習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

益田ミリ『今日の人生3 いつもの場所で』

2024-06-08 18:24:00 | その他
読んでいて何度も泣きそうになった。こんなささやかなこの人生を僕たちは生きている。そのことを益田ミリは教えてくれる。  今回は2020年から2023年が背景になる。コロナ禍である。だから彼女は常にマスクをして外出している。世界はそれまでとは変わったけど、彼女も僕らも変わらない。以前の日常は失われて不安な毎日だったけど、いつもの日常を生きていく。   そんな日々のスケッチであ . . . 本文を読む
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一木けい『彼女がそれも愛と呼ぶなら』

2024-06-08 12:46:00 | その他
最初はこんな無茶苦茶な設定で話を作って大丈夫か、とドキドキしながら読み始めた。あり得ない。だけどだんだんこの状況がなんだか素敵だと思う。従来の価値観に縛られていただけかも、と思う。そんなあり得ないことから始まる。  伊麻と絹香。当たり前だったことに異議を唱える。ふたりの、そしてふたつの家庭を交互に描いていく。やがてふたつは重なり合い、新しい次元に突入していく。 3人の恋人を持ち、彼ら . . . 本文を読む
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落合由佳『要の台所』

2024-06-08 10:06:20 | その他
『天の台所』に続くシリーズ第二弾となる。がみババと台所のお話。最近「食」を題材にした小説が異常に多い。というか自分がそんな本ばかりを手にしているだけなのかもしれないが、そんな気がする。一般書はもちろんのこと、児童書でもそうだ。これもまたそんな1冊。料理する上でのさまざまな蘊蓄がさりげなく織り込まれていて勉強にもなる。 さて、今回の主人公は女の子、要。中学1年生。今は夏休み。退屈。マンションの隣に . . . 本文を読む
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吉田篤弘『それでも世界は回っている3』

2024-06-06 08:07:00 | その他
とうとう完結編。「インク3部作」のたどりついたところ。冒険は続くけど、なんだかここに至って、旅は停滞したまま。六番目のブルーの謎の解明はなされるみたいだけど、そこにはあまり意味はない。14歳のオリオはジャン叔父さんとインクを探して旅をしていた。亡くなった師匠ベルダさんの幻のインク。吉田篤弘ワールドを彷徨い歩いて辿り着く果て。読み始めは少し戸惑いがあった。前回からもう1年以上経っていて、細かい話は忘 . . . 本文を読む
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小手鞠るい・佐藤まどか『この窓の向こうのあなたへ』

2024-06-06 05:27:00 | その他
ふたりの作家による往復書簡である。昔からこういうパターンの本はたくさんあったけど、今回のこの本のような徹底したケースは初めてではないか。ふたりはこれまで気にはなっていたがお互い面識もなく、だけどお互いをリスペクトしていた。そして、初めましてから始まる。  手紙というスタイルで、話合う内容はかなり突っ込んだことを歯に衣着せぬ真摯なことばで語り合う。子どもたちのことや生き方について。アメリ . . . 本文を読む
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太宰治『津軽』

2024-06-05 04:19:00 | その他
まさか今頃太宰を読むなんて思いもしなかった。授業で『富嶽百景』とか『待つ』なんかをよくやるからその時はテキストを読むけど、自分の読書で読むなんて高校時代以来ではないか。しかも『津軽』はたぶん読んでいない。だから今回が初読であろう。たまたま図書館の新刊の棚で見かけたから手にとってしまった。この本は133刷である。2024年3月発行。文庫の初刊は1951年8月らしい。凄いロングセラーだ。   . . . 本文を読む
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せやま南天『クリームイエローの海とキャベツのある家』

2024-06-04 19:15:00 | その他
新人作家のデビュー作。30代後半の決して若くない作家が書いた作品である。よくあるお仕事小説とは一線を画す。家事代行サービスという仕事。一流商社で億という金を動かす仕事をしていた彼女が体を壊して退職して、リハビリを兼ねて軽い気持ちでやり始めた。だが、舐めてかかっていた仕事が、実はかなり大変さを伴うことを知る。  ある家族との関わりを通して見えてきたもの。妻を亡くして残された5人もの子ども . . . 本文を読む
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浅倉宏景『ゴミの王国』

