「海を飛ぶ夢」 2004年 スペイン
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監督 アレハンドロ・アメナーバル
出演 ハビエル・バルデム ベレン・ルエダ ロラ・ドゥエニャス
クララ・セグラ マベル・リベラ セルソ・ブガーリョ
タマル・ノバス ジョアン・ダルマウ フランセスク・ガリード
ストーリー
スペイン、ラ・コルーニャの海で育ったラモン・サンペドロは19歳でノルウェー船のクルーとなり、世界中を旅して回っていたのだが1968年8月23日、25歳の彼は岩場から引き潮の海へダイブした際に海底で頭部を強打、首から下が完全に麻痺してしまう。
以来、家族に支えられながらも、ベッドの上で余生を過ごさなければならなくなったラモン。
彼にできるのは、部屋の窓から外を眺め、想像の世界で自由に空を飛ぶことと、詩をしたためることだけ。
やがて事故から20数年が経ち、彼はついに重大な決断を下す。
それは、自ら人生に終止符を打つことで、本当の生と自由を獲得するというものだった。
そしてラモンは、彼の尊厳死を支援する団体のジェネを通じて女性弁護士フリアと対面し、その援助を仰ぐことに。
また一方、貧しい子持ちの未婚女性ロサがドキュメンタリー番組でのラモンを見て心動かされ、尊厳死を思いとどまらせようと訪ねてくる。
尊厳死の法廷での闘いの最中、フリアが発作で倒れてしまう。
進行性の難病を患っていると診断されたフリアは、自らも尊厳死を迎える決意をし、ラモンとともに誰も犯罪にならずに済むよう死の計画を立てるのだが・・・。
寸評
尊厳死という重いテーマをメインに据えているが、尊厳死は是か非かといった迫り方ではなく、一人の男の人生を切り取った人間ドラマとして描いている。
したがって、安易な感傷に流されることなく、また安易な結論に流されることなく描ききっている。
主人公が次第に生きる希望を見出していくといったストーリーが予想される内容だが、そうは単純に結論付けていない。
この映画は、尊厳死というテーマを真正面に据えた社会派映画ではないということだ。
そうなっているのは、彼に共感していく担当弁護士のフリアと、テレビで彼を見て死を思いとどまらせようとするロサという2人の女性との関係が有ったからだと思う。
時に嫉妬を感じさせ、時にユーモラスなシーンを描きながら二人の女性との関係も丁寧に描いていく。
その丁寧さが、ともすると重くなってしまいがちな内容を明るく感じさせていた。
特に主人公ラモンのキャラクターが独特で、明るく元気なのがいい。
これで、どうして尊厳死を考えているのかと思わせる設定で、首から上しか演技しないハビエル・バルデムの熱演が光る。
弁護士のフリアがやはり尊厳死を望むような状態になってしまうが、一方は死を、一方は生を選択する構成も胸打つ。
オープニングの美しい海の映像から、どれも印象的なシーンの連続。
特に寝たきりのラモンが、夢の中で海を飛ぶシーンは筆舌に尽くしがたいほどの美しさ。
主人公の意識の高さを感じさせるとともに、生きることの素晴らしさを訴えているようにも思える映像だった。
一貫して静かな進行はまるで文学作品を読んでいるように感じさせる映画で、劇場を出るときはちょっとした充実感があった。