ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

息の跡

2017-02-13 23:32:56 | あ行

震災後のドキュメンタリーに
あらたな視点をもたらす作品。


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「息の跡」73点★★★★


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岩手県の陸前高田市でたね屋(種苗店)を営みながら
津波の記録を外国語で書き続けている佐藤貞一さんを

本作が長編映画初監督となる小森はるか氏が
その土地に移り住んで撮影した
ドキュメンタリーです。

まず、驚くのが
映画がほぼ佐藤さんと、彼のプレハブの店の
半径50メートルほどしか写していないところ。

町のお祭りの風景なども挟まるんですけど
いや、ほとんどが店だけ(笑)

そんな小宇宙空間で
佐藤さんは、カメラには写らない監督にちょこちょこ話しかけ、映画は進んでいく。

「歳なんぼだっけ?」(佐藤さん)
「23です」(監督)
「まだそんなもんか!豆粒だな!」(佐藤さん)
「豆粒?!」(監督)

と、まあこんなふうに(笑)
どこかほのぼのしたやりとりを交えつつ
佐藤さんの店での日々が綴られていく。

佐藤さんはたね屋の仕事の傍ら
津波の記録を英語で書いた本を自費出版していて
とにかくエネルギッシュで
ユーモラスでユニークなキャラクター。
ちょっと昔かたぎの新聞記者のような謎の雰囲気もある。

そして佐藤さんは監督に向かって
“あの体験”をした記憶とその思いを
ぽつりぽつり、表に出していくんですね。


震災という言葉から
我々はどうしても津波や災害の映像や
被災者の方々の苦労や闘いをイメージしてしまうけど

この映画は全然違うんです。


そうか、監督は
そこにいた「不思議なおじさん」のこと、
そこで過ごした時間を
素直に、ここに封じ込めたかったのかなと感じました。

そしてそれが
震災のひとつの記録として
いつまでも見た人の心に、小さくても確かに何かを残していく。

震災と向き合い、記憶に残していくのに
こういう方法があるんだと
ほぅっと、息をつきました。


web「週刊通販生活」「今週の読み物」
小森はるか監督にインタビューをさせていただいております。
こんなにもほわんと、かわいらしい雰囲気の方ですが
若くして「自分が何を撮るべきか」「何をすべきか」にまっすぐ向き合い、そこに向かって進んでいる。
尊敬いたしました。


★2/18(土)からポレポレ東中野で公開。ほか全国順次公開。

「息の跡」公式サイト
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