習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『麻希のいる世界』

2022-03-31 12:19:41 | 映画
塩田明彦監督が初心に帰って挑む最新作。前作『さよならくちびる』の流れを汲む作品なのだが、ここに描かれるものは明らかにデビュー作『月光の囁き』の悪意を思わせるものだ。この全く取り付く島すら与えない映画は、わからないならそれでいい、と観客を拒絶している。自分が思うことを、もしかしたら自分自身ですらわからないまま、提示していく。そこから何がが見えてくるかもしれないという一縷の期待だけで映画は突き進む。だ . . . 本文を読む
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宇佐美まこと『月の光の届く距離』

2022-03-31 11:39:46 | その他
あの傑作『展望塔のラプンツェル』の宇佐美まことの最新作である。今回もキツイ話だ。読み進めるのには勇気がいる。あまりの痛ましさに目を覆いたくなる。辻村深月『朝が来る』を思わせるような始まりだ。17歳の少女が妊娠して子供を産むことになる。両親のもとを飛び出してひとりで生きようとする。同級生の恋人は妊娠を知り彼女を棄てて逃げ出す。誰一人頼るものもいない。死のうと思う。そこから始まる。第1章はそんな少女、 . . . 本文を読む
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『ナイトメア・アリー』

2022-03-31 10:50:40 | 映画
今回のデル・トロの新作映画のタイトルは日本語にすると「悪夢小路」ということになる。なんだか小さなお話を思わせるタイトルだけど、映画自体は2時間半の大作だ。ここに入ると抜け出せないし、ずっとここでさ迷っていたいとすら思わされる(悪夢なのに)夢のような心地よい物語。 2部構成で、前半は見世物小屋でのお話。空き地に建てられたカーニバルはなぜか雨ばかりが降る。主人公のスタンはそこで出会ったモリーとふたり . . . 本文を読む
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『アンビュランス』

2022-03-31 10:35:31 | 映画
『アルマゲドン』や『トランスフォーマー』シリーズでおなじみのド派手なアクション大作映画の雄、マイケル・ベイが初心に(?)戻り、シンプルなアクション大作に挑む。今時珍しくなった銀行強盗の話だ。だが、それを彼が手掛けると、それはB級アクション映画ではなく、こんなにもどこまでも派手でエスカレートする大作化する。ネットフリックス映画だったけど、相変わらずド派手な前作『6アンダーグラウンド』の流れを組む作品 . . . 本文を読む
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ヨルノサンポ団『イロトリドリのシロクロ』

2022-03-29 16:19:06 | 演劇
団地が舞台だ。マンションではなく。4,5階建てで、同じ建物が続く団地群。それは高度成長期の70年代前後に建てられた。そして、今は古びて建て替えを迫られている。子供たちは出ていき、残された高齢者が住む。先日見た傑作映画『ガガーリン』を思わせる。同じ間取りの団地の一室、4組の家族の部屋が描かれる。芝居を見たときには、舞台は高層マンションだと思ったが当日パンフには「同じ団地に住む人達の話」とある。そこで . . . 本文を読む
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『10万分の1』

2022-03-29 15:43:43 | 映画
2010年『ソラニン』でデビューして12年で16本、(今年はなんと3本の公開が決まっている!)三木孝浩監督は着実にキャリアを重ねている。同じ三木姓で同世代の三木康一郎監督は2012年デビューで11本。彼は当たり外れがあまりに大きいけど、傑作『植物図鑑』を撮った人だからとりあえずは信用したい。それにしても彼は振れ幅は大きい。なんでも引き受けるからであろう。三木孝浩の一貫性とはまるで違う。でも、三木孝 . . . 本文を読む
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葛城市民劇団くすのき『ぱりぱり』

2022-03-28 11:12:23 | 演劇
昨年の椰月美智子(『るり姉』)に続く新作はなんと瀧羽麻子だ。外輪さんはとても趣味がいい。しかも、それをしっかりと自分の世界へと引き込んで、その上で更に「くすのき」らしい作品として仕上げ舞台化する。短編連作による長編小説をなんと65分の作品に仕立てた。この短さが心地よい。6つの視点から語られるお話を短いエピソードの断片の連鎖で描いていく。原作を生かしながらそれを一度解体して再構築した。 細切れのド . . . 本文を読む
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神戸遥真『恋とシェイクと春休み』」

