あっという間に、沙織は男達に囲まれていた。
「この……なんて言ったか、“為空間”だったな。ここからは決して逃げられやしないぞ」と、拳銃を構えた男は言った。「プレシディオの餌食になって、粉微塵になっちまえ」
「娘婿がわざわざ出てくるなんて、よっぽど見られちゃ困る物のようね」と、振り返った沙織の顔には、目だけを覆うマスクがはめられていた。「だけど、そううまく行くかしら。ここでそんな物撃ちまくったら、怪我するのは私だけじゃないわよ」
背中に回した沙織の手は、バッグの中にしまっていた拳銃を、そっと探っていた。
「おまえを片付けるのは俺たちじゃない」と、拳銃を持った工藤は言った。「そこで眠っているやつだよ」
にやついた笑みを浮かべた工藤に言われ、――はっ、として棺のそばから離れようとした沙織だったが、棺の中で横たわっていた青年が、音もなくすっくと立ち上がった。
「はっはっは……」
と、沙織を取り囲んでいた男達が、工藤の笑い声に合わせて一斉に出入り口のある壁まで下がった。
拳銃を構えた工藤は、沙織に狙いをつけたまま、棺から立ち上がった青年に言った。
「さぁ、プレシシディオ。その女を引っ捕らえろ」
しかし、薄い手術着を着た青年は、うつろな目で正面に立った男を見やると、はっと横を向き、沙織に言った。
「――さおり? 沙織なのか」
と、ジローは驚いたように言った
沙織は身じろぎもしないまま、返事をする代わりに大きく首を傾げた。
「もういい。撃て、おまえら。こいつらを無事で帰すな」
と、拳銃を構えた工藤は言うと、沙織とジローに向かって、次々に拳銃が発砲された。
工作台のようなテーブルの陰にさっと身を隠した沙織とは反対に、棺を飛び出したジローは、床に落ちていた棺の蓋を拾うと、盾のように構えて激しい銃弾を避けながら、沙織の元に近づいていった。
「あなた、言葉はわかるの」
と、沙織はジローに言った。
「沙織、ここは危ない――」と、沙織の手を取ったジローは言うと、男達に向き直った。「ここを出よう。話しはその後だ」
「――」と、無言のままうなずいた沙織は立ち上がると、ジローの持つ棺の蓋に隠れながら、やって来た出入り口に近づいていった。