おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

帝銀事件 死刑囚

2024-09-13 09:12:28 | 映画
「帝銀事件 死刑囚」 1964年 日本


監督 熊井啓
出演 信欣三 内藤武敏 井上昭文 高野由美 笹森礼子
   柳川慶子 鈴木瑞穂 庄司永建 木浦佑三 平田大三郎
   藤岡重慶 平田未喜三 小泉郁之助 伊藤寿章 高品格
   松下達夫 陶隆 草薙幸二郎 垂水悟郎 佐野浅夫

ストーリー
昭和23年1月26日の午後3時すぎ、豊島区の帝国銀行椎名町支店に、中肉中背の中年の男が訪れた。
男は東京都衛生課、厚生省医学博士の名刺を出し、赤痢の予防薬と称して、進駐軍の命により予防薬を行員、家族十六名に飲ませた。
ピペットで白濁の液を茶碗に分ける手つきは、職業的な鮮やかさであった。
が、数分後、その液を飲んだ行員は、苦悶の絶叫とともに、血を吐いて倒れていった。
犯人は、現金、証券十八万円を奪って逃走し、警察、新聞、国民の眼は一斉に活動を始めた。
昭和新報の敏腕記者、大野木(鈴木瑞穂)、笠原(庄司永建)、武井(内藤武敏)らも動き始めた。
被害者のうち12名が死亡していた。
毒物の捜査班は、犯人の使った青酸性化合物が、終戦直前、731部隊で極秘裡につくられた毒物と知った。
武井は731の生き残り将校佐伯(佐野浅夫)に会い、毒物について、追求したが、佐伯は語ろうとしなかった。
デスクの大野木は、その直前GHQのバートン主席から、731部隊を追求するのをやめるよう注文された。
米ソによる冷戦が始まっており、アメリカは731部隊の資料がソ連に渡ることを恐れたのである。
一方国木田警部補(陶隆)ら名刺捜査班は、事件直後にかなりな金を預金しているモンタージュ写真に似た画家平沢貞通(信欣三)を逮捕した。
首実検の結果、大半は彼を否定し犯人と言いきる者は一人もいなかった。
国木田と森田検事(草薙幸二郎)は、筆跡鑑定の結果クロをもって、執拗に食いさがった。
9月、平沢はついに真犯人であることを自供したが、しかし、彼はすぐそれをひるがえした。
強圧的な肉体的、精神的尋問に耐えられず自白したというのだ。
しかし、東京地方裁は、死刑を宣告し、東京高裁も死刑を確定した。
娘の俊子(柳川慶子)は、国籍を捨てアメリカに渡っていった。


寸評
騙して12名を毒殺して現金と小切手を奪った銀行強盗殺人事件のことであり、画家の平沢貞通が逮捕され死刑判決を受けたが、平沢は獄中で無実を主張し続け、刑の執行がされないまま1987年(昭和62年)に95歳で獄死し、多くの謎が残るために未解決事件とされることもある事件である。
当時はGHQ占領下における戦後の混乱期であり、1949年の国鉄三大ミステリー事件と呼ばれる下山事件、三鷹事件、松川事件なども起きている。

映画はニュース映像なども挟んだドキュメンタリータッチで描かれており、どうやら事件発生から平沢の逮捕と取り調べ及び裁判に至る時系列的な出来事は実際の通りであるようだ。
ただし描かれている視点は平沢無実説に沿ったものとなっている。
事件の真偽追及に関してはドキュメンタリー風だが、新聞記者の活躍に関してはエンタメ性を盛り込んでいる。
特に武井と笠原の活躍が愉快である。
被害者が担ぎ込まれて混乱している病院を取材するために武井が白衣を着て医者に成りすまし、記者の笠原が医者を装う武井に食い下がり、保護されるように武井が病院関係者として入り込む場面もその一つ。
あるいは警察内部の捜査状況を知るために、捜査関係者に成りすまして潜り込んでおり、メモをとるための鉛筆を本物の関係者に貸してやった為に身分がバレてしまうシーンなどだ。
また武井と帝国銀行の女性事務員とのロマンスも描かれていて、代理の者が花束を届けるシーンなども用意されているが、女性には婚約者がいてそうなのにその破局は描かれていない。
二人の結婚写真だけにとどめているのは作品内容からして当然だろう。

731部隊、通称石井部隊の生き残り将校である佐伯が描かれている。
731部隊は満洲に拠点を置き、兵士の衛生面の研究を主任務とすると同時に、石井部隊として細菌戦に使用する生物兵器の研究・開発機関で、そのために人体実験や、生物兵器の実戦的使用を行っていたとされている。
当初は武井たちに非協力的であった佐伯が、笠原の兄がシンガポールで上官から無実の罪を着せられて処刑された事実を聞き、事件で使用された毒物が731部隊が人体実験した内容と酷似していることを武井に証言する。
熊井啓は武井に石井部隊の非人間性を語らせると同時に、佐伯に原爆投下が戦争犯罪であると語らせている。
またGHQの関係説を米ソ冷戦によるものとして処理している。
政治的な背景を匂わせる描写であった。

この映画では平沢は無実である印象が強いが、本当はどうだったのかは不明のままである。
冤罪事件が多かったから、平沢も冤罪だったのかもしれない。
しかし、平沢は大金の出所をどうして言わなかったのだろう。
この事件における最大の謎のような気がする。
出所を偽証する帝銀偽証事件が起きているから尚更である。
どうやら家族にも明かさなかったようだから疑いを持たれてもしょうがないと思う。
熊井啓のデビュー作だが、サスペンス作品として見るなら、もう少し迫力のある描き方が欲しかった。