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映画・演劇のレビュー

遊劇舞台二月病『sandglass』

2021-07-07 12:55:12 | 演劇

よくぞまぁ、こんなにも剛速球でど真ん中の芝居を作ったものだ。中川さんは迷うことなく自分の想いを1本の芝居の中に詰め込んだ。二月病の10周年記念作品にふさわしい力作である。ただ、あまりにストレートすぎて、見ていて少し戸惑う。ここには逃げ場がない。これは見ていてあまりにつらい。だけど、それが彼の見せたかったものなのだから、これはこれでいい。だが余白がないし、説明も不十分だ。主人公の作家が追い詰められていく過程ももう少し紆余曲折があってもいい。中心にある彼と妹ののドラマに奥行きがないから最後の惨劇も説得力を欠く。

彼らのお話とその背後に流れる戦後のさまざまな出来事。そのダブルスタンダードがもっとうまく重なるといいのだが、わかりにくい。戦後すぐから現代まで、この国にはびこる貧困(それは心と体に巣食う)と向き合い、そのどうしようもない現実に怒りを叩きつける。他人ごとではなく自分たちの問題として出来事を受け止める。その時、主人公と自分がきちんと重なるといい。常にこの芝居のセンターにいるアニを演じた松原佑次が素晴らしいだけに、ちゃんと彼に感情移入できたならよかったのだが。

ラストの叫びは時空を超える。これまでにこの国を襲ったさまざまな災厄は戦後のあの時と同じことで、その繰り返しの先に今があり、この先もまた同じ過ちを繰り返すのだろう。それでも人はそんな時代を生きていく。そこにある意志って何なのだろうか。主人公と観客である自分たちがラストで完全に重なり、そこにあの惨劇が生じる。そういう図式を完成させるには、あの殺しはあまりに唐突すぎて、驚くしかない。そこに説得力がないのは返す返す残念でならない。この救いようのないドラマに込められた祈りがここには届かないのが残念だ。


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1 コメント

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Unknown (松原佑次)
2021-08-14 21:30:30
広瀬さん!いつもありがとうございます!!
劇団員一同、精進致しますー!!

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