この尋常ならざる暗さをひきずったまま、最後までフラットな芝居を作る。初めて稲田真理さんの芝居を見たのだが、この持続する緊張感に完全にノックアウトされた。
感情はギリギリまで、高まるが、境界線を超えない。その直前で踏みとどまる。この手の芝居(まぁ、映画でも小説でも同じだろうが)は、クライマックスにカタストロフィーがあるというのが、スタンダードなパターンなのだが、この作品はその轍を踏まない。抑え . . . 本文を読む
読みながら、かなりドキドキした。どこまでこの不快感を持続するのか。明良は、自分の感情をどこまでも押し殺して「いい子」を演じ続ける。生まれた日に父が死に、父親の生まれ変わりとして生きることを義務付けられた。そして、それを受けいててきた。それは主人公である彼だけではなく、母も兄も同じだ。この平穏なフリをして、暮らす家族3人の姿を見ていると、やがて来る破局が、どこにあるのか、いつなのか、不安になる。
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原作が出版された時、すぐに読んだのだが、あれは大概な小説だった。あの桐野夏生によるドロドロの世界を、篠崎誠はなんともカラッとして、あっけらかんとした映画に仕立てた。ストーリーは基本的に同じだ。でも、描き方の違いで、まるで印象の異なる別世界を作り上げる。
ここまで、冗談のような軽さで、こんなにも過酷な状況を見せられるとは、思いもしなかった。原作で描かれたさまざまなサバイバルが、この映画では、た . . . 本文を読む
先週読んだ劇団ひとり『晴天の霹靂』もそうだったが、タイムスリップもののパターンはもう出尽くしたのではないか、なんて思われるくらいに、最近は陳腐なものばかりと遭遇する。今回のこの冷凍睡眠で30年後の未来に行く少女の物語を読みながら、あまりドキドキしない自分にがっかりする。この手の話にはもううんざりしている。
しかも、この小説は、最初の100ページくらいまでが導入で、30年後の世界に彼女を送り込 . . . 本文を読む
久々に時間が出来たから、映画でも見に行こうと思ったのに、見たいと思える映画がない。新鋭ノ・ヨンソク監督の『昼間から呑む』が見たかったのに、冗談ではなく、昼間の2時半一回だけの上映で、断念した。単館系劇場は地味な映画ばかりだし、しかも時間設定がばらばらで、とても見に行ける状態ではない。しかたなく、今、日本の劇場の3分の1くらいの劇場で公開されているこの作品を見ることにした。これなら、いつでもどこで . . . 本文を読む
雨の日に見た少女の感傷。それを感覚的に捉えて、ドラマ化した。細原愛美さんの処女作。理詰めでいくと、とても詰めの甘い芝居なのだが、それはそれでいい。作者の感性を大事にしよう。彼女の切なる想いが、この作品の底にはしっかりと流れている。
いささかセンチメンタルすぎるそれを、出来るだけ大事に尊重し、そのままを舞台化しようとした演出の浦部善行さんの意図もよくわかる。大人目線で描くのではなく、彼女の目線 . . . 本文を読む
3度の舞台化を経て、自らの手で実写としての映画化も為された本作品を、さらにもう一度、芝居として作り直しての公演である。劇場のサイズや、さまざまな状況に合わせて、その都度改訂を加え、いくつもの視点から対馬丸の悲劇を見つめ直して、上演してきた。そして、今回もまたこの空間に合わせ台本の改稿が為された。これは再演ではない。ヴァージョン・アップされた新作だ。齋藤勝さんにとって、これは、文字通り、ライフワー . . . 本文を読む
これはとても難しい題材だ。それを片岡百萬両はとても見事に処理した。アーノルド・ロベールの絵本を原作にして2時間の芝居に仕立てる。簡単そうに見えて、とんでもなく大変なことだ。シンプルなお話をそのまま見せながら、視覚的にも楽しくて、ノーテンキで明るい芝居、だから、当然動きが大きく、ダンスシーンもたくさんあって、誰もが楽しめる。
でも、それだけでは、すぐに飽きてくる。これだけ仕掛けがいっぱいで、ド . . . 本文を読む
このエッセイ集はちょっと普通のエッセイとは違って面白い。詩人で、小説家である彼女らしい文体だ。まるで詩のような文体と、なんでもない身辺雑記が混在し、ところどころは独りよがりの日記みたいだったりもする。
最初は、こんなのを読んでも時間つぶしにもならないなぁ、と思ったのだが、読んでるうちにこのどうでもいいタッチがなんだか心地よくなり、でも、ずっとそのまま読んでも、なんの意味もないから、少し読んで . . . 本文を読む
『800』の川島誠の4年振りの新作だ。進学校の通う高校3年の男の子が主人公。これは、彼の、春から夏の終わりまでの物語だ。最後のインターハイ予選、5千メートルで、南関東大会に出場する。でもこれはこの大会をクライマックスにした熱血青春小説、なんかではない。彼の小説は『800』の頃と同じで、スポーツを扱いながらも、スポコンにはならないし、こんなにも体温の低いスポーツ小説はないのではないか、と思わせる。 . . . 本文を読む
前作が面白かっただけに、この続編がとても楽しみだった。2部作として最初から企画されたTV局製作の商業映画だが、娯楽大作としての矜持を守り、大作映画の王道を行くものになればいい、と期待した。それだけにこの出来の悪さには閉口する。
大風呂敷を広げた以上、きちんと納得のいく終わらせ方をしなくては、詐欺だ。なのに、これではまるで、なんの答えにもならない映画である。どこが、パーフェクト・アンサーですか . . . 本文を読む
読みやすい小説だ。なんと通勤の1往復分の電車の中だけで、ほぼ読み終えてしまった。230ページが1時間半くらいなのである。いくらなんでもそれは早すぎる。要するに、それくらいにこれが読みやすいってことだ。それで面白かったなら、いいのだが、早いだけに、中身も薄い。こういうどこにでもある話をなんの仕掛けもなく見せられてもなんとも思わない。泣かせる話だし、それなりには読ませる。悪くはないが、それだけだ。
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有川浩はとても上手い。彼女はこういう小さな物語を小さなままできちんとまとめる。それって、簡単そうに見えてけっこう難しいことなのだ。身の丈にあった作品を作ること。それは『阪急電車』の時にも、感じた。先日あの小説の映画版を見てがっかりした理由は、突き詰めると、あそこにある小さなお話を、大きな映画にしてしまったからなのだ。豪華キャストによる大作映画ではなく、たとえそういう構えでも映画自体はとてもささや . . . 本文を読む
こんなマイナーなタイトルの映画が作られるなんて、驚きだ。さすがにこのままでは全国一斉公開なので、説明のために『片道15分の奇跡』なんていうサブタイトルを用意したが、あまり意味を成さない。
まず、原作自体がそうなのだが、こんな風に特定の企業名を冠にした小説というのが、そもそも凄い。しかも、阪急の今津線である。せめて舞台は宝塚線くらいにして欲しいが、作者の有川浩が住んでいるから、という理由でこう . . . 本文を読む
流山児祥と北村想、この道40年のベテラン2人が四つに組んだ大人の2人芝居。見ていて、ほっとさせられる。余裕をもって、ギリギリの芝居をしている。小手先ではなく、全力投球である。だが、それは、持てる力のすべてを出す、というのではない。自分たちのありのまま、自然体で、この役を受けて立つ、という感じだ。2人のそれぞれの持ち味を生かしながら、3分1は即興で、残りは台本に書かれたものを、それぞれきちんと呈示 . . . 本文を読む