ハマ育ちのアカネは、耕一にはキラキラと輝いて見えた。自分には手の届かない素敵なお姉さまという存在であった。
その彼女が、自分に対して最近何故か意味有りげな仕草(しぐさ)をする。女経験の浅い耕一は、妖しくキラキラと輝くそんなアカネと、どう接して良いかわからない。
コーヒーを飲んだ耕一は、アカネの影を振り払うように立ち上がった。
「おかみさん、ちょっとブラついてくるよ」
「そうかい、帰りは何時頃だい?」
「・・・・たぶん遅くなると思う」
「そうかい、悪い女には気をつけるんだよ」
おかみさんはそう言って耕一を送り出した。
真金町の夜の通りを、耕一はブラブラと歩いた。
通りの両側には妓楼が立ち並んでいる。真金町の遊郭は運良く戦災を免れ所で、ほとんどの建物が戦前の風情のまま残っていた。
軒を並べる妓楼の入り口土間には、石油ストーブを囲んだ女達が椅子に腰掛けて通りを眺めている。
そんな表通りの妓楼には、派手な洋服を着て、派手な化粧をしている女達が目立った。
若い耕一は、いかにも商売女風というそんな連中に声をかける気はしなかった。
もっと、しっとりとした風情が欲しいと思った。
心休まる女が良いと思った。
母親のようなぬくもりがする女が良いと思った。
ブラブラと歩く耕一には、年の瀬の夜風が寒く感じられた。
タバコに火をつけて一服吸うと、耕一は薄暗い路地に入って行った。
耕一は何故か暗い裏通りが好きだった。
今までの彼の生きてきた境遇がそうさせるのだろうか。
しばらく行くと、ぼんやり灯る提灯に、「菊」と書いた小さな妓楼があった。
中を眺めると、ブリキ缶の焚き火で暖を取りながら、毛糸の編み物をしている女がいた。
《なかなかいい風情だ・・・》
耕一がそんな思いで眺めていると、女が手を止めて耕一を見た。
「あら、お兄さん、良かったら寄っていかないかい。今夜は冷えるから温(あった)めてあげるよ」
耕一は思わず菊の敷居をまたいでいた。
続く・・・・・