習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『行きずりの街』

2010-11-30 20:04:29 | 映画
 少し不安もあったが、阪本順治監督作品である。つまらないはずがない、と思って劇場に足を運んだ。彼にとって東映セントラルフィルム(とは、今はもう言わないのだが、黒沢満、製作なので、敢えてそう言う)での2作目である。前作『カメレオン』以上に自由にこの空気を生かした映画作りに取り組んだはずだ。撮影仙元誠三、脚本丸山昇一という往年の松田優作、村川透コンビを想起するチームで、仲村トオルを主演に迎えてアクショ . . . 本文を読む
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コトリ会議『わたしノほしデハ鯨ガおよグ』

2010-11-29 22:53:52 | 演劇
どうしてこんな凄い芝居を作れるのだろうか。発想のおもしろさと、その表現力。リズミカルな会話。心地よいリフレーン。まるで上質の音楽を聴いているように耳に心地よく響いてくる。そして流れるように芝居が展開していく。 今年に入ってこれでもう3本目の長編である。作、演出の山本正典さんは絶好調だ。向かうところ敵なしの勢いで快進撃を続ける。才能の泉はあふれかえり、次から次へと誰もが思いつきもしないアイデァ . . . 本文を読む
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角田光代 井上荒野 森絵都 江國香織『チーズと塩と豆と』

2010-11-29 22:47:23 | その他
食をテーマにした短編集。いずれも舞台はヨーロッパの田舎の村で、日本人は一切出てこないという条件のもと、書かれてある。この「土地」と「食べ物」という2つの条件は、作品にとって大きなくくりとなる。人が生きていく上で一番本質的なものであり、もちろん一番大切なものでもある。そこからすべてがスタートすると言っても過言ではない。だから、それは縛りではなくそれがあるからこれらの作品は生き生きとしたものになった . . . 本文を読む
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野中柊『昼咲月見草』

2010-11-28 21:25:35 | その他
 5つの短編連作。花の名前をタイトルに冠した。いずれも30代の女性の話。「あんまり好きで。好きだから、ひとりぼっちになってしまう。」という帯のコピーがなんとも秀逸。まさにそんな気分が描かれてある。最初の3つが好き。でも、だんだんつまらなくなる。4つ目からタイトルロールの5つ目はなんだか狙い過ぎているようで、そこが鼻につく。家出した妻からのメールの話になる『昼咲月見草』は、とぼけた感じが面白いとも言 . . . 本文を読む
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『ノーウェアボーイ』

2010-11-27 20:36:49 | 映画
 これがジョン・レノンという名前の少年でなかったなら、こんなにも胸が熱くはならなかっただろう。これは、どこにでもいる孤独な少年の物語なのだが、彼はやがて特別な存在になる。世界中の誰もが知る。  1950年代、リバプール。その時、彼は、まだ何ものでもない。別に目立つところもない。普通の少年だ。母親も父親もいない。伯父さんと伯母さんに育てられ、ほんの少し不良で、でも、そんな少年は、世界中に掃いて棄て . . . 本文を読む
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札幌ハムプロジェクト『サンタめん』

2010-11-24 22:51:55 | 演劇
 全国30か所をワゴン1台でまわるという壮大なプロジェクト。札幌での前哨戦から始まり、ツァーは8月25日の旭川を皮切りにして、本日の11月24日大阪まで、続いた。その壮大な試みを当日配布されたパンフを見て知る。そして、感心する。これはとても無謀な企画だ、という気もするが、彼らは無理せずきちんと計画的にこの企画を推進する。今回で4度目のツァーらしい。初回の5都市、2年目10都市、3年目には20都市。 . . . 本文を読む
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三浦しをん『まほろ駅前番外地』

2010-11-24 22:25:48 | その他
 『まほろ駅前多田便利軒』に続くシリーズ第2作。前作に登場した傍役が、今回は主人公となったスピンオフのエピソードを4編含む計7編からなる短編連作。前作の続編であるだけでなく外伝でもある。  まぁそんな事、別にどうでもいい。多田と行天のコンビにまた会えるだけで嬉しい。彼らがまた一緒にどうでもいいようなことに(でも、それが仕事で、仕事をこなすうちにいろんなことに突きあたる)関わり、さまざまな人たちと . . . 本文を読む
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ともにょ企画『レイク横』

