ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

燃ゆる女の肖像

2020-12-05 16:49:57 | ま行

抑制の効いた描写のなかで

ハッとする瞬間が、目に焼き付く。

 

「燃ゆる女の肖像」73点★★★★

 

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18世紀、フランスの孤島のお屋敷に

画家のマリアンヌ(ノエミ・メルラン)がやってくる。

 

彼女は屋敷の伯爵夫人(ヴァレリア・ゴリノ)から

「娘エロイーズの肖像画を描いてほしい」と頼まれたのだ。

しかし、夫人のオファーは変わっていた。

 

「娘は前に雇った画家の前で、決して顔を見せなかった。

だから肖像画を描くというのはナイショにして、顔を盗み見ながら描いてほしい」

 

肖像画というのは、当時のお見合い写真のようなもので

娘はそれを嫌がっているようだった。

 

そしてマリアンヌは散歩相手として

エロイーズ(アデル・エネル)の後を追うのだが――?!    

 

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カンヌをはじめ

世界の映画賞を席巻している話題作。

 

たしかに印象的な描写力とミステリアス加減、

現代を撃つテーマがうまく合わさっていると感じました。

 

 

特に「顔」にフォーカスした冒頭からの描き方がいい。

最初に女の子の顔、顔、顔、と写していき、

それが、主人公の画家マリアンヌ(ノエミ・メルラン)の教室で

絵を学んでいる少女たちだとわかる瞬間とか。

 

そして生徒たちが見つける、顔を消された女性の肖像画。

 

そこからマリアンヌの回想がはじまり、

しかし、その肖像画の主は、なかなか顔を表さない。

そして、その顔があらわになる瞬間――とか

引き込まれます。

 

で、肖像画のモデルである

お嬢さま・エロイーズ(アデル・エネル)とマリアンヌは

愛し合うようになるのですが

 

ただ、想像したよりも抑制が効いているというか

熱愛!エモーショナル!という感じではなかったのはちょっと意外だった。

 

もっと「君の名前で僕を呼んで」的なのかな、と思っていたんだけど

でも

「恋に落ちた!」的な瞬間もなく、ラブシーンも意外にサラッとしてる。

 

主題はやっぱり「燃え上がる恋の炎」とか「許されぬ恋」というよりも、

女たちの静かな連帯と共闘にあるんだと思います。

 

時代は18世紀。

社会がいまよりもっと堂々と女性のドレスの裾を踏みつけ、

前に行かすまいとしていた時代だもんねえ…。

 

女性画家は男性名でないと展覧会に出品できなかったり、描く対象も限られていた。

エロイーズは望まぬ結婚を強いられているし

メイドの少女は望まぬ妊娠をする。

 

そんななかで女たちは

暗闇で互いを照らし、支え合ったのだなと。

女性たちが夜の焚火を囲むシーンはめちゃくちゃ印象的でした。

 

怒りや憤りの炎を内に秘めつつ、

時代や社会に寄り添う道を選びながら

しかし、彼女たちはその火を消してはいない。

それは、現代の我々にも、つなげられているのだ――  

 

そんなメッセージを、しかと受け取った感じ。

さあ、いまの世界はどうだ? そして、この先の世界は、どうなる?

 

★12/4(金)から公開。

「燃ゆる女の肖像」公式サイト

コメント
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