クロの里山生活

愛犬クロの目を通して描く千葉の里山暮らしの日々

耕一物語ー遊郭の裏通り

2014-09-07 20:58:12 | 物語

ハマ育ちのアカネは、耕一にはキラキラと輝いて見えた。自分には手の届かない素敵なお姉さまという存在であった。

その彼女が、自分に対して最近何故か意味有りげな仕草(しぐさ)をする。女経験の浅い耕一は、妖しくキラキラと輝くそんなアカネと、どう接して良いかわからない。

コーヒーを飲んだ耕一は、アカネの影を振り払うように立ち上がった。

「おかみさん、ちょっとブラついてくるよ」

「そうかい、帰りは何時頃だい?」

「・・・・たぶん遅くなると思う」

「そうかい、悪い女には気をつけるんだよ」

おかみさんはそう言って耕一を送り出した。

 

真金町の夜の通りを、耕一はブラブラと歩いた。

通りの両側には妓楼が立ち並んでいる。真金町の遊郭は運良く戦災を免れ所で、ほとんどの建物が戦前の風情のまま残っていた。

軒を並べる妓楼の入り口土間には、石油ストーブを囲んだ女達が椅子に腰掛けて通りを眺めている。

そんな表通りの妓楼には、派手な洋服を着て、派手な化粧をしている女達が目立った。

若い耕一は、いかにも商売女風というそんな連中に声をかける気はしなかった。

もっと、しっとりとした風情が欲しいと思った。

心休まる女が良いと思った。

母親のようなぬくもりがする女が良いと思った。

 

 

ブラブラと歩く耕一には、年の瀬の夜風が寒く感じられた。

タバコに火をつけて一服吸うと、耕一は薄暗い路地に入って行った。

耕一は何故か暗い裏通りが好きだった。

今までの彼の生きてきた境遇がそうさせるのだろうか。

しばらく行くと、ぼんやり灯る提灯に、「菊」と書いた小さな妓楼があった。 

中を眺めると、ブリキ缶の焚き火で暖を取りながら、毛糸の編み物をしている女がいた。

《なかなかいい風情だ・・・》

耕一がそんな思いで眺めていると、女が手を止めて耕一を見た。

「あら、お兄さん、良かったら寄っていかないかい。今夜は冷えるから温(あった)めてあげるよ」

 

 

耕一は思わず菊の敷居をまたいでいた。

 

 

続く・・・・・

 

 

 

 

コメント (5)
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