おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

嗚呼!おんなたち 猥歌

2022-01-15 11:35:19 | 映画
2019年1月1日に「あ」から続けてまいりました。
振り返れば「あゝ、荒野」の前編、後篇からでした。
「アイズ ワイド シャット」「アーティスト」「逢びき」「愛の予感」などを紹介し、2019年1月16日の「アンタッチャブル」まで「あ」を掲載しました・。
一巡して再び「あ」に戻ったのは2020年8月17日で「あゝ結婚」からでした。
2020年10月12日の「アンデスの花嫁」までを紹介しています。
2巡目には1巡目と重複した作品もあったようです。
興味のある方はバックナンバーからご覧ください。

2巡し終わったので今回は再び「あ」に戻りますが、さすがに思いつく作品が少なくなってきました。
なんとか思い出し出し続けてまいります。

「嗚呼!おんなたち 猥歌」 1981年 日本


監督 神代辰巳
出演 角ゆり子 中村れい子 内田裕也
   絵沢萠子 太田あや子 安岡力也
   いずみ由香 黒田征太郎 珠瑠美
   石橋蓮司 高橋明 アナーキー

ストーリー
売れないロック歌手ジョージは妻から離婚を迫られ別居中で、今は平凡な結婚生活を夢見る風俗嬢の佳江のヒモ同然の暮しをしている。
ある雨の夜、結婚に煮え切らないジョージの態度に、佳江はヒステリーを起こし彼の運転する車のハンドルを一方に切りまくると、車は横転し佳江は重傷を負うが、ジョージはカスリ傷だった。
ジョージは看護婦の羊子に入院した佳江の夫と間違えられる。
眠っている佳江の隣りのベッドで話すうち、ジョージは羊子を強引に犯していった。
新曲のキャンペーンに地方のレコード店に行くが、誰からも相手にされないジョージ。
東京に戻ったジョージは退院した佳江や羊子と、売れない怒りをぶつけるかのように肉体関係を続ける。
ある日、佳江は羊子の存在に気づき、彼と別れてくれと迫るが、羊子も負けてはいなかった。
やがて、二人の間に奇妙な親近感が生まれ、ジョージとの不思議な三人暮らしが始まった。
その頃、ジョージのセクシーなステージが話題になり、新曲がヒットして有線放送の29位にランクされた。
マネージャーのユタカと喜びを分かち合うジョージ。
ジョージは控え室にいたユタカの恋人、一美をグルーピーと勘違いして犯してしまった。
ユタカに「お前にもスキがあった」と言われた一美はジョージを告訴してしまった。
それはやっとヒット曲を手にしようとするジョージに致命的なダメージとなった。
この事件を機会に妻も正式に離婚届を警察に持ってきた。
ボロボロに傷つき、警察から出てきたジョージはユタカに暖かく迎えられる。
一美を捨て、ジョージと再出発しようとするユタカに、ジョージは熱いものを感じた。
そんなある日、ジョージのところに羊子がやって来て、佳江が客に殺されたことを告げる。
羊子は、佳江の彼に対する一途な愛情のために、宿していた子を堕ろしてきたところだった。


寸評
神代辰巳は日活ロマンポルノの登場と共に輝きを増した監督である。
彼の活躍時期は僕の学生時代と重なり、一番映画を見ていた時期に活躍した監督だ。
何分かに一度の割合で裸を出せば、あとは何を描いても良いと言う条件だったので、監督たちが自分の撮りたい映画を撮り、ロマンポルノに名を借りた傑作が数多く生み出された。
神代辰巳はその中にあってエースと呼ばれるような存在だった。
1972年の「一条さゆり 濡れた欲情」などは僕の映画遍歴の中で燦然と輝く作品となった。
「嗚呼!おんなたち 猥歌」は神代作品としては後期に属する作品だが、女たちのバイタリティあふれる生き様、男たちの情けない生き様を描いた演出は健在だと感じさせる作品となっている。

あらすじだけを見ていると安っぽいピンク映画を見ているようなものなのだが、この映画がしっかりとしているのはまさに内田裕也の圧倒的な存在感ゆえであろう。
ロック歌手ジョージが主人公だけに、内田裕也が歌うシーンや歌声がしょっちゅう流れてくる。
舞台の内田裕也は狂人的で、ズボンを下げて臀部を丸出しにするというハチャメチャなライブである。
ジョージは破滅的な生活を送っているのだが、諦めたような生き方でもあり、常に満たされぬ怒りを秘めたような生き方がもたらしている結果のような気もする。
神代作品の常道でもある舞台シーンから映画が始まり、運転をしながら風俗嬢をしている佳江から迫られているのが主人公のジョージで、彼の適当な返事に佳江が怒りのハンドルを切り事故を起こす。
ジョージは入院した病院で看護婦の羊子とSEXをし、そのままいい仲になってしまうという女癖の悪い男である。
佳江は嫉妬で狂いそうになるが、それでも彼を忘れられない。
ジョージの妻である恵子はたまにしか返ってこない夫と離婚しようとしている。
一方の女は別れられない女で、一方の女は別れようとしている女である。

物語の中心が羊子と佳江の女たちの話へと流れが変わり始めると映画は俄然面白くなる。
ジョージがただのお馬鹿な男にしか見えなくなって来て、仲良く振る舞い始めた羊子と佳江がストーリーを展開し始める。
ジョージは安岡力也扮するマネージャーの恋人の一美に手を出してしまうという醜態を見せる。
そんな目にあっても、このマネージャーはジョージを見放すことができない。
警察に訴え出た一美に告訴を取り下げるように懇願するのだ。
マネージャーは恋人よりジョージを選んでしまうから、この二人も腐れ縁から逃れられないでいる。
羊子と佳江がレズビアンのごとく仲のいい関係になってしまい、警察から出てきたジョージがその様子を見て何とも寂しげな表情を見せる。
そしてクライマックス。
ロック歌手をあきらめたのかジョージはホスト倶楽部に入り、佳江が演じたソープランドでの阿波踊りを自ら演じて女にサービスする姿で映画が終わるという男のふがいなさで見事に締めくくっている。
その裏にあるのは女のしたたかさであり、バイタリティのある強さでもある。
映像的には走る電車越しに撮った会話する二人のシーンが印象に残る。