「男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日」 1988年 日本
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監督 山田洋次
出演 渥美清 倍賞千恵子 三田佳子 三田寛子
尾美としのり 前田吟 下絛正巳 三崎千恵子
太宰久雄 佐藤蛾次郎 吉岡秀隆 すまけい
笹野高史 奈良岡朋子 笠智衆
ストーリー
初秋の信州、寅は中込キクエという老婆の家で一晩世話になった。
翌朝、老婆を原田真知子という美しい女医が迎えにきた。
老婆は体が悪く、寅の説得もあって入院することになった。
寅は真知子の家で彼女の姪・由紀と共に夕食をご馳走になった。
由紀は早稲田の学生で短歌を趣味にしていた。
寅は真知子に一目惚れ、真知子も寅に好意をもったが、夕食が終わると寅は帰って行った。
東京に戻った寅さんは真知子のことが忘れられず、由紀が通う早稲田大学を訪れる。
尾崎茂と言う学生に由紀のクラスを調べてもらい、由紀が受講している教室に紛れ込んだが、ワットに始まる産業革命を語る教授に対しておかしな質問をし、講義を滅茶苦茶にしてしまう。
なんとか由紀と再会を果たすが、たまたま真知子も東京に遊びに来ているということを知らされる。
数日後、真知子は由紀を連れて「とらや」を訪ねてきた。
さくらやおばちゃんが暖かく迎えてくれ、寅も真知子も楽しい一日を過ごした。
しばらくして由紀から連絡が入った。
信州のお婆ちゃんが危篤だという。
寅次郎は由紀と茂の車で急いで小諸へ向かう。
残念ながら寅は臨終には間に合わなかった。
人の最期についてどう迎えさせていいのか悩む真知子は、寅次郎の胸で泣く。
寅は病院をやめたいという真知子を励まし、そして由紀にそっと別れを告げたのだった。
寸評
俵万智さんの歌集『サラダ記念日』がベストセラーとなって新感覚の短歌ブームが起きた。
歌集のもとになった短歌が「『この味がいいね』と君が言ったから七月六日はサラダ記念日」と言うものである。
俵万智さんの短歌もどきと共に寅さん、由紀の物語が進んでいくが、心に迫るのは独居老人問題だ。
一生の終わりをどう迎えるかは、或る程度の年齢になれば自分の前に大きく横たわってくる。
それを真知子先生を絡ませながら切々と訴えてくるのである。
「男はつらいよ」シリーズも40作を迎え、ネタも尽きてきてパワー不足が否めなくなってきたが、終の問題を据えたことでなんとか水準を保った。
小諸の駅前で知り合った老婆に気に入られ、楽しい一夜を過ごした寅だったが、実は老婆は不治の病に侵されていて余命いくばくも無く、老婆はそのことを知りつつも自分が長年連れ合いと住み続けたこの家で最後を迎えたいと願ってもいたのだ。
入院を渋っていた老婆が寅さんにも説得されて真知子先生の車で入院する日、老婆は「ちょっと待ってくれんかな…」 と言って車の窓を開ける。
見えるのは朽ち果てかけているが長年住み慣れた我が家で、老婆は「これがへえ… 見納めだ」 とつぶやく。
老婆は目をつむって淋しさに耐えながら一心に拝み、そして涙をこぼす。
真知子先生も涙をぬぐうが、見ている僕も涙がながれてしようがなかった。
一人になってしまった老人は最期をみとる者がいない。
長年住み慣れた家で終えたい、あるいは家族に見守られて一生を終えたいと思ってもかなわぬ夢である。
老婆はあの家に居続けても、もしかすると孤独死を迎えていたかもしれない境遇である。
真知子先生のような方がいてよかったと思う。
同時に提示されるのが地方の医師不足の問題だ。
真知子先生は末期医療のことや、東京に残した自分の息子との同居のことで悩み、小諸病院を辞めて自分を見つめ直したいと申し出る。
そこですまけいの院長は「自分を見つめたいか…その程度のことで辞められたら医者が何人いたって足りませんよ。こういう土地じゃね。この病院はあなたを必要としている、それが何よりも大事なことで、あなたが抱えている問題などはたいしたことじゃない」と言い切るのである。
地方は限界集落の維持に悩み、医師不足に悩んでいるのだ。
もっとも院長は続けて「東京の郊外のお母さんの家で花でも眺めながら休息の日々を送る。そのうち縁談があって、しょうしゃな病院の奥様に納まる。そんな人生があなたにとって幸せなんですか。ちっとも幸せなんかじゃない」と言っているので、どうやら院長は真知子先生に気があるような描き方でもあった。
寅さんは由紀ちゃんに、「伯母さんにいい人を紹介してやってくれ」と頼むと、由紀ちゃんは「でも、その人が寅さんじゃいけないの?」と聞き、続けて「寅さん好きなのね… おばちゃまが…」とつぶやく。
真知子先生も寅さんの胸に顔をうずめて泣くシーンがあったりしてまんざらでもなさそうなのである。
