おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

遊びの時間は終らない

2020-09-13 06:17:29 | 映画
「遊びの時間は終らない」 1991年 日本


監督 萩庭貞明
出演 本木雅弘 石橋蓮司 西川忠志 伊藤真美
   萩原流行 斎藤晴彦 赤塚真人 原田大二郎
   松澤一之 今井雅之 小河麻衣子 草薙幸二郎
   あめくみちこ 塚本信夫 岩本多代

ストーリー
派出所勤務の平田巡査が銀行強盗を決行した。
外ではこれまた同じく相棒の中野巡査が車をとめて待機していた。
しかし突然現れたパトカーの為、中野は逮捕される。
周囲をマスコミ取材人が取り囲み始めフラッシュが焚かれ、白昼の銀行強盗は終了と思われた。
実は、これら一連の出来事は、地元警察・銀行・商店会が協力して行った防災訓練だったのだ。
ところが、銀行の内部では予期せぬ事が起こっていた。
実は平田道夫は極端に融通の利かない謹厳実直な若き警官だった。
そんな彼が上司の命令によって、非常時の予行演習の銀行強盗役を演じることになっていた。
ところが真面目な彼があまりにもリアルに成り切った為、事態は思わぬ方向へと向かってしまったのだ。
さらにそれをマスコミが大きく取り上げたことによって、予行演習でありながらも警察側が彼を逮捕するまで中止にすることが出来なくなる。
しかし、平田は巧みな手口でなかなか捕まらず、マスコミや周囲の人々は次第に彼をヒーロー扱いしながら盛り上がる始末。
平田の銀行強盗を捕まえられない警察側は、上からの圧力によって内密にやめさせようともするが、平田は一向に応じようとはしない。
そして演習にもかかわらず平田のクソ真面目さにいらついた射撃班が実弾を発砲してしまい、警察の立場はますます危うくなっていく。
そして平田は遂に警察にヘリコプターを用意するように要求。
彼を励ましてくれた銀行員のゆり子を連れて空高く逃亡するのだった。


寸評
ハチャメチャに面白い。
コメディ映画としては傑作の部類に入る作品だと思う。
この手のコメディは出演者がいかに真面目にやるかにかかっている。
観客側がそんなバカなと思うようなことを、スクリーンの向こうでは超真面目に演じてこそ生み出される可笑しさがコメディ映画の神髄である。
特にクソ真面目な巡査を本木雅弘が味わい深く演じている。
服装も、おもちゃのライフルも、腕に書いた刺青も、すべて彼の徹底振りをあらわしている。
とにかく平田巡査は何もかも手加減しないオタッキーな青年なのだ。
Go To Hell ! と書き込んで、「僕、犯人ですから・・・」とやたら本気である。
「あのバカ、適当なへまをやって捕まればいいのに、気がきかないやつだ」と鳥飼警察署長(石橋蓮司)につぶやかせる徹底ぶりなのだ。
終始思いつめた表情の本木雅弘が最高で、彼の俳優としての才能を感じさせる。
不安のなかに次の行動を模索するような眼差しがいい。
若やいだ膚に滲む汗、上腕二頭筋のたくましさがこの映画の説得力を支えている。

お調子者の警察署長が何とも言えず、道化役の筆頭的役割を担っている。
犯人役の平田巡査が任務を忠実に果たそうとすればするほど、自らもその一員であるはずの警察組織がめちゃくちゃになっていく構図がシニカルに描かれ、権力や官僚機構、エリート意識を徹底的にあざ笑っている。
自分の対場だけを考えている上層部が訓練のルールとメンツに縛られて身動きならなくなってゆくさまはなんともシュールで痛快でさえある。
警察幹部たちは部下に対しては横柄な態度だが、上司に対しては実に平身低頭である。
松木(松澤一之)は所長に対しては頭が上がらず、所長命令で行ったと言っても、所長からは「責任転嫁してる」と怒鳴られ言い返せない。
その所長も深川(原田大二郎)がやって来ると、彼にゴマをすりだす。
その深川も笠間本部長(草薙幸二郎)が来れば「何なんだあのオッサンは」と思っていても反抗できない。
笠間は間もなく定年を迎え、そのあとは政界へ打って出る予定の人物だが、平田によってあっけなく射殺されてしまい、身分も威厳もあったものではない。

ここまでやるならレイプされたことになった女子行員を他の行員が冷たい視線を送ったり、泣き崩れる被害者に上着をかけてやるようなシリアスな演出があっても良かった。
一方で、地元のローカル局に拾われた敏腕プロデューサの柏崎(萩原流行)の、その手抜きを知らない徹底振りが平田巡査に通じるものがあって、可笑しさを盛り上げる。
柏崎の真面目ぶりが平田巡査に負けず劣らず愉快で包括絶倒。
面白ければ何でも良いと言うテレビ局の欺瞞と、それに乗っかる大衆の愚かさも描かれているように思う。
テレビ局の幹部は柏崎の暴走を大いに喜び、大衆は事件を劇場化し平田をヒーローに押し上げ応援する。
萩庭貞明の監督デビュー作にして、彼の最高傑作というか、これ一本という感じの作品だ。