「おまえは、何者だ」と、ジローは信じられないというように言った。
「俺は警察官だ。おとなしく逮捕されろ」と、伊達は仰向けになったジローを見下ろしながら言った。
「おまえが何者だろうと知ったことではない」と、ジローは歯を食いしばりながら言った。「おまえは何者だ、そう言ってるんだ」
言ったジローの視線が、不意に伊達を逸れ、伊達の後ろに向けられた。
「――」と、伊達がちらりとジローの視線の先を見ると、スーツを着た子供が、手持ち無沙汰に後ろで手を組み、せわしなく貧乏揺すりをしながら立っていた。
「おや。私が見えるみたいですね」
と、スーツを着た子供が、ため息をつくように言った。
「おまえにも見えるのか?」と、言った伊達の足をつかむと、ジローは膝をつきながら立ち上がり、代わりに伊達をひっくり返した。
「――妖怪のたぐいか? いや、魑魅魍魎の仲間だな」と、ジローは立ち上がると、倒れている伊達を片腕でつかみ上げ、階段の下まで、軽々と放り投げた。
頭上高く放り投げれた伊達は、ジローを取り囲んでいた機動隊の真上から、真っ逆さまに落下していった。
ジローを逃がさないよう、壁を作っていた機動隊員達は、真上から落ちてくる伊達を避けるため、陣形を一時的に崩さなければならなかった。
機動隊員達の壁が崩れたのを見計らい、ジローは体当たりをするように上体を屈めて駆け出すと、壁を突破して宝石店の敷地から外に出ようとした。
バスンッ――。
と、足下に投げつけられた盾に足を取られ、ジローは階段の下に前のめりに倒れこんだ。
「俺は妖怪変化か――」と、体中の関節をボキボキと鳴らしながら、伊達は言った。「だったらおまえは、古ぼけたポンコツだろうが」
奇妙な踊りを舞うように、うつぶせに倒れたジローに駆け寄った伊達は、後ろ手につかんだジローの腕を肩の方にひねり上げ、抵抗ができないように押さえつけようとした。
「――誰がポンコツだ」と、後ろ向きに伊達を見ながら、ジローは言った。
「いいか、おれは人間だ」
階段下のアスファルトが波打つように盛り上がったのは、ジローがねじり上げられた腕ごと、伊達を振り払って立ち上がろうとしていた時だった。
思わぬできごとに、再び陣形を組み始めていた機動隊員達は、また二人と距離をとって後ろに下がり、様子をうかがっていた。