2022-03-28 10:29:50 | その他
シリーズ第5作。新シリーズとなった前作から2か月のインターバルでの新刊の刊行だ。きっと一気に書き終えての刊行なのだろう。ふつうなら今回も三部作ではないか、と思うけど、この5冊目で完結。なんだかバランスが悪いけど、上下2巻という扱いか。 この5冊目を読みながらこれはダメだと思った。こんな消化試合のようなお話はいらない。前作のラストはクラスの親友に隠していたアルバイトが見つかり、ショックを受けたとこ . . . 本文を読む
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『縁起良き時』

2022-03-26 11:21:55 | 映画
今年の大阪アジアン映画祭の「台湾電影ルネッサンス2022」で上映された作品。1週間ほど前に見ているのだけど、どう書いたらいいのかわからないから保留していた。これはTVシリーズの第1話(月曜日から始まる1週間の7話からなる連作作品のようだ。本作はその第1話で月曜日のお話)で54分の中編作品だ。『台北暮色』のホアン・シー監督作品。最近『カム・アンド・ゴー』『ホテルアイリス』と助演ながら2本も連続で見た . . . 本文を読む
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『コタローは一人暮らし』

2022-03-24 17:17:39 | 映画
こんなにも面白いアニメを見るには久々だ。これを子供向けのアニメだと高を括っていると痛い目に遭うだろう。この世界の片隅で孤高を生きる4歳児コタローの姿は感動的である。たったひとりで4歳児が生きれるはずはないが、そうすることでしか生きる術を持たない彼の覚悟がこのお話の前提にはある。こんなありえないことを可能にする彼の強さをこのお話は描こうとするのだ。 最初は1話だけのつもりでなんとなく見始めたのだが . . . 本文を読む
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『猫は逃げた』

2022-03-23 21:34:15 | 映画
『愛なのに』に続くL/R15(R15+の映画を作るという企画)の第2作。前作が期待外れだったので、今回もあまり期待はしていないけど、それでも今泉力哉監督作品なので、それなりには面白いのではないか、と思い見たのだが、がっかりだ。こういう形でのお友だちコラボは信じないほうがいい。お互い遠慮したり、企画先行で内容が薄かったりで、今泉監督本来の持ち味が生かされていない。昨年の怒濤の3作品連続公開に続く本作 . . . 本文を読む
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劇団ぱぶろば『CHUーWOMAU』

2022-03-23 21:00:02 | 演劇
第11回ウイングカップの2作目の公演になる。本来ならこの作品は6作目となるはずだったのだが、コロナのために2団体の公演が中止になり、2団体が延期となったため、そういうこととなった。3月末で全7団体が終わるはずだったのに、この先も続く。今年のウイングカップ自体まで中止になるのではないか、と心配したけど、続行のめどが立ったようでほっと一息だ。いろんな意味で過酷な状況だが、それでも演劇がしたい、と望む若 . . . 本文を読む
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『薬の神じゃない!』

2022-03-19 13:07:03 | 映画
この映画の内容については何も知らないまま、見始めた。コメディ映画だと思っていたし、最初はそんな感じで始まる。でも、だんだん「なんなんだ、これは!」と思い始めることになる。こんなふざけた話なのに、それがなんと実話の映画化なのか、と驚く。白血病の特効薬を巡るお話。 こんな飲み薬で白血病が治るのか? しかも、あんなにもたくさんの人たちが、白血病で苦しみ薬を求めているのか。知らなかった、というより、冗談 . . . 本文を読む
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井嶋敦子『ひまりのすてきな時間割』、まはら三桃『かがやき子ども病院 トレジャーハンター』

2022-03-19 12:46:25 | その他
2冊連続で児童書を読んだ。どちらも病気を扱う。前者はADHDの小学6年生の少女が主人公、後者はさまざまな病気で長期入院している病院が舞台となる群像劇。児童書だけれども、扱う内容は重いし、しんどい話だ。だけど、そこから逃げることなく、それをきちんと描きつつ、彼らの想いを伝える。他人事としてではなく、身近な問題として、受け止めることができるのがいい。子供たちがこういう本に触れて、いろんなことを考えてく . . . 本文を読む
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中江有里『残りものには、過去がある』

2022-03-19 12:15:24 | その他
中江有里は十代の頃から女優として活躍していたが、作家としてのキャリアも確実に積んできた。でも、僕は今まで彼女の小説を読んだことがなかった。ようやく昨年になって初めて『万葉と沙羅』を読んだのだが、なかなか面白くて感心した。でも、今回、これを読んで衝撃を受けた。彼女の本当の実力を思い知らされた気がする。うまいなんてものではない。これは凄い。お話で見せるのではなく、人物の掘り下げが深く、なのに、さらりと . . . 本文を読む
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