この頃の寅さんは微妙に女性から思われる寅さんに変化していて、シリーズの長期化を感じさせた。
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監督 山田洋次
出演 渥美清 倍賞千恵子 三田佳子 三田寛子
尾美としのり 前田吟 下絛正巳 三崎千恵子
太宰久雄 佐藤蛾次郎 吉岡秀隆 すまけい
笹野高史 奈良岡朋子 笠智衆
ストーリー
初秋の信州、寅は中込キクエという老婆の家で一晩世話になった。
翌朝、老婆を原田真知子という美しい女医が迎えにきた。
老婆は体が悪く、寅の説得もあって入院することになった。
寅は真知子の家で彼女の姪・由紀と共に夕食をご馳走になった。
由紀は早稲田の学生で短歌を趣味にしていた。
寅は真知子に一目惚れ、真知子も寅に好意をもったが、夕食が終わると寅は帰って行った。
東京に戻った寅さんは真知子のことが忘れられず、由紀が通う早稲田大学を訪れる。
尾崎茂と言う学生に由紀のクラスを調べてもらい、由紀が受講している教室に紛れ込んだが、ワットに始まる産業革命を語る教授に対しておかしな質問をし、講義を滅茶苦茶にしてしまう。
なんとか由紀と再会を果たすが、たまたま真知子も東京に遊びに来ているということを知らされる。
数日後、真知子は由紀を連れて「とらや」を訪ねてきた。
さくらやおばちゃんが暖かく迎えてくれ、寅も真知子も楽しい一日を過ごした。
しばらくして由紀から連絡が入った。
信州のお婆ちゃんが危篤だという。
寅次郎は由紀と茂の車で急いで小諸へ向かう。
残念ながら寅は臨終には間に合わなかった。
人の最期についてどう迎えさせていいのか悩む真知子は、寅次郎の胸で泣く。
寅は病院をやめたいという真知子を励まし、そして由紀にそっと別れを告げたのだった。
寸評
俵万智さんの歌集『サラダ記念日』がベストセラーとなって新感覚の短歌ブームが起きた。
歌集のもとになった短歌が「『この味がいいね』と君が言ったから七月六日はサラダ記念日」と言うものである。
俵万智さんの短歌もどきと共に寅さん、由紀の物語が進んでいくが、心に迫るのは独居老人問題だ。
一生の終わりをどう迎えるかは、或る程度の年齢になれば自分の前に大きく横たわってくる。
それを真知子先生を絡ませながら切々と訴えてくるのである。
「男はつらいよ」シリーズも40作を迎え、ネタも尽きてきてパワー不足が否めなくなってきたが、終の問題を据えたことでなんとか水準を保った。
小諸の駅前で知り合った老婆に気に入られ、楽しい一夜を過ごした寅だったが、実は老婆は不治の病に侵されていて余命いくばくも無く、老婆はそのことを知りつつも自分が長年連れ合いと住み続けたこの家で最後を迎えたいと願ってもいたのだ。
入院を渋っていた老婆が寅さんにも説得されて真知子先生の車で入院する日、老婆は「ちょっと待ってくれんかな…」 と言って車の窓を開ける。
見えるのは朽ち果てかけているが長年住み慣れた我が家で、老婆は「これがへえ… 見納めだ」 とつぶやく。
老婆は目をつむって淋しさに耐えながら一心に拝み、そして涙をこぼす。
真知子先生も涙をぬぐうが、見ている僕も涙がながれてしようがなかった。
一人になってしまった老人は最期をみとる者がいない。
長年住み慣れた家で終えたい、あるいは家族に見守られて一生を終えたいと思ってもかなわぬ夢である。
老婆はあの家に居続けても、もしかすると孤独死を迎えていたかもしれない境遇である。
真知子先生のような方がいてよかったと思う。
同時に提示されるのが地方の医師不足の問題だ。
真知子先生は末期医療のことや、東京に残した自分の息子との同居のことで悩み、小諸病院を辞めて自分を見つめ直したいと申し出る。
そこですまけいの院長は「自分を見つめたいか…その程度のことで辞められたら医者が何人いたって足りませんよ。こういう土地じゃね。この病院はあなたを必要としている、それが何よりも大事なことで、あなたが抱えている問題などはたいしたことじゃない」と言い切るのである。
地方は限界集落の維持に悩み、医師不足に悩んでいるのだ。
もっとも院長は続けて「東京の郊外のお母さんの家で花でも眺めながら休息の日々を送る。そのうち縁談があって、しょうしゃな病院の奥様に納まる。そんな人生があなたにとって幸せなんですか。ちっとも幸せなんかじゃない」と言っているので、どうやら院長は真知子先生に気があるような描き方でもあった。
寅さんは由紀ちゃんに、「伯母さんにいい人を紹介してやってくれ」と頼むと、由紀ちゃんは「でも、その人が寅さんじゃいけないの?」と聞き、続けて「寅さん好きなのね… おばちゃまが…」とつぶやく。
真知子先生も寅さんの胸に顔をうずめて泣くシーンがあったりしてまんざらでもなさそうなのである。
この頃の寅さんは微妙に女性から思われる寅さんに変化していて、シリーズの長期化を感じさせた。