「4分間のピアニスト」 2006年 ドイツ
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監督 クリス・クラウス
出演 モニカ・ブライブトロイ ハンナー・ヘルツシュプルング
スヴェン・ピッピッヒ リッキー・ミューラー
ヤスミン・タバタバイ シュテファン・クルト
ヴァディム・グロウナ ナディヤ・ウール
ストーリー
ピアノ教師として刑務所を訪れたトラウデ・クリューガー(モニカ・ブライブトロイ)は、机を鍵盤代わりに無心で指を動かしている女性に目を留める。
彼女の名はジェニー(ハンナー・ヘルツシュプルング)。
天才ピアニストとして将来を嘱望されながらも道を踏み外してしまい刑務所暮らしの日々に心を固く閉ざしていた。
衝動的に暴力を振るう彼女は刑務所内でも札付きの問題児。
それでも、ジェニーの才能を見抜いたトラウデは所長(シュテファン・クルト)を説得して特別レッスンを始める。
幼い頃から神童と騒がれながらも愛を知らずに育ったジェニー。
初めて愛した人が若くして亡くなって以来、音楽だけに人生を捧げてきたクリューガー。
来るべきコンクールでの優勝を目指し、厳しくも情熱をもって指導に当たるトラウデに、ジェニーも次第に心を開き始める。
しかしある日、クリューガーを慕う看守の ミュッツェ(スヴェン・ピッピッヒ)の仕組んだ陰謀にはめられ、ジェニーは暴力事件を起こしてしまう。
大会を前にしてピアノを禁止されるジェニー。
果たしてジェニーは、晴れの舞台に立ち、自由の切符を得ることが出来るのか・・・。
寸評
憎悪あるいは怒りともいえる敵意をむき出しにして、その感情のすべてをピアノに叩きつける様はヒロインの人生そのものであり、其れを表現したラストの10分間が素晴らしい。
鍵盤だけでなく、ピアノの弦を爪弾き叩き、鍵盤のカバーでリズムを取り、ピアノのボディを叩き、椅子を蹴り飛ばし、そしてステップを踏む。
およそクラシック音楽とは程遠いその演奏は前衛音楽でもあり、彼女の鬱積した気持ちの吐露でもあったのだろう。
観客の喝采に応える彼女の表情が其れを物語っていた。
難をいえば忌まわしい過去を持つ二人が引き寄せられていく過程が少し物足りないように感じたが、それでもジェニーはクリューガーが下劣という旋律を奏で、彼女が見事なまでに演奏しきるシーンは迫力十分だった。
去っていく父、押し寄せる警官たち、演奏にうっとりするクリューガー、万来の拍手に微笑むジェニー。
それらを次々と映し出して、生きてきたこと、これから生きるという事、人間の尊厳を見事なまでに突きつけた。