おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

にっぽん泥棒物語

2019-12-10 08:59:35 | 映画
「にっぽん泥棒物語」 1965年 日本


監督 山本薩夫
出演 三国連太郎 佐久間良子 伊藤雄之助
   江原真二郎 緑魔子 市原悦子
   千葉真一 西村晃 北林谷栄

ストーリー
窃盗、強盗、置き引き、泥棒の種類も多い中で、林田義助(三國連太郎)はそのトップクラスの“破蔵師”である。
義助が前科四犯の破蔵師になったのは歯科医の父が死んだあと、母(北林谷栄)や妹(緑魔子)を養うため、歯科医を継ぐが、戦争で薬が手に入らず、この商売に入ったのがきっかけだった。
こんな義助がある時仲間たちと温泉に遊びにゆき、芸者桃子(市原悦子)に認められ世帯をもつことになった。
里帰りする桃子に手土産をと盗品を渡したのだが、桃子が金に換えようと売ったために足がつき、苦手の安東刑事(伊藤雄之助)につかまって拘置所ゆきとなった。
ここで自転車泥棒の馬場庫吉(江原真二郎)を弟子にした義助は、保釈になると馬場と呉服屋に忍び込んだが失敗し、巡回中の消防団に追われる破目となった。
線路づたいに逃げた義助は、その夜九人の大男とすれちがった。
その夜明けのこと、大音響と共に杉山駅で列車転覆事件が起った。
刑務所に入った義助は、杉山駅列車転覆事件の犯人だという三人の男に会った。
無実を訴える三人の男を見て、義助はあの夜会った九人の男が犯人ではないかと、不蕃を抱いた。
やがて、堅気になる決心で出所した義助はダム工事場で働き、はな(佐久間良子)と結婚し子供も生れた。
平和な生活の中で、義助は前科を隠すことに苦心した。
だが、昔の仲間・菊池(花澤徳衛)の弟であの事件で国鉄クビとなった健二(山本勝)が、弁護士藤本(加藤嘉)を同伴してきて、杉山事件の目撃者として証人になって欲しいと訪ねて来た。
義助は、安東刑事から“あの犯行は三人だ”と言わなければ、はなに前科をばらすと脅かされていた。
自分の生活を守るため、藤本らの話をけった義助だが、無実の三人が十年の刑を終えたのを聞くと、決心をして、東北高等裁判所へとんだ。


寸評
林田義助という泥棒を主人公にしているので「にっぽん泥棒物語」などと面白いタイトルになっているが、これは松川事件における冤罪を描きながらエンタメ性に富んだ映画で、僕はこの作品を喜劇とは感じなかった。
松川事件は下山事件、三鷹事件と並んで第二次世界大戦後の1949年に相次いで起きた「国鉄三大ミステリー事件」のひとつに数えられている。
下山事件は7月5日朝、国鉄総裁・下山定則が出勤途中に失踪、翌7月6日未明に死体となって発見された事件で、事件発生直後からマスコミでは自殺説・他殺説が入り乱れたが警視庁は捜査を打ち切っている。
三鷹事件は7月15日に現在の三鷹市と武蔵野市にまたがる日本国有鉄道中央本線三鷹駅構内で起きた無人列車暴走事件で原因は不明のままである。
そして描かれた松川事件(映画では杉山事件)は8月17日に福島県の日本国有鉄道東北本線で起きた列車往来妨害事件で、容疑者が逮捕されたものの、その後の裁判で全員が無罪となり、真犯人の特定・逮捕には至らず未解決事件となった。

映画は先ず三國連太郎率いる窃盗団の活躍(?)が描かれる。
三國が演じる林田は今では聞かなくなった“破蔵師”で、いわゆる蔵破りだ。
今では存在が少なくなった土蔵だが、叔母の家にも立派な蔵があり値打ちのありそうな絵皿などが保管されていたから、当時の豪農は大きな蔵を建てていたのだろう。
林田は蔵は土壁なのでドリルで穴をあけ、ノコギリで土壁の中にある竹のスノコを切断して人間が通れるスペースを確保し侵入すると言う手口で大量の物品を盗み出す。
トラックで運ぶほどで、大勢の仲間が協力し合うが芝居っ気もあり、林田の統率力は並外れている。
そして林田は仲間のことは口が裂けても白状しないので全幅の信頼感も得ていると言う男だ。
その窃盗の様子が楽しく描かれ、観客である僕には彼らがヒーローのように思えてくる。

何も知らない市原悦子の行動で刑務所行きとなるが、林田の人の良さを表すエピソードとして挿入されている。
刑務所で江原真二郎の馬場と知り合い、出所後に彼と泥棒仕事するが馬場のヘマで失敗してしまう。
しかし林田は馬場を責めるようなことはしない。
林田は前科4犯の泥棒だが、本質的に人はいいのだ。
美しいはなと結婚できたのも人の良さからくる信頼感があったからだ。
林田が工事現場の人たちや、村人からも信頼されていく様子が可笑しい。
選挙の応援演説まで頼まれるという変貌ぶりが、喜劇と言えば喜劇的だ。
林田は警察権力によって偽証を強要されるが、でっちあげや無責任な捜査による冤罪は今もひっきりなしに起きていて、軽犯罪における冤罪も未だに多発している。
この映画は随分と前の映画だが、冤罪が起きる温床は今もってなくなっていないと言うことだ。
証言台に立つ林田の言葉は可笑しくて、映画の傍聴人でなくても笑ってしまうものだ。 三國は上手い!
三國の証言の可笑しさに、不安と冷たさの混じった目で見ていた佐久間良子が思わず笑みを漏らすシーンがよく、ラストシーンは心温まるものとなっている。
声高に官憲を非難しているわけではないが、僕は「にっぽん泥棒物語」は冤罪を問うた社会派作品だと思う。