伊勢佐木町、真金町、南京街ーーーー
そして、闇市、進駐軍、愚連隊ーーーー
港ヨコハマは若い男達にとって刺激で一杯だった。
「ゆうべ、南京街で愚連隊と朝鮮連中がぶつかったらしいが、誰か詳しいこと知ってるか?」
愛友丸に戻った機関長の松さんが、お茶を飲みながら仲間に聞いた。
「林のところの若い連中らしいですよ。春樹が慶重で仲間とメシを食ってるところへ、川崎の朝鮮連中が乗り込んできて暴れたらしいです。春樹が相手のアタマ(リーダー)のキンタマを蹴り上げて、のけぞったところを胸板に空手を入れたら、相手は気を失ってぶっ倒れたらしいです。5人ほどいた手下が、慌ててアタマを担いで逃げて行ったらしいですがね。一人はビッコを引いてヨタヨタと逃げていったらしいですぜ」
健さんがタバコをくゆらせながら、面白そうに言った。
《そうか、あのビッコの男は朝鮮人だったのか。俺はすっかり騙されてしまった・・・・》
耕一は、呆然としながらその話を聞いていた。
「まあ春樹ならそのくらいはやるだろうな。しかし、あまり無茶やってるといずれ痛い目にあうかもな・・・・」
「そうですね、だけど、わしももう少し若かったら、あいつらと一緒に暴れてるね」
「ははははーーー、健さんも血の気が多いからな・・・・。さてと、出航の準備に取り掛かるか」
松さんはそう言うと、イスから立ち上がって食堂から出て行った。
愛友丸の男達のヨコハマでの楽しい休暇は終わった。
生麦沖に停泊しているこの愛友丸に、夜になればまた闇物資が積み込まれる。
さて、今度はどこの港を目指すのか・・・・。
日本列島の秋が過ぎ、冬が来た。
12月下旬、愛友丸はその年最後の航海を終えて横浜へ帰ってきた。
最後の航海先は気仙沼だった。
耕一は、たくさんの食料を抱えて明子のところへ行った。
明子は、東北の女らしく忍耐強く静かに暮らしていた。
耕一と明子は、お互いのそれまでの孤独な寂しさを温め溶かすように、熱い身体をぶつけ合い、抱き合い、求め合った。
翌日、吹雪の中を出航する船を、明子は波止場で手を振って耕一を見送った。
クリスマスの夜、愛友丸は横浜の港に帰ってきた。
愛友丸の仲間達は年末年始を家族と過ごすため、それぞれの実家へ帰って行った。
家族のいない耕一はどこへ行けばいいのか・・・・。
耕一が向かったのは真金町だった。
真金町のカフェ・アカネであった。
続く・・・・・・・