習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

遊劇体『山吹』

2008-06-28 13:34:30 | 演劇
 驚いた。こう来るか!特に後半、女が魔物と化していく瞬間を捉えた部分。これでもか、これでもか、という圧倒的な語りの洪水。彼女の内面を言葉を通して切り込んでいく。自らの言葉が自らを切り込んでいく、この痛ましさ。鏡花の描いた言葉を忠実に聞かせることでこの芝居は命を持つ。ヒロイン(こやまあい)の声を条あけみさんと大熊ねこさんが見せていく。人形浄瑠璃のようにカタチとコトバを分離して見せていく。最初はかなり . . . 本文を読む
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犯罪友の会『髪のほてり』

2008-06-28 11:32:04 | 演劇
 数年見ない間に確実に犯友は変わってしまった。新しい世界観を持ち、新しい方法論のもとに、でも本質は変わらない、そんな芝居をしているのだなぁ、と思わされた。武田さんは丸くなったのではない。きっと今、自由になったのだ。こうあらねばならない、という考え方から、どんなふうにしても自分らしいものを提示できる、という自由自在な境地に達したのではないか、だなんて。そんなことを思わされた。  フライヤーのタッチ . . . 本文を読む
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『神さまのパズル』

2008-06-28 10:48:06 | 映画
 こんなにもぶっこわれててしまった映画は滅多にない。あまりの凄さに衝撃なんて通り越してしまって、これは最後はいったいどうなってしまうのか、心配になってしまった。ドキドキハラハラとはこの映画のためにある言葉だ。完全に空中分解してしまうのではないか、と確信させる異常さである。最後まで見て、一応安心はしたが、でもこの異常は尋常ではない。  三池崇史はいつもながらやんちゃだ。映画の常識なんて屁とも思わな . . . 本文を読む
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きづがわ『美ら海』

2008-06-28 09:09:14 | 演劇
 とても真面目な芝居である。沖縄の現実がしっかりわかりやすく描かれている。海上基地建設抗議活動の座り込み集会を通して様々な問題が浮き彫りされてくる。  老人たちが先頭を切って反対運動をしていること。戦中、戦後、返還。節目節目はあるが、常に虐げられて犠牲になってきた歴史を生き抜いてきた老人たち。彼らの思いを核にして、芝居は綴られていく。中心になるのは沖縄辺野古の宮城家と大阪の中根家。ふたつの家族を . . . 本文を読む
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『山のあなた 徳市の恋』

2008-06-28 09:06:12 | 映画
 石井克人監督の『茶の味』は傑作である。あんなに凄い映画を撮った人がその後『ナイスの森』のような呆れたおおバカ映画を平気で撮る。なにがなんだか分からない。そのへんもまたこの人の凄さかもしれない。  今回、清水宏監督が昭和16年に撮った映画をリメイクするというこんなぶっ飛んだ企画を実現してしまったことに対して、僕は驚かない。この人ならなんでもやる、ともう最初からわかっているからだ。だが、それにして . . . 本文を読む
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劇団往来『セチュアンの善人』

2008-06-23 23:12:24 | 演劇
 3時間に及ぶ超大作。ブレヒトの戯曲を劇団往来がいかに消化していくのか。楽しみだった。仕上がった作品は「さすがベテラン劇団!」と唸らされるくらいに手馴れたものになっていて感心させられた。軽妙なタッチで「善とは何か」を問いかけてくる。正しい行為が人を救うとは限らない。人は他人の善意につけ込んで甘い汁を吸う。結局、人のよい人間は騙されて、利用されて、酷い目にあうこととなる。  善人であろうとしたシェ . . . 本文を読む
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浪花グランドロマン『メイズ 隼ブラインド』

2008-06-23 22:45:05 | 演劇
 新アトリエ(船場ユシェット座)を使った実験公演。(チラシには試演会とある)4月に杮落としをしてさっそく今回の公演を打つというフットワークの軽さが素晴らしい。この作品はこれからのNGRの新しい可能性を端的に示す小佳作である。  空間の使い方が前回よりも数段いい。新戦力を試すための公演のようだが、まず、50分ほどの中篇というなかなかふつうなら難しい尺数のものを提示できたのがいい。これ . . . 本文を読む
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『インディージョーンズ クリスタルスカルの王国』

