ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ラ・ラ・ランド

2017-02-19 14:34:00 | ら行

ついに、公開!


「ラ・ラ・ランド」77点★★★★


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女優志望のミア(エマ・ストーン)は
映画スタジオのカフェで働きながら
オーディションを受ける日々。

しかし、なかなかチャンスは訪れない。

ジャズを愛する
ピアニストのセブ(ライアン・ゴズリング)は
バーでピアノを弾いているが

人気の落ちたジャズを弾くチャンスは
なかなか訪れない。

ある夜、ミアはバーで
セブの弾くピアノに魅了される。

だが、二人の出会いはサイアクで――?!


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「セッション」のデイミアン・チャゼル監督、
待望の新作。

もうとにかくウキウキで切なく
これを嫌いな人はいないだろうなあという映画です。

ミュージカルだけど
歌や踊りが現実の延長にすんなり組み込まれ
唐突感がないので、ミュージカル苦手な方もイケるはず。


女優志望のエマ・ストーンと
ジャズを愛するピアニストのライアン・ゴズリング。

夢を追いかける二人が出会い
もどかしいすれ違いがあり
ようやく二人の想いが重なるか――?という

ストーリーは定石だけど
とにかく心に刻まれるシーンが多い!
ムード作りがうまい!
ロマンチックが止まらない!(笑)


冒頭、ロサンゼルスの高速道路での
群舞シーンから圧倒されるし、

エマ・ストーンとゴズリンが
街を見下ろす丘の上で踊るシーン、
明けてゆく空のグラデーションの美しさ!

これは映画史に残るだろうなあと思います。


監督の昔からの友人で
「セッション」の楽曲も手がけた
ジャスティン・ハーウィッツによる音楽も素晴らしい。

音楽、ダンス、感情表現、
すべてがメリハリを持ち、
かつ流れるようにつながっていて

チャゼル監督は本当に映画が好きで
観客の快楽のツボを心得ているんだと思います。


エマ・ストーンも魅力的だけど
ゴズリンの切ない表情にキュン死ですよ(笑)


★2/24(金)から全国で公開。

「ラ・ラ・ランド」公式サイト
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ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ

2017-02-18 19:13:49 | あ行

この男がやらかしていなければ、
トランプ大統領はなかった――?!
少々、買いかぶりすぎな気も(笑)


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「ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ」68点★★★☆



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2011年。連邦下院議員アンソニー・ウィーナーは
弁舌鋭く、まずまずのルックスの人気者。

長年、ヒラリー・クリントンの右腕を務めていた
美しく聡明な女性を妻にし
まさに上昇気流に乗っていた――

が。

あるスキャンダルによって
彼は議員を辞職せざるを得なくなる。

しかし。

2年後の2013年。彼は再起をかけて
ニューヨーク市長選に立候補する。

妻の献身的なサポートもあり
あっと言う間に支持率トップになるのだが――!?


ウィーナー?いや、ウィンナー氏でしょ、と言いたくなるほど
どうしようもないスキャンダルで
自分の足をすくいまくってる男のドキュメンタリーです(苦笑)


仕事への情熱と、性癖は関係ない――と言いたいところだけど
職種によっては無理でしょう、やっぱり。

ウィーナー氏は、たしかに正直で
有能な人材なんだと思う。

でもどんなにやる気があっても、
残念ながら政治家には向かないんでしょうね。


一度ならずも二度の「アホな」やらかしをしていく彼を見つめる
奥さんの冷えた目が悲しく(苦笑)
選挙対策室の女性たちも、どんどん同じ目になっていくのが
かなり冷え~な感じで(笑)

それを治めたドキュメンタリーとして
なかなかすごいと思います。

でもね。
キャリアも知性もある彼の奥さんが
ダンナを許し、結局、従属してしまう様子は
ソフト家庭内DVを見させられているようで
ちょっと複雑な気分にもなるのでありました。


ネタ的にはみていて飽きない人ではあるんですけど。


★2/18(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

「ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ」公式サイト
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愚行録

2017-02-17 22:49:56 | か行

いまもニュースで流れている
“イヤな話”が、ここにある。


「愚行録」68点★★★☆


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週刊誌記者の田中(妻夫木聡)は
拘置所へ妹・光子(満島ひかり)の面会に行く。

光子はシングルマザーとして子どもを生み
しかし、その子を育児放棄した疑いで逮捕されていた。

いざ自分に降り掛かった“事件”に戸惑う田中は
仕事にも身が入らない。

そんななか、彼は
1年前に起こった一家惨殺事件を再取材することにする。

エリートサラリーマンの夫と専業主婦の妻、
その幼い娘が殺された凄惨な事件。

だが、夫の同僚や、妻の大学時代の友人に話を聞くうちに
田中は理想的な夫婦の別の顔を知ることになり――?!


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貫井徳郎原作×妻夫木聡×満島ひかり主演。


他者の話から、もうこの世にいない人間の、人物像を追っていくという
定石ながらミステリー好きの心をくすぐる作りです。


で、描かれるのは
親からの虐待、大学内のヒエラルキー、就活・婚活、人生の勝ち負け・・・・・・という
現実のイヤなニュースの要素を
てんこ盛りにしたようなもの。


まさに今夜も、研修医や医大生による事件が報道されていましたが
それを聞いて
「ああ・・・」とこの映画を思い出すほど
現実にリンクして、
リアルに“イヤな世”を感じられる映画になってる。


