ゆうわファミリーカウンセリング新潟 (じーじ臨床心理士・赤坂正人)     

こころと暮らしの困りごと・悩みごと相談で、じーじ臨床心理士が公園カウンセリングや訪問カウンセリングなどをやっています。

黒田章史『治療者と家族のための境界性パーソナリティ障害治療ガイド』2014・岩崎学術出版社

2024年03月14日 | 精神療法に学ぶ

 2015年のブログです

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 黒田さんの『治療者と家族のための境界性パーソナリティ障害治療ガイド』(2014・岩崎学術出版社)を読みました。

 いい本です。

 境界例の治療に詳しい黒田さんの丁寧な実践が紹介されていて,とても参考になります。

 こまやかで温かく,かつ冷静な黒田さんの面接はすごいと思います。

 実は,じーじの記憶に間違いがなければ,黒田さんがだいぶ以前に家族療法学会にデビューされた時に,たまたまその発表の場に私もいました。

 黒田さんが哲学者のヴィトゲンシュタインさんの考えをもとに境界例の患者さんの治療について発表をされ,その丁寧で刺激的な内容にずいぶん感心させられました。

 そしてその会場にいらっしゃった下坂幸三さんが,いつもは厳しくてとても怖い先生なのですが(下坂さん,ごめんなさい),黒田さんの発表を大絶賛をされたことをとても印象深く覚えています。

 その後,黒田さんは下坂さんらと一緒に勉強をされ,その成果が本書につながっているのだろうと思います。

 今後も時間をかけて学んでいきたい本だと思いました。   (2015.5 記) 

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 2021年冬の追記です

 今、考えると、境界性パーソナリティ障害のかたも、白か黒かにはっきりさせないと落ち着かないかたがたで、あいまいさに耐えることが苦手なかたがたなんだな、と思い当たります。

 ビオンさんのいうあいまいさに耐える能力、消極的能力の大切さが理解できるような気がします。   (2021.2 記)

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 2023年秋の追記です

 ヴィトゲンシュタインさんにはその後も何度かチャレンジしているのですが、やはりなかなか難解です。

 ただ、なにか大切なことを書かれているらしいことは感じられます。

 今後も勉強していこうと思います。    (2023.9 記)

 

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佐伯一麦『空にみずうみ』2018・中公文庫-震災4年目の日常をていねいに描く

2024年03月14日 | 小説を読む

 2018年夏のブログです

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 佐伯一麦さんの『空にみずうみ』(2018・中公文庫)を読みました。

 読売新聞夕刊に2014年6月から2015年5月まで連載されたとのことで、震災4年目の日常生活がていねいに描かれます。

 佐伯さんはじーじより五つ年下の仙台出身の作家さん。

 じーじは、高校生の夫婦を描いた『ア・ルース・ボーイ』(1994・新潮文庫)を読んでファンになり、以来、寡作な佐伯さんの小説を時々、読んできました。

 時々、というのは、小説の主人公が仕事のアスベストで健康を害し、生活に苦しみ、離婚を経験するという流れがじーじには少し辛くて、読めない時期もあり、小説の中で主人公が再婚をしたあたりから、少し穏やかな生活になって、その頃のお話から安心をして読めるようになったといういきさつがあるからです。

 もちろん、本作でも、震災の影はいたるところにあって、決して安穏ではないのですが、主人公夫婦は周囲の友人たちと一緒に落ち着いた生活を送り、その落ち着きが読者のこころの落ち着きをも誘います。

 庭の草花、虫たち、公園の木々、動物、猫や犬、そういったささいなものたちが人々とともに暮らしていることがわかります。

 その「普通」さがとても平凡ゆえに、震災の経験を経ると、それらがとても貴重なものに思われてきます。

 大きな事件は起きませんが、不思議とこころが落ち着く、良質な小説です。

 とくに、人生のいろいろな経験を経てきたやや年配の人たちには頷けるところが多い小説だと思います。

 そして、経験の中で見落としてきたかもしれない「普通」の良さ、大切さを再確認できるかもしれません。

 いい小説が読めて、幸せだな、と思います。    (2018.8 記)

 

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