18【守るべきもの】
――ドド、ドン。
と、重々しい音が背後で轟いた。
世間を騒がせている盗賊が、犯行予告を送りつけてきた宝石店の正面だった。
北海道警察の文字を記したパトカーが数台、無音のまま赤いライトを点灯させて停められていた。
正面だけではなかった。賊が侵入できそうな通路を塞ぐように、それぞれにパトカーが停められていた。
宝石店への出入りは、階段を数段上った正面の出入り口からのみ可能とし、騒ぎが大きくならないように、必要最小限の人員で警備にあたっていた。
具体的には、正面に制服警官を二人。出入り口の左右に一人ずつ配置したほか、宝石店を囲むように、互いの距離を広く開けた制服警官が周囲を警戒し、残りの警官は、装備を整えた機動隊員と共にパトカーの中で待機していた。
車の中にいても、足下から地響きのように伝わってきた振動と音に驚き、盗賊の警戒にあたっていた付近の警官達は、一斉に正面の出入り口を振り向いた。
厚いガラスを填めた正面のドアが蝶番ごと破壊され、鋭いガラスの破片が粉微塵に散乱している階段の上で、スチール製のフレームだけが無残に屏風倒しになっていた。
あっけにとられて凍りついた警官達が見守る中、
「逃げろ」
と、足下に沙織を下ろしたジローは立ち上がり、階段の端までゆっくりとした足取りで出てくると、その場にいた警官達を舐るように一瞥した。
「――なんだ、あいつ」
と、眼帯をした刑事が、運転席のドアから身を乗り出すように言った。
「男はいい、倒れている女を先に確保だ」
眼帯をした刑事が指示を出すより早く、後ろに下がった制服警官と入れ替わった機動隊員達が、宝石店の中から出てきた男を取り囲んだ。
「おとなしくしろ。抵抗するな」
と、マニュアルどおりのセリフなのかもしれないが、ジローは機動隊員の指示には耳を貸さず、逆に、目の前に突き出された透明の盾をわしづかみにすると、手を離さない隊員ごと、階段の下に放り投げた。