ゆうわファミリーカウンセリング新潟 (じーじ臨床心理士・赤坂正人)     

こころと暮らしの困りごと・悩みごと相談で、じーじ臨床心理士が公園カウンセリングや訪問カウンセリングなどをやっています。

小倉清『児童精神科ケース集-小倉清著作集別巻1』2008・岩崎学術出版社-正直さのちからに学ぶ

2024年03月07日 | 子どもの臨床に学ぶ

 たぶん2015年ころのブログです

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 小倉清さんの『児童精神科ケース集-小倉清著作集別巻1』(2008・岩崎学術出版社)を再読しました。

 この本もかなり久しぶりの再読になってしまいました。

 いい本なのにもったいないというか、全くの勉強不足です。

 内容は11の症例報告と1つの公開ケーススーパーヴィジョンなどですが、やはりいずれも相当に「熱い」です。

 症例は多少の失敗も含めて、正直にていねいに検討がなされていて、とても参考になります。

 いい治療者というのは、本当に正直に失敗を含めて報告し、検討をするのだな、と改めて尊敬をさせられます。

 症例全体を読んで感じたのは、家族との関係がうまくいった症例で予後がいいな、ということ。

 症例の病理の深さによって仕方がないことだと思うのですが、家族の抵抗に遭い、治療が困難になるケースが多いようです。

 じーじも家庭裁判所で仕事をしている時に同じ印象を持ちましたが、病理の深い事例では家族との連携が難しく、事案の解決が困難になりやすい傾向があると思います。

 しかし、家族も悩んでいたり、不安に陥っているのも事実であり、そういう家族をも含めた援助が大切になるのだろうなと思います。

 一方、公開ケーススーパーヴィジョンもすばらしい内容です。

 こららは、ケース提供者が小倉さんで、スーパーヴァイザーがなんと小此木啓吾さん。

 1973年の精神分析学会での企画の報告です。

 小此木さんはじーじも調査官研修所でお話を聞いたことがありますし、このブログでも何冊かの本を紹介させていただいていますが、この頃から切れのいいご指導をされていたようで、このスーパーヴィジョンでも、明確化の質問や質問の仕方、タイミングがみごとで参考になります。

 小倉さんも正直な返答を返し、小此木さんと小倉さん、そして周りの方々も含めて、一つのケースがだんだんと解明される様子は読んでいて本当に感動的です。

 正直で、ていねいな臨床家の見本を間近に見るようで、自分も心して臨床に臨んでいきたいなと思いました。    (2015?記)

     *

 2021年秋の追記です

 正直、というのは、臨床家にとってすごく大切だって思います。

 失敗を正直に報告することだけでなく、カウンセリングの中で自分がどんなことを感じているかとか、どういう気持ちになっているのかに正直でないと(それを言葉にするかどうかはまた難しい議論になるのですが)、カウンセリングがうまくいかないように思います。

 奥が深い世界です。   (2021.9 記)

 

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金平茂紀『ロシアより愛をこめて-あれから30年の絶望と希望』2023・集英社文庫

2024年03月07日 | 随筆を読む

 2023年秋のブログです

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 金平茂紀さんの『ロシアより愛をこめて-あれから30年の絶望と希望』(2023・集英社文庫)を読む。

 2023年9月25日発行の新刊(えっへん!)。

 金平さんは、現在は早稲田大学大学院の客員教授だが、ご存じのように、ほんの少し前までTBS「報道特集」で活躍をされていた(金平さんのさまざまな記者会見の場での質問風景が鋭くてすごいのが今も記憶に新しい)。

 その金平さんが30年前、1991年3月から1994年6月の間、TBSのモスクワ支局長をしていた時の記録(『ロシアより愛をこめて-モスクワ特派員滞在日誌1991-1994』1995・筑摩書房)に、2022年のロシアのウクライナ侵略直後の現地での記録と、その後のロシア訪問の記録をまとめたもの。

 これが面白く、かつ、哀しい。

 30年前のロシアは、ソ連が崩壊し、ロシア共和国が出発した時期だが、治安が悪く、泥棒が横行している最低の国。

 賄賂も常習的で、先進国とは言い難い。

 米ソ2大大国の幻想が崩れているのに、しかし、ロシアの政治家は大国主義を捨てられない。

 そして、国民や、さらには、モスクワ支局のロシア人スタッフもそんな現状を仕方ないと考えている。

 金平さんは、そんな状態を見て、ロシアの人たちは、皇帝の支配、共産党の支配、共和国政府の支配が続いてしまって、そんな状態に慣れてしまっている、と考える。

 その後に登場するのがプーチン大統領。

 自らの誇大な大国幻想を振り回し、国民をも巻き込んで、周囲の国々に侵攻し、ついには、ウクライナ侵略に至る。

 ロシアのウクライナ侵略開始直後の「報道特集」はじーじもライヴで見たが、緊迫したすごい映像だった。

 なんども防空壕に避難しながらの映像は貴重な記録だ。

 しかし、その後のモスクワ訪問で見た人々。

 生活はそこそこ普通で、ウクライナの侵略も「特別軍事作戦」という局地的な紛争と考えているらしい、と金平さんには見える。

 ともかく、殺し合いはやめてほしい、という金平さんの願いは叶うだろうか。        (2023. 10 記)

 

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