2008-06-23 22:16:20 | 映画
 なんと19年の歳月を経てインディージョーンズの最新作の登場である。今から27年も前、第1作をこのナンバTOHOシネマズの前身である南街劇場で見た。あの時も公開に初日、朝早くから並んで見たことを覚えている。  今日公開初日に駆けつけたのは偶然だし、ナンバTOHOで見たのもたまたまだが、なんだか、運命的なものを感じてしまった。まだ、学生の頃、映画が大好きでスピルバーグの新作に心ときめかせていた頃が . . . 本文を読む
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『西の魔女が死んだ』

2008-06-20 23:57:33 | 映画
 とてもいい映画だと思う。長崎俊一監督は感傷的なメルヘンにすることもなく、とてもリアルなものとして、このお話を見せようとする。ファンタジー的要素は多分にある。そこに甘えて口当たりのいい映画にまとめてしまう方が、観客のニーズに応えることになる、ということは重々わかっている。しかし、この映画にはそんな妥協は一切ない。  13歳の少女の過酷な現実とむきあい、逃げてきたこの場所(田舎のお婆ちゃんのところ . . . 本文を読む
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劇団大阪『月の砂漠』

2008-06-20 22:24:03 | 演劇
 山田太一のドラマを見ているような始まり方だ。だが、事件があまりにてんこ盛りになりすぎて芝居自体がそれらをきちんと消化できないまま先に先にと進んでいく。これでは家庭内に起こる事件のショーケースである。しかも、連続していくことにより収拾がつかなくなっていくという事態を見せていくにしてはタッチがシリアスすぎる。  現実の家庭では、ここまでモデル化したことがすべて起きていくわけがないし、もしそんなこと . . . 本文を読む
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よしもとばなな『サウス・ポイント』

2008-06-20 22:14:41 | その他
 かって好きだった幼なじみの少年。お互いにあんなに愛し合っていたのに、別れてしまった。初恋の淡い思い出が、大人になった今、もう一度帰って来る。誰かが彼に送った手紙を歌にして歌っている。だから、彼女は探し始める。  よしもとばななの新作は、またハワイが舞台だ。彼女は今自分が興味を持っていることをそのまま小説にする。昔からいつもそうだ。まぁ、誰もがそんなふうにして書いているのだろうが、それにしても彼 . . . 本文を読む
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『ブレス』

2008-06-18 23:24:55 | 映画
 『うつせみ』『サマリア』を頂点にして、キム・ギドクは緩やかなパワー・ダウンを続けている。誰だってずっと凄い映画を作り続けることは出来ない。そんなことはわかっている。しかし、もっと、もっと、と願うのもファンの正直な気持ちだ。あの『うつせみ』は奇跡の映画だとは思いたくはない。彼ならもっと凄い風景を見せてくれる。ホウ・シャオシェンが『恋恋風塵』を超えることが出来なかったように。チェン・カイコーがデビュ . . . 本文を読む
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劇団未来『風薫る日に』

2008-06-18 22:54:36 | 演劇
 こういう真面目な演劇をきちんと見せようとする姿勢は素晴らしいことだと思う。創立45周年を迎えた(先日の劇団息吹も50年だった)関西アマチュア劇団の老舗、劇団未来の新年の籠った自信作は、見に来たお客さんたちのハートをしっかり摑んだことであろう。  正直言って僕にはこれが時代のニーズに応えた芝居だとはとても思えない。しかし、ずっと自分たちのスタイルを守り続け、40年以上途切れることも . . . 本文を読む
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『幻影師アイゼンハイム』

2008-06-13 23:53:35 | 映画
 去年のクリストファー・ノーラン『プレステージ』はそのアホ過ぎるオチに驚愕したが、今回のこの映画の甘いラストも、なんだか納得がいかない。マジックを題材にした映画なんてけっこうめずらしいが、それは仕掛けがどんなに凄くても映画としてそれを見せられると、あまり刺激的ではないからだろう。やっぱりマジックってライブでしょ。目の前で現実に起こっているとてつもないことを、騙されないように、目を皿のようにして見つ . . . 本文を読む
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小川糸『食堂かたつむり』

2008-06-13 23:33:58 | その他
 1日1組しか客をとらない食堂。事前にお客に来てもらいじっくり面談したうえで、レシピを考える。相手のためだけのオリジナルメニューの料理を考え、誠心誠意のおもてなしをする。ここで食べるだけで、人を幸せにする。そんな料理。それは自分の喜びのための料理でもある。お金儲けのためではない。今、ここで生きているということを実感するために働いている。自分の店を持ち、自分の持てる力を最大限に発揮して生きる。   . . . 本文を読む
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