りあげ、骨を砕くほどの勢いでジローの顔面に叩きこんだ。

 ――ゴワーン、ワワーン。

 と、肉を打つ音ではなく、大きな鐘を小槌で突き鳴らすような音が響いた。
 一撃だけではなかった。
 もう一撃、もう一撃と伊達は拳をジローに叩きこんだ。

 ――ゴワーン、ゴワワーン。

 と、ようやく目の焦点の合ったジローは、伊達をしっかと見据えると、今にも打ちこまれそうだった伊達の拳を左手でつかみ受けた。
「抵抗するな。おとなしく逮捕されろ」と、ジローに押し返される拳を、さらに押し返そうとする伊達が、苦しそうに言った。
「おまえ達に邪魔される覚えはない」と、ジローは言うと、伊達の拳をつかんだまま腕を振り上げ、つかんだ拳ごと、伊達を放り投げてしまった。
 固い地面にしたたか打ちつけられ、気を失ったように力なくうつぶせに倒れ伸びた伊達を目の端に、ジローは踵を返してその場を離れようとした。
 それまで、じっと様子をうかがっていた機動隊員達が、伊達が倒されたのを確認したからなのか、ジローを捕まえようと、その進路を塞ぐように、集まって強固な壁を造った。
 目の前に盾を組んで壁を作られたジローは、機動隊員達を避けようとしたが、進路を変える度、正面に移動してきて立ち塞がるのに業を煮やし、勢いをつけて体当たりをすると、力まかせに壁を壊そうとした。
 機動隊員達が数人がかりで組んだ壁を、ジローはたった一人で崩してしまった。
 しかし、たとえ盾を落とされてもくじけない機動隊員達は、ジローの目の前に立ち続け、なんとか捕らえようと歯を食いしばっていた。

「どけ、邪魔だ――」

 鬼のような、怒りに満ちた表情を浮かべたジローは、機動隊員達を一人ずつ排除しようと、つかみかかった。
 と、ジローの腕を後ろからつかんだ伊達が、先ほどのお返しとばかり、ジローを頭上高く持ち上げると、宝石店の正面まで、ふらつきながらも投げ飛ばした。

 ――ゴウン、ゴウウン。

 大きな鉄の鐘がひっくり返ったような鈍い音を響かせ、ジローは固い地面の上に頭から落ちた。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする