おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

アヒルと鴨のコインロッカー

2020-09-21 07:06:57 | 映画
「アヒルと鴨のコインロッカー」 2006年 日本


監督 中村義洋
出演 濱田岳 永山瑛太 関めぐみ 田村圭生
   関暁生 杉山英一郎 藤島陸八 東真彌
   岡田将生 眞島秀和 野村恵里 キムラ緑子
   なぎら健壱 松田龍平 大塚寧々

ストーリー
大学入学のため仙台に越してきた椎名(濱田岳)が、引っ越しの片付けをしながらボブ・ディランの「風に吹かれて」を口ずさんでいると、隣人の河崎(瑛太)に声を掛けられる。
どこかミステリアスな雰囲気を持つ河崎は、一緒に本屋を襲おうという、おかしな計画を椎名に突然持ちかけた。
同じアパートに住む孤独なブータン人留学生のドルジ(田村圭生)に広辞苑を贈りたいというのだ。
気乗りしない椎名だが、翌日、河崎に言われるままにモデルガン片手に本屋を襲撃する。
だが、彼らが奪ってきたのは広辞苑ではなく広辞林だった。
しかし実は、その計画の裏には、河崎とドルジ、そして琴美(関めぐみ)という女性の物語が隠されていた。
状況が呑み込めない椎名は、二年前に琴美が働いていたペットショップの店長である麗子(大塚寧々)と接
触する。
河崎はペットショップの店長である麗子に気をつけろと言い、麗子は椎名に河崎の言うことは信用するなと言う。
そして椎名は、かつて河崎とドルジと琴美が奇妙な友情で結ばれていたことを知る。
しかしある時、琴美は動物を虐待している男女グループといさかいを起こして事故死していた。
すべてを知った椎名だが、まもなく家庭の事情で故郷に帰ることになる。
麗子は椎名とドルジを仙台駅まで見送り、そして椎名とドルジは、それぞれの道に向かって歩き出すのだった。


寸評
前半部分は後半部分に対する長い長いモノローグだった。
冒頭の広辞苑を奪うためにモデルガンで本屋を襲うというマンガチックな事件を起こしてからは大きな出来事は起きない。
椎名の学園生活などが描かれたり、琴美の思い出話が続いたりして平穏化する。
その間ミステリアスな麗子が登場したりするが、やや盛り上がりに欠ける展開だ。
ややダレ始めた半ばで、麗子が河崎の件で発した言葉から俄然盛り上がっていく。
それまで描かれていたことは、すべてそこからの為の序章に過ぎなかったことを僕たちは知ることとなる。

後半は前半のシーンをなぞりながら、同じセリフを発して、前半に語られたことを解き明かしていく。
ああそう言うことだったのかと悟らされるテンポの良さがこの映画の心地よさだ。
椎名と河崎がボブ・ディランの「風に吹かれて」で知り合ったわけも、河崎が本屋を襲撃しようと言って実行した理由も、すべてが明らかになっていく。
ブータン人のドルジが引きこもりで人と接しようとしないことや、その男のために広辞苑を盗もうとしたことも。
ドルジはアヒルと鴨の違いが分からないので、それを教えるために広辞苑を盗もうとしたのだが、なぜアヒルと鴨だったのかも納得させられる。
そして広辞苑ではなく広辞林を盗んでしまったことも。
思い返せば、河崎が弁当屋でおにぎりを2個無造作に買うシーンも意味があったのだと納得させられる。

始まってすぐに本屋襲撃事件を起こすわけだが、そこで動機として語られるアヒルと鴨の話から、この映画タイトルの半分くらいは理解したつもりだったのだが、それにしてはコインロッカーは何なんだと、ちょっと違った方向に興味がいって、それが僕が気分的にややダレた原因の一つになっていたのかもしれない。
そしてそれが間違いだったことも、コインロッカーも大事な要素だったことも、やがて思い知らされた。

椎名は河崎と違って、軟弱でどこかひ弱な男で東京から仙台の大学に入学してきた学生だ。
(その椎名を演じた濱田岳がひ弱な男を好演している)
東京で靴屋を営む父親は職人でもあり、家庭はさして裕福ではなさそうだ。
そしてその父が余命いくばくもなさそうで、椎名は東京に帰ることになる。
再び仙台に戻ってくるからとも言うが、はたして戻って来れるのかどうか・・・。

ブータンは信仰心が厚い国で、豊かではないが世界で一番平和な国の一つと言われている。
人を傷つけることはいけないと思っているのだが、ドルジはそこからはみ出してしまった。
私は話すのは怒っているようだけど、そうじゃないからと言ってた麗子が、最後の場面でそんなドルジを責めるでもなく諭す表情は優しかった。
探していたラジカセとボブ・ディランのCDがリンクしてコインロッカーに閉じ込められ、彼等二人がそれぞれの道に向かって歩き出すラストは余韻が残る。
ああそれで、アヒルと鴨とコインロッカーだったんだと。