marcoの手帖

永遠の命への脱出と前進〔与えられた人生の宿題〕

世界のベストセラーを読む(427回目)寄り道その六:昭和の文学続き 評論家佐古純一郎はキリスト教伝道者だったのか①

2017-09-03 06:00:00 | 日記
 今回のブログは一連の流れの中で書いていますので、不明な方は先の「寄り道その一」からお読みください。下手なその辺のその道の方々より、真摯に言葉の専門家であろうとするなら、彼はことば(ロゴス)に必ずぶつかるはずであるということを述べており、確かに僕もそう思うのです。キリスト教と言えば、雑音としての知識は腐るほどあるので、それなりのイメージをつけてから読まねば(接しなければ)いけないと思われる方がほとんどだと思うが、決してそれが確信にはいきつかないということを僕は述べてきています。佐古純一郎の「昭和文学の課題」の前回からの文章の続きです。<「文学をどう読むか」Ⅲ昭和文学の問題 (現代教養文庫)から>
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 ヨーロッパ的近代において「自我」という観念が絶対性を保持しえたのは、実は「神」という絶対性の投影としてのみ可能だったので、「神」の否定が裏返しにされた「神」の肯定であったところに、ヨーロッパ的世界において無神論が生活のエネルギーでありえたわけがあったことを知らなければならない。「神」は留守であった。その留守を守る役割を果たしていたのが「自我」であったに過ぎない。だから、ヨーロッパ的世界に於いては、「神」にかえっていくという道がけっして断たれていた訳ではなかったのに、私たちは「自我」という観念に頼れなくなっている現代に於いて、かえっていくというかたちでは「神」につながっていくことができないのである。そこに私たちの奇妙なゆがみがあるのだということを認識しなければならない。〔・・・・〕(p110)
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(僕のコメント):2017年、今は文学の問題などに悩む事などあるのだろうか、すべて大衆化されてしまって、内容に倫理などを求めるというシリアスなものより如何に売れてるかが、どれだけ(数)読まれるかであって、内容は希薄なように思ってしまうのは僕だけだろうか。1978年初版41刷発行の版を重ねていた当時は、まともに「文学は如何に」などという課題に悩んでいたわけだ・・・物はあふれ大衆化によってそれらの答えが出ないうちに時代は過ぎ去りつつある。しかし、神の最高傑作の創造物としての人は、変わらず生きては死にゆく。この住む土台(地球)が今にも無くなろうとしているのに・・・。当時、著名な評論家福田恆存氏の「個人主義からの逃避」と題する評論、文学の問題について論説を掲載して佐古はその見解を述べているので、その評論を先に掲載します。
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 問題は主体の側にあります。西欧と日本とでは、近代文学だけが違うのではない。近世社会が違うだけでもない。両者における中世封建社会の差ということから考えなおさなければならないのです。しかも、その比較においても、唯物史観的に下部構造をほじくりまわしているだけでは、どうにも納得いかぬことがある。私は、そこに読者の目を向けたいのです。
 神のない日本、絶対神を必要としなかった日本人、そういう主体の分析にまで迫らなければ、どうにもなりません。さらに、それを見事に分析したところで、それだけでどうなるというものでもない。が、その自覚なしに、近代文学がどうの、近代精神がどうのと言っても、いたずらに混乱を巻き起こすだけで、すべては無意味であります。個人主義ということ一つを採り上げても、それは神という前提なくして生じえないし、それに徹しようとすれば、どうしても神の問題にぶつからなければならないはずです。個人主義ばかりでない。民主主義にしても、自由にしても、平等にしても、すべてが神の問題に結びついている。
 ただ、神などを持ち出すのは、私も日本人の一人として、いかにも大仰で照れくさいが、それを照れくさいとして避ける気持ちが、あるいはそれを「観念論」として軽蔑する態度が、ますます私たちをして西欧の精神と文学とを理解せしめなくしていることだけは事実です。その意味では、もう一度明治の精神に立ち返ってみる必要がありはしないでしょうか。キリスト教に真っ向からぶっつかってみる必要がありはしないでしょうか。(『個人主義からの逃避』:福田恆存 )<「文学をどう読むか」p113>
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