2024-06-04 19:14:00 | その他
ゴミの清掃員をしている綺麗好き男子とゴミ屋敷状態なのにさらに部屋にゴミを溜め込むゴミアーチストの女子。隣り合わせの部屋で住むふたりのドラマ、(という表面的なお話をきちんと裏切る)と,書いたが、そんな簡単な話ではない。真反対のふたりのラブストーリーという安易な設定に見せかけて実はかなり病んだふたりの話でもある。ゴミと潔癖症を通した虐待を描く。  ふたりの置かれた家庭環境がエゲツない。さら . . . 本文を読む
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『怪獣8号』①

2024-06-04 02:16:00 | その他
これはまだ完結していないアニメ作品だけど、これがかなり面白い。まず5話までを見たのだが、この先は2週に一度2話ずつ見る予定。今は怪獣解体業者で働いている主人公カフカが防衛隊に入隊したところまで。  三木聡監督の映画『大怪獣のあとしまつ』をアニメとしてリニューアルしたような作品である。描かれるのは怪獣が跋扈する日常。先日見た『デッド・デッド・デーモンズ・デデデデデストラクション後章』にも . . . 本文を読む
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恩田陸『スプリング』

2024-06-02 09:23:00 | その他
恩田陸、渾身の力作。そしてこれは『蜜蜂と遠雷』に匹敵する大作。今回はバレーダンサーを描く群像劇である。だが、あくまでもこれはひとりの男の物語。第一章『跳ねる』は主人公の春(HAL)と純(JUN)を中心にして、彼らとその周囲にいるダンサーたちの魂のドラマが綴られていく。春の旅立ちを描くエピソードだ。それをライバルである純の視点から描く。このいきなりクライマックスに驚く。  続く第二章『芽 . . . 本文を読む
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沖田円『丘の上の洋食屋オリオン』

2024-06-01 18:57:59 | その他
また食べ物屋の話かぁと自分で選んだくせに、思う。だけど、今回も正解だった。これはとてもいい小説だ。丘の上にある小さな洋食屋さん。若い二代目シェフとホール担当の義姉、そしてアルバイトの青年。たった3人のスタッフがおもてなしする。開店前のプロローグの後、4人のお客さんの話が描かれる。   僕は丘の上が好きだから、職場も丘の上の学校を選んだ。(最初は街中の学校ばかりだったけど20年経ってよ . . . 本文を読む
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三浦しをん『しんがりで寝ています』

2024-05-31 07:38:00 | その他
エッセイは読んだ後あまり感想をここには書いていないのだが、これは書くことにした。バカバカしいおバカエッセイだし、書くことはないのだけど、楽しかったからだ。読みながら、こんなものを読んでいるじかがもったいないと思って何度も本を置いたが、気づくとまた読んでいた。何冊も他の本を読みながらも、時たまこれを読んで、相変わらずバカだなぁ、と思う。三浦しをんの小説は好きだが、エッセイのバカさ加減もそれはそれで心 . . . 本文を読む
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浅倉秋成『家族解散まで千キロメートル』

2024-05-29 22:26:00 | その他
家族解散まで3日。最後の3日、不在の父の不始末をなんとかするために青森まで旅する家族。1,000キロメートルの旅の先には何があるのか。  これは、まさかの岡本喜八監督作品を思わせるそんな小説だ。生きていた頃の喜八さんに読んでもらい映画化してもらいたかった。そうして欲しかった。主役はともかく、ふざけた父さんは60代の頃の仲代達矢で。まぁ、今なら役所広司でお願いします。面白いし、テンポもい . . . 本文を読む
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いとうみく『真実の口』

2024-05-29 13:28:00 | その他
なんだかなぁと思いつつ読み進めるが、ラストまで読んだ時、確かにな、と感心させられる。母親に言わず自宅に泊めて、勝手に父親のところに連れ出すのはあまりに無謀な行為である。これは高校1年の子どもたちが4歳の少女を助ける話だが、警察官に言わせると彼らの行為は誘拐になる。最初の出会いはコンビニの前。迷子になってそこに座っていた彼女を家まで送り届けるために警察まで連れて行った。 やがて彼女が母から . . . 本文を読む
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辻村深月 他5名『時ひらく』

2024-05-28 08:36:00 | その他
テーマを定めて集めたアンソロジー。錚々たるメンバーによる得意な設定を駆使した短編を集めた。場所は三越百貨店。ライオン前。時空を超えた出会いと別れ。さまざまなアプローチをする。辻村深月からスタートして、伊坂幸太郎が続く。ふたりらしい作品で安心して読める。ここまでがハイライト。その後も三越百貨店という350年の歴史を誇る老舗を舞台にして、いずれもそれなりには楽しめる作品が提示された。阿川佐和子、恩田陸 . . . 本文を読む
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