おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

0.5ミリ

2024-10-22 06:57:24 | 映画
「0.5ミリ」 2013年 日本                                                          

監督 安藤桃子                                                   
出演 安藤サクラ 坂田利夫 津川雅彦 草笛光子
   角替和枝 織本順吉 木内みどり 土屋希望
   井上竜夫 柄本明 東出昌大 ベンガル
   浅田美代子
           
ストーリー
天涯孤独な介護ヘルパーの山岸サワ(安藤サクラ)は、派遣先の家族からおじいちゃんと一晩過ごしてほしいと依頼される。
当日の夜、思いもよらぬ事故が起こり、サワは家も仕事も失ってしまう。
しかし、カラオケ店の受付でまごつく老人(井上竜夫)を見つけるや、強引に同室となって楽しく一夜を過ごす。
貯金もなく窮地に立った彼女は、駐輪場の自転車をパンクさせる茂(坂井利夫)や、書店で女子高生の写真集を万引きする義男(津川雅彦)ら癖の強い老人を見つけては家に上がり込み、強引に彼らのヘルパーとなる。
彼らもはじめは面食らうものの、手際良く家事や介護をこなし歯に衣着せぬ彼女に次第に動かされる。
不器用なため社会や家族から孤立した彼らは懸命にぶつかってくるサワと触れあううちに、生の輝きを取り戻していく…。


寸評
監督が安藤桃子で主演が安藤サクラという安藤姉妹による作品だが、エグゼクティブ・プロデューサーに奥田瑛二、フード・スタイリストに安藤和津が名前を連ねているので安藤一家総出の映画になっている。
オマケに安藤サクラが柄本佑と結婚したので、 この作品に出演している柄本明と角替和枝はサクラの義父母ということになり、一家親戚あげての作品と言うことも話題の一つかな。
その事は作品の出来には関係ないのだが、なかなかどうして本年屈指の快作になっている。
映画は老人の生と死を見つめ、介護、家族という社会問題を描き、さらには老人の性にも切り込んでいる意欲作だ。
しかも暗くて重くなりがちな内容なのに、エンタメ性に富んだ時々笑いも起こる196分作品に仕上がっていた。

主人公の山岸サワは派遣先で寝たきり老人と寝てほしいという依頼から起こった事故により無一文になったことから始め出す「おしかけヘルパー」である。
半分脅迫とも思える手段を講じるサワだが、実にやさしい女性である。その優しさから、老人の冥土の土産として添い寝を承諾してしまう。
依頼した片岡一家は家庭崩壊していて、明日の命をも知れぬ寝たきり老人がおり、さらに子供のマコトは読書しかせず全く口を利かなくなった引きこもりだ。この家族には希望がない。
一人で家庭をきりもみし、面倒を見てきた父親の最後の願いを成就させた雪子(木内みどり)は結論を出す。
ショッキングな出だしである。
行き場のなくなったサワは老人の康夫と出会うが、これをやっているのが吉本新喜劇の竜ジイこと井上竜夫で、次にはアホの坂田が呼び名の坂田利夫が登場してくる。
大阪人の僕としては、高知が舞台の映画なのに大阪弁を駆使する二人の登場で自然と親近感が湧いた。
康夫は親切にしてもらったと最後にサワと握手をするが、そこには康夫の気持ちがこもっていた。
今までの苦労と努力で蓄えてきた財産を持ちながらも、それのみを当てにされている孤独な老人の姿がサラリと描かれた。
茂を演じた坂田利夫は流石の芸歴と言うか、見なおしたと言うべきか、絶妙の演技で存在感を示す。
登場と同時に見せる芝居は、大阪人にとっては見なれた芝居で館内には安心した笑いが起きた。
彼等はただ生きながらえているだけのようにも見えるが、何とか自分の存在を示そうとしている。
茂は通っている喫茶店の自分の席を譲ることはしない。そこは自分の席だと主張して先客をどかせる。
自分の意地を通しても孤独が解消されるわけではない。
その孤独をいやしてくれる斎藤君(ベンガル)が詐欺師にもかかわらずかばい続けてしまう。
かれは淋しさを自転車のパンクや収集で紛らわせているが、サワと出会って短い老い先を考えるようになるが、その結論も悲しいものがある。
しかしサワにはそれをどうすることもできない。
サワは心底からの愛を与えるが、その見返りとしてわずかばかりの施しを手にする。サワの姿はまるで女神か聖職者だ。
津川雅彦の長回し台詞は、僕は少しばかり唐突感を感じたが戦争を経験した人の叫びだったのだろうか。
サワは最後にある老人から思いもよらぬ施しを受け取る。それは赤の他人に対する遺産であった。
与えるばかりで施しを受けることのなかったサワが得た愛でもあった。
サワが慟哭するこのシーンは出色だ。
老人たちはほんの少しのことで生きる喜びを得るが、それは又サワ達にも共通することだ。
マコトの秘密も明らかになって、二人はわずかな希望を得て明日へと向かう姿も大げさでなく心に染みた。