2010-11-22 22:43:29 | 演劇
 このなんとも不思議なタッチに魅了された。だいたいこのタイトルも変。普通なら『レイクサイド』でしょ。  ドタバタ劇になりそうな話なのに、やけにテンションが低い。というか、体温が低いのだ。どちらかというとテンションは高いかも。だが、暑苦しくはならない。というか、そうはしない。変に醒めている。過激な話が展開するのに、それがエスカレートしていくのではなく、なんだか自然に横すべりしていく。急に話がずれて . . . 本文を読む
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May『晴天長短』

2010-11-22 21:45:14 | 演劇
 今からほんの少し前、きっと作、演出の金哲義さんが高校3年生だった頃。朝鮮高級学校の運動会。秋の1日のスケッチ。それをノスタルジックで、感傷的なものとして語るのではない。ただありのままに描くのだが、それが胸にしみてくる。この甘酸っぱい感触に胸が締め付けられるのだ。かつて、こんな風にしてみんなが一つに寄り添って生きていた頃があった。これは日本人よりもずっと血の絆を大切にする朝鮮人だからこそ、そして、 . . . 本文を読む
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劇団 息吹『春、忍び難きを』

2010-11-22 21:37:03 | 演劇
 なんと3時間に及ぶ作品である。なのに、事前に調べもしないで、2時間半くらいで終わると踏んで、次の予定を入れていたので、途中で劇場を出なくてはならなくなり、とても困った。これがつまらない芝居なら何の未練もないのだが、こんなにも力のこもった作品なのである。中座するのが,なんとも忍び難かったし、最後まで見たかったが、どうしようもない。残念だった。だいたい斉藤憐による大河ドラマなので、長いかも、と事前に . . . 本文を読む
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中島桃果子『夕日に帆をあげて、笑うは懐かしいあなた』

2010-11-22 21:05:21 | その他
 なんとも不思議な小説だ。ただの可愛いラブストーリーだろうと思い読み始めたのに、摑みどころのない幻想小説で、時空を自在に超えて自分と母親が旅をする。しかも、自分が母親になり、母親のもとにいる幼い頃の自分の中に今の自分が入り込んだり、もちろん夢の話だから、なんでもありなのだが、あまりに自在すぎて、どう読めばいいのやら、とまどうばかりだ。  記憶の中や、妄想の中が、ごっちゃになり、30 . . . 本文を読む
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酔族館『ウルトラの子』

2010-11-21 22:57:19 | 演劇
 久々の酔族館の新作だ。公演スタートの1週間前(見に行く予定日の2週間前)に予約の電話をしたら、「もう、全公演完売です」と言われて驚く。彼らのアトリエでの初めての本公演。JR鴫野から10分。住宅街に中にある。  この圧倒的な狭さが魅力だ。なんと定員25名。2週間で土日4日、4ステージ上演なので、最大100名しか見ることができない。そういうことなら、完売は当然のことだろう。見たくても見れない、とい . . . 本文を読む
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小路幸也『リライブ』

2010-11-21 22:41:02 | その他
 7篇からなる短編連作だ。死ぬ直前、その人の前に現れるバクと名乗る存在。彼は(それは目には見えない存在で、意識に働きかけるので「彼」というのは少し変かもしれないのだが)もう一度、ある時点から人生を生き直すことを持ちかける。そのかわり、交換条件として、自分が過ごした最初の人生でのやり直す前の記憶を貰うという。  この設定のもとで生き直す人たちの、その顛末が描かれていくことになる。最初のエピソードに . . . 本文を読む
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売込隊ビーム・プロデュース『アイスクリームマン 中産階級の劇的休息』

2010-11-20 08:18:13 | 演劇
 表面的には軽妙なドラマに見えて、その底に流れるドロドロしたものは、とても厭らしくて、重いドラマだ。地方にある合宿制の自動車教習所を舞台にした若者たちの人間模様が描かれる岩松了の92年作品。この作品は11年前に太陽族、岩崎正裕さんの演出により一度、見ている。あれとはまるでタッチの違う作品になる。それを期待して見た。  今回、横山拓也さんに求められたのは、「軽さ」である。そのために役者たちはいささ . . . 本文を読む
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吉田修一『空の冒険』

2010-11-18 20:18:30 | その他
 機内で何度か読んだことがある。吉田修一がこんなとこに連載を持ってるのか、と感心して読む。最初、ANAの機内誌「翼の王国」のかたすみにこの文章を見つけた時なんだか、嬉しい気分になった。得したようだった。こんなところで、吉田修一が読めるなんて、と。旅の始まりにぴったりの軽くて、なんだか心弾むそんな短編だった。今回まとめて読んでみて、改めて、この旅立ちの予感に心ときめいた。  一つ一つのお話はたわい . . . 本文を読む
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