ホントに“イヤミス”の局地――なんですが
実は原作が書かれたのは2006年。
まだ“イヤミス”の定義がなかったときで
貫井さんの感覚は鋭いなあと思います。


キャストもさすがの布陣で
冒頭から、死んだ目の兄・妻夫木氏が、空洞な目の妹・満島ひかり氏が
映画を引っ張る。

彼らの引力で見飽きないんですが
ただ
妹の事件とは別の事件を兄が追う話が延々続くので、
これどこで、どう収拾つけるんだろう、とドキドキ。


このテーマにして“暴力描写”がどぎつくなく
その手が苦手なくせに、それはそれで物足りなく感じてしまって
勝手なもんだなあと思ったりもしました(苦笑)。

それにしても
事件ものやミステリーには刑事、探偵、そして週刊誌記者がつきもの。
この世から週刊誌がなくなったら
ミステリーは成り立たないじゃん!がんばって雑誌!とか
切実に思いました(笑)

★2/18(土)から全国で公開。

「愚行録」公式サイト
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雨の日は会えない、晴れた日は君を想う

2017-02-15 23:19:42 | あ行

この監督は
「カフェ・ド・フロール」が一番好き。
本作は、それに近い。


「雨の日は会えない、晴れた日は君を想う」77点★★★★


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ウォール街の銀行に勤めるディヴィス(ジェイク・ギレンホール)は
その朝、通勤の車のなかで
妻ジュリアと口論していた。


妻の父であるフィル(クリス・クーパー)の銀行で働く彼は
ちょっとした“マスオさん状態”だが
それでも富と地位を手に入れ、不満はなかった。

だが、このところ
妻との仲はどうもギクシャクしている。

そのとき、事故が起こり
妻が亡くなってしまう。

だが、ディヴィスは
一滴の涙も出なかった――。


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まさに
アメリカ版「妻が死んだ。これっぽっちも泣けなかった」な男の
もがきと再生への一歩。

語り尽くされたような素材を丹念に描き込み、
観客をその体験と感情に同調させ、映画へと引き込んでいく。

そこへ導くのがジェイク・ギレンホールの演技なんですねえ。
喪失、混乱、悲しみ――
それぞれがシンプルなだけに難しい表現を
こんなふうに演じるのかあ、と釘付けです。


舞台装置も上手で
職場も主人公たちの自宅も、全てがオシャレ―にガラス張りでスケスケ。
だけど、その中にいる彼らの心の中身は全く見えない。

家でひとりぽっちになった主人公は
冷蔵庫やらエスプレッソマシーンやら
そのうち家具やらを壊しはじめるんですが

それは「物を壊してスッキリしたい!」とかの衝動で動くのではなく
それらを分解して、中身を見たい!という
衝動からなんですね。

でも、分解したものに中身はなく
結局バラバラのパーツでしかなく
しかもそれを彼は元に戻せないんですよ。
そういう象徴の皮肉も効いている。

見ながら、
人は苦しいときに、本当にこうやって
思いもよらない人からの
「大丈夫ですか?」で救われるんだよなあと
しみじみ思いました。


ジャン=マルク・ヴァレ監督は一般的にはやはり
「ダラス・バイヤーズクラブ」「私に会うまでの1600キロ」で評価されているようですが
ワシは断然、「カフェ・ド・フロール」が素晴らしい!と思っていて
本作は、それに近い感じがする。

なので
同じ思いを持つ方には、ぜひおすすめです!(笑)


★2/18(土)から新宿シネマカリテほか全国で公開。

「雨の日は会えない、晴れた日は君を想う」公式サイト
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息の跡

2017-02-13 23:32:56 | あ行

震災後のドキュメンタリーに
あらたな視点をもたらす作品。


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「息の跡」73点★★★★


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岩手県の陸前高田市でたね屋(種苗店)を営みながら
津波の記録を外国語で書き続けている佐藤貞一さんを

本作が長編映画初監督となる小森はるか氏が
その土地に移り住んで撮影した
ドキュメンタリーです。

まず、驚くのが
映画がほぼ佐藤さんと、彼のプレハブの店の
半径50メートルほどしか写していないところ。

町のお祭りの風景なども挟まるんですけど
いや、ほとんどが店だけ(笑)

そんな小宇宙空間で
佐藤さんは、カメラには写らない監督にちょこちょこ話しかけ、映画は進んでいく。

「歳なんぼだっけ?」(佐藤さん)
「23です」(監督)
「まだそんなもんか!豆粒だな!」(佐藤さん)
「豆粒?!」(監督)

と、まあこんなふうに(笑)
どこかほのぼのしたやりとりを交えつつ
佐藤さんの店での日々が綴られていく。

佐藤さんはたね屋の仕事の傍ら
津波の記録を英語で書いた本を自費出版していて
とにかくエネルギッシュで
ユーモラスでユニークなキャラクター。
ちょっと昔かたぎの新聞記者のような謎の雰囲気もある。

そして佐藤さんは監督に向かって
“あの体験”をした記憶とその思いを
ぽつりぽつり、表に出していくんですね。


震災という言葉から
我々はどうしても津波や災害の映像や
被災者の方々の苦労や闘いをイメージしてしまうけど

この映画は全然違うんです。


そうか、監督は
そこにいた「不思議なおじさん」のこと、
そこで過ごした時間を
素直に、ここに封じ込めたかったのかなと感じました。

そしてそれが
震災のひとつの記録として
いつまでも見た人の心に、小さくても確かに何かを残していく。

震災と向き合い、記憶に残していくのに
こういう方法があるんだと
ほぅっと、息をつきました。


web「週刊通販生活」「今週の読み物」
小森はるか監督にインタビューをさせていただいております。
こんなにもほわんと、かわいらしい雰囲気の方ですが
若くして「自分が何を撮るべきか」「何をすべきか」にまっすぐ向き合い、そこに向かって進んでいる。
尊敬いたしました。


★2/18(土)からポレポレ東中野で公開。ほか全国順次公開。

「息の跡」公式サイト
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