習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『エレニの帰郷』

2014-01-29 20:43:12 | 映画
テオ・アンゲロプロス最後の映画である。もう僕たちは新しい彼の映画を見ることはかなわない。事故による死なのだから、これは遺言ではない。しかし、彼の遺した最後の仕事としてこの作品に接すると、これがまるで彼からの遺書のようにも見えてくる。 この映画は彼の見た20世紀という時代の総括だ。そして21世紀に向けてのメッセージとも受け止められる。ヒロインのエレニ(イレーネ・ジャコブ)は、帰るべき家を見失っ . . . 本文を読む
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『オンリー・ゴッド』

2014-01-29 20:40:30 | 映画
 こんなのは映画ではない、と憤慨してもよい。それくらいにあらゆる意味で過激だ。映画としてのバランスなんて欠いている。90分という常識的な上映時間は、実はまやかしだ。この何も起こらない静かな映画をずっと見続ける時間は2時間にも3時間にも感じられる。永遠に同じようなフラットな時間に飲み込まれる。  だが、そこにいきなり何の前触れもなく、暴力シーンが現出する。残酷で目を覆いたくなるような描写だ。説明も . . . 本文を読む
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阿部和重『Deluxe Edition』

2014-01-29 20:35:44 | その他
 阿部和重の小説は苦手だ。今回は短編集で、とても読みやすかったけど、だんだんこの生理的不快感にいたたまれなくなる。残酷な描写や内容が生理的に無理というわけではない。だが、こういう気取った距離感の取り方が好きになれない。  9・11から3・11以降の時事的な問題を扱う。世界が今どうなっているのか。この小説の描くところも、興味深い。でも、この突き放したようなタッチが嫌い。シュールなタッチでクールでブ . . . 本文を読む
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青い鳥『ちょっと、でかけていますので→』

2014-01-28 22:56:57 | 演劇
 20年先を想像する。今回の青い鳥は、80代の姉妹のお話だ。85歳の姉と80歳の妹。たったふたりになってしまった。身寄りはないのか。そのへんはよくはわからないけど、2人は仲よく施設に入っている。きょうは(というか、「きょうも、」というか)ちょっとお出かけ。  青い鳥は昔から老人を描くのが大好きだったけど、自分たちが60代に突入して改めて身近な問題として「お年寄り」がテーマとして再浮上。でも、そこ . . . 本文を読む
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『愛してる、愛してない』

2014-01-28 21:53:30 | 映画
『アドリブ・ナイト』『素晴らしい一日』のイ・ユンギ監督作品。原作は井上荒野の短編小説。登場人物は、ほぼ2人のみ。舞台は、ほぼ家の中のみ。時間は、ほぼ1日のみ。限定だらけのドラマだ。そういう枷がこの映画の条件である。この条件の中でこのドラマをどう見せるのかが、監督の腕の見せ所。しかも、気持は、ほぼ、語らない。お互いに本音は言わない。彼女が去っていく日。その日は、ずっと雨が降っている。2シーンだが晴 . . . 本文を読む
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真紅組『Bar あの夜 Ⅱ』

2014-01-27 23:50:15 | 演劇
前作は見ていないので、これが初めてになる。真紅組の番外公演。こういう軽いタッチの芝居も悪くはない。渾身の力作である前作『おしてるや』の後、ちょっとした息抜きとしての作品だ。だが、こういう軽い作品にも、総力を結集させる。これは手を抜いたお気楽な作品ではない。でも、肩肘張ったものではもちろんない。飲み物片手に笑いながら楽しめる。でも、その中に阿部さんの考え方や感じ方がちゃんと滲み出てくる、そういう作 . . . 本文を読む
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青年団『もう風も吹かない』

2014-01-27 23:47:34 | 演劇
まだ1月も終わっていないのに、今年のベストワンはこの作品に決定した。ここ数年間に見た芝居の中でこれが一番だ。見ながら、こんなにもドキドキしたのは久しぶりのことだ。10年ほど前に平田さんが学生のために書いた作品の再演である。学生たちによって演じられたものを、今回は青年団のメンバーによる完全版として提示する。 初演から10年で、ここに描かれる日本と世界をめぐる状況はよりリアルなものになった。20 . . . 本文を読む
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『BUNGO ささやかな欲望』

