おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

赤線地帯

2020-09-07 07:51:04 | 映画
「赤線地帯」 1956年 日本


監督 溝口健二
出演 若尾文子 三益愛子 町田博子
   京マチ子 木暮実千代 川上康子
   進藤英太郎 沢村貞子 浦辺粂子
   春本富士夫 入江洋佑 高堂国典
   三好栄子 十朱久雄 丸山修
   菅原謙二 加東大介 見明凡太朗

ストーリー
赤線地帯にある特殊飲食店「夢の里」には一人息子修一のために働くゆめ子、汚職で入獄した父の保釈金のために身を落したやすみ、失業の夫をもつ通い娼婦のハナエ、元黒人兵のオンリーだったミッキーなどがいた。
国会には売春禁止法案が上提されていた。
「夢の里」の主人田谷は、法案が通れば娼婦は監獄へ入れられるといって彼女等を失望させた。
新聞を読んで前借が無効になったと考えたより江は世帯道具を持ってなじみ客の下駄屋の許へ飛び出したが、結局自堕落な生活にまた舞い戻ってくるのであった。
ゆめ子は息子修一に会うために田舎へ行ったが、修一は親子の縁をきって東京に来ていた。
ある雨の降る日、しず子という下働きの少女が「夢の里」に入って来た。
ミッキーのおごりで無心に天丼をたべるしず子の瞳をみつめていたゆめ子が突然、修一の名を呼びながら発狂した。
その夜、やすみにだまされたと知った炭屋の青木がやすみの首をしめた。
やすみは死に損なったが、青木は宮崎巡査に連行された。
ゆめ子が病院に送られる頃、ラジオは法案の四度目の流産を報じていた。
そして今日も「夢の里」には、何ごともなかったように、ネオンの下で客呼びの声が聞える。
やすみの姿が見えないのは、彼女のなじみ客だった貸ぶとん屋ニコニコ堂主人の塩見が夜逃げしたあと、そこを買いとって女主人になってしまったからである。
そしてやすみに代って、下働きだったしず子が、威勢よく客呼びするミッキーの蔭で初店の盛装をこらして、しょんぼり立っていた。


寸評
遊郭を舞台にした群像劇で、赤線とはその昔にあった遊郭界隈を指す言葉だが、大阪では新世界近くの飛田新地や、九条の松島遊郭などが今でも当時の風情を残している。
看板としては料理組合の名前を掲げているが、今でも風俗産業が堂々と営まれている。
赤線がそれなりの管理下のもとで運営されていた名残であろう。

舞台となっている「夢の里」の女将辰子(沢村貞子)は、「この店は4代も続いている。必要のないものが300年も続くのかね」と愚痴っているし、女たちから父さんと呼ばれる主人の倉造(進藤英太郎)も「政府のできないことを俺たちがやってあげてるんだ」とうそぶいているから、当時は後ろめたさの少ない大っぴらな職業だったのだろう。
話は売春禁止法が完全施行させる昭和33年のちょっと前で、国会ではその法案が審議されている最中の出来事を描いている。
群像劇なので誰が主人公というわけではないが、体を売る商売についているのだから、それぞれの女がそれぞれの問題を抱えている。
やすみ(若尾文子)は金の亡者で、そうなった理由はあるのだが、とにかく男を手玉に取って金を溜め込み、夢の里の女たちにも金を貸す金貸し業もやっている女で、彼女のために店をたたむ男や、勤め先の金に手を出してしまう男が出ても平気だ。
罪の意識を感じていない、したたかさが小気味いい。
ミッキー(京マチ子)は若くてはち切れんばかりの体をしているドライな女で、父親は神戸の商社の社長という家柄の出だが、父の母親への仕打ちに対する反感なのか脇道にそれてしまっていて、父親が妹の結婚に差しさわりがあるからと迎えに来ても帰ろうとはしない。
一番だらしなく生きていそうだが、その実世の中を一番冷ややかに見つめているキャラクターは魅力的だった。
ゆめ子(三益愛子)は一人息子を育てるためにこの商売に身を置いているが、その努力は報われず、母親を恥じている息子から絶縁されてしまい、世の中自分の思い通りに行かないことの典型を経験する悲劇の象徴だ。
ハナエ(木暮実千代)は病気の亭主持ちで子供もいるが、ここでしか金を稼げないので通いで亭主も認める売春稼業をやっている。
より江(町田博子)は結婚を夢見て一度は廃業するが、カタギの生活に馴染めず働けば働いただけ金になる元の商売に戻ってくる。
時には悲しげに、時には明るく生きている女たちの姿があり、その女たちを名女優が競演していて、その女優を見ているだけでも楽しい。
溝口の演出は木暮実千代のちょっと股を開いただらしない座り方など細部にわたり、若尾文子などは歩き方だけで1週間もやらされたが、ダメ出しされたものとOKのとどこが違うのか分からなかったと最近のインタビューで語っていたぐらいだ。
溝口特有のこだわりだったのだろう。
女たちの生き様を描きながら、映画的だなと思わせるのは若いしづ子(川上康子)を登場させていることだ。
初めて店に出た彼女が柱の影から恥ずかしげに男を手招きする姿は、また一人彼女たちのような女が登場してしまったことを物語っているが、やがて売春防止法が施行されて自分たちは路頭に迷う運命にあることを知らない。
なんだか売春禁止法反対映画のような気がした。