ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ヘルムート・ニュートンと12人の女たち

2020-12-12 15:10:36 | な行

ぐいぐい引き込まれ、最後には落涙。

ヘルムート・ニュートン、かっけー・・・・・・。

 

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「ヘルムート・ニュートンと12人の女たち」76点★★★★

 

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この名前を、聞いたことある人は多いと思います。

1970年代、80年代にかけて

『ヴォーグ』を始めとするファッション誌で活躍した

伝説のフォトグラファー。

 

で、本作は

彼へのインタビューと、彼にまつわる12人の女性の証言をまとめたドキュメンタリー。

彼の写真を知らずとも引き込まれること必須な

よく出来た映画でした。

 

 

ヘルムート・ニュートンの写真はググれば、すぐに出てくるけど

ワニに半分喰われた裸の女性とか、

イザベラ・ロッセリーニの首を絞めかけているようなデヴィッド・リンチの写真とか

とにかく、パキッと硬質で、危険で妖しい

独特の美学に溢れている。

 

で、この映画も猛々しい音楽とともにはじまり

「なんにもしゃべることなんかないよ~」的なご本人が登場。

あら、やっぱり不遜で尊大なお方なの?と思いきや

次第にその「人物」が明かされていくんです。

 

しかし彼の写真は

いまみても強烈なインパクトで

内容も「いまなら炎上ものだよね・・・」ってほどに振り切れてる。

 

女性をワニに食べさせる――くらいはまだしも(いや、まだしもじゃないか)

モデルの脚を金属のピンで留めて、杖をつかせたり(やばい)

馬の鞍を背負わせた女性をベッドで四つん這いにさせたり(やばい)

 

しかもそれがファッション写真として

雑誌に載ってたりしたわけですから(そこがカッコイイんだけど!)

実際、当時も「女性蔑視!」「人種差別!」「ポルノまがいだ!」とか

散々に叩かれたらしい。

 

なぜ彼はそうした写真を撮ってきたのか?

それを

彼にまつわる女性たちが解説してくれるんです。

 

多く被写体になってきたグレイス・ジョーンズが言うように、

確かに変態チックだけど(笑)

彼の写真は決して下品ではない。

 

彼は背の高いシャープな女性を好み、強い女性を撮った。

それは「男社会に屈しない、強い女性像」の表現でもあったんだ、とか。

特にイザベラ・ロッセリーニと

シャーロット・ランプリングの分析は鋭すぎて酔いしれたw

話を聞いてみると

彼の写真が、また別の意味を持って見えてもくるんです。

 

さらに後半には

ユーモアに溢れ、ひょうきんな写真家の素顔が現れ、

(グレイス・ジョーンズがする、ある打ち明け話は爆笑!)

 

出自やつらい過去なども明らかになっていく。

そして運命の妻ジューンとのおしどり夫婦ぶり!

そのラストには胸がしめつけられます。

 

「炎上? 上等! オレは自分の撮りたいものを撮るんだ!」――

そんなアーティストの哲学と魂、

いまの世を、ズキュンと撃ってくるじゃありませんか。

 

★12/11(金)からBunkamura ル・シネマ、新宿ピカデリーほかで公開。

「ヘルムート・ニュートンと12人の女たち」公式サイト

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燃ゆる女の肖像

2020-12-05 16:49:57 | ま行

抑制の効いた描写のなかで

ハッとする瞬間が、目に焼き付く。

 

「燃ゆる女の肖像」73点★★★★

 

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18世紀、フランスの孤島のお屋敷に

画家のマリアンヌ(ノエミ・メルラン)がやってくる。

 

彼女は屋敷の伯爵夫人(ヴァレリア・ゴリノ)から

「娘エロイーズの肖像画を描いてほしい」と頼まれたのだ。

しかし、夫人のオファーは変わっていた。

 

「娘は前に雇った画家の前で、決して顔を見せなかった。

だから肖像画を描くというのはナイショにして、顔を盗み見ながら描いてほしい」

 

肖像画というのは、当時のお見合い写真のようなもので

娘はそれを嫌がっているようだった。

 

そしてマリアンヌは散歩相手として

エロイーズ(アデル・エネル)の後を追うのだが――?!    

 

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カンヌをはじめ

世界の映画賞を席巻している話題作。

 

たしかに印象的な描写力とミステリアス加減、

現代を撃つテーマがうまく合わさっていると感じました。

 

 

特に「顔」にフォーカスした冒頭からの描き方がいい。

最初に女の子の顔、顔、顔、と写していき、

それが、主人公の画家マリアンヌ(ノエミ・メルラン)の教室で

絵を学んでいる少女たちだとわかる瞬間とか。

 

そして生徒たちが見つける、顔を消された女性の肖像画。

 

そこからマリアンヌの回想がはじまり、

しかし、その肖像画の主は、なかなか顔を表さない。

そして、その顔があらわになる瞬間――とか

引き込まれます。

 

で、肖像画のモデルである

お嬢さま・エロイーズ(アデル・エネル)とマリアンヌは

愛し合うようになるのですが

 

ただ、想像したよりも抑制が効いているというか

熱愛!エモーショナル!という感じではなかったのはちょっと意外だった。

 

もっと「君の名前で僕を呼んで」的なのかな、と思っていたんだけど

でも

「恋に落ちた!」的な瞬間もなく、ラブシーンも意外にサラッとしてる。

 

主題はやっぱり「燃え上がる恋の炎」とか「許されぬ恋」というよりも、

女たちの静かな連帯と共闘にあるんだと思います。

 

時代は18世紀。

社会がいまよりもっと堂々と女性のドレスの裾を踏みつけ、

前に行かすまいとしていた時代だもんねえ…。

 

女性画家は男性名でないと展覧会に出品できなかったり、描く対象も限られていた。

エロイーズは望まぬ結婚を強いられているし

メイドの少女は望まぬ妊娠をする。

 

そんななかで女たちは

暗闇で互いを照らし、支え合ったのだなと。

女性たちが夜の焚火を囲むシーンはめちゃくちゃ印象的でした。

 

怒りや憤りの炎を内に秘めつつ、

時代や社会に寄り添う道を選びながら

しかし、彼女たちはその火を消してはいない。

それは、現代の我々にも、つなげられているのだ――  

 

そんなメッセージを、しかと受け取った感じ。

さあ、いまの世界はどうだ? そして、この先の世界は、どうなる?

 

★12/4(金)から公開。

「燃ゆる女の肖像」公式サイト

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