2014-01-26 22:21:55 | 映画
それにしても、これはすごい企画だ。今の「日本映画」はいろんな意味で次から次へとありえない企画を繰り出してくる。企画の貧困さが、思いもしないものを生む。でも、大丈夫か、と心配にもなる。これは6本の短編からなるオムニバスだ。「文豪」と呼ばれるような作家の短編を映画化し、それは3本ずつに分けて劇場公開した。誰がそんな映画を見たいと思うのだろうか。 これは明治(だけではないけど)の文豪たちの短編小説 . . . 本文を読む
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アリス・マンロー『イラクサ』

2014-01-26 22:03:07 | その他
こんなにもどうでもいいようなことを(でも、本人たちにとっては大切なこと)こんなにもそっけなく、でも、丁寧に綴っていく。特別なドラマなんてほとんど何もないのに、読み流してしまったら、後には何も残らないほどなのに、じっくりと舐めまわすように、味わいながらゆっくりと一語一語読んでいくと、とてつもない深い味わいが湧いてくる。 人生って残酷で美しい。使用人の女と放蕩息子(死にかけ)の恋を、娘たちの気ま . . . 本文を読む
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『ただ君だけ』

2014-01-24 22:11:32 | 映画
こういう古臭い映画はもう作られないのかと思ったが、なんのなんの、どんどん韓国では作られているようだ。60年代の日活ニューアクションのような作品だ。ありえないようなくさい展開を堂々と見せる。もちろん主役は、裕次郎や旭にしかできない。だから日本ではもう作られないし、作ったとしてもお笑い草だ。でも、韓国は違う。ガチで作ってしまうし、ちゃんとヒットさせる。そのパワーは恐るべし。  映画自体は甘いだけで . . . 本文を読む
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『RUSH プライドと友情』

2014-01-24 22:10:49 | 映画
 ロン・ハワード監督の新作。76年F1グランプリを舞台にして、2人の男たちのドラマが綴られる。これは面白い。こういうよくあるパターンの映画が、正攻法で、どどんと作られるって、いいことだ。でも、今の時代に受け入れられるだろうか。すごい製作費を使って、作られた大作映画なのだが、それが大仰な分かりやすい見せ場ではなく、とても地味な見せ方で描かれる。いかにも、特撮って感じのSF映画ではなく、あくまでも人間 . . . 本文を読む
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森林浴『嫌我焚くて山椒魚』

2014-01-22 23:00:53 | 演劇
 4つの短編からなる連作、ということなのだが、どこからどこまでが一つのエピソードなのかすらよくわからないほど、まとまりのないものとなっている。お話としての整合性を、というか、完結性なのだが、それを敢えて求めていないようなのだ。ストーリーを追いかけていくのではなく、自由に自分の感じたままを、感覚的に表現していくだけ。それがどこに着地するのかも、したのかも、曖昧なまま、終わる。いや、だらだらと続くばか . . . 本文を読む
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『楊家将 〜烈士七兄弟の伝説〜』

2014-01-22 22:53:11 | 映画
 こういう時代劇アクション映画は昔からたくさんある。日本映画の時代劇と同じで、これは中国映画の伝統だ。偉人伝とか、有名な武将の感動ストーリーをすごい予算で映画化するというパターン。でも、これはなんだか古臭いなぁ。とても現代の映画とは思えない。アプローチもそうだし、話の展開がまたそう。どうして今の時代にこういう映画が作られるのか、よくわからない。中国では有名な話なのだろうが、この映画を今見て、得るも . . . 本文を読む
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『ザ・レイド』

2014-01-22 22:35:19 | 映画
こういうむちゃくちゃなアクション映画をおもしろがれるか、どうかって、かなり微妙だ。一昨年、すごい評判になったインドネシアのニューウェーブなのだが、事前の評価の高さが災いしたのだろうが、僕にはあまり面白くはなかった。アクションのすごさは認めるけど、お話がまるでない。だから、だんだん飽きてくる。過激なアクションシーンは、最初は衝撃かもしれないが、徐々に慢性状態になってきて、なんとも思わなくなるのが常 . . . 本文を読む
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椰月 美智子『恋愛小説』

2014-01-20 21:31:23 | その他
 大胆なタイトルだ。椰月 美智子がこの作品の中でどんな恋愛を見せてくれるのか、興味を抱いた。このタイトルで500ページに及ばんとする大作だ。でも、内容は23歳の女が、1人の男を好きになる話で、どこにでもあるよな恋物語。格段凄いことが描かれるわけではない。どちらかというと、わざわざ小説にしなくてもよさそうな、ありふれた話。それを連綿と書きつなげる。  彼女の性にだらしないところは、読んでいて、少し . . . 